ローリングストーン誌が選ぶ、2022年の年間ベスト・ホラー・ムービー10選

8位『ボーンズ アンド オール
2023年2月17日より劇場公開開始

YANNIS DRAKOULIDIS / METRO GOLDWYN MAYER



たしかに、“人を喰べて”生きる若いカップルを描いたルカ・グァダニーノ監督の『ボーンズ アンド オール』は、万人受けする映画とは言い難い——スプラッター映画ファンには物足りないし、アカデミー賞狙いのメインストリーム映画としてはあまりにも過激だ。それでも本作は、原作となった米作家カミーユ・デアンジェリスの同名のYA小説を2022年でもっともロマンチックなホラー映画に昇華させた(『ハロウィン THE END』には申し訳ないけど)。本作の主人公は、テイラー・ラッセル扮する18歳の少女マレン。社会からのけ者にされながら暮らす彼女は、遠い昔に消息を絶った母親を探す旅に出る。旅をするうちに彼女は、レーガン時代のアメリカ社会の端で生きる人喰いたちのコミュニティにたどり着き、自分と同じように人喰いの衝動を抑えられないリー(ティモシー・シャラメ)という浮浪者のような青年と出会う。ふたりはすぐに意気投合し、一緒に旅を続けるのだが……。ここまで言うと肉食系の「トワイライト」シリーズのように聞こえるかもしれない。実際、数々の有名なホラー映画の特殊メイクを手がけたトム・サヴィーニがスタンディングオベーションをして称えるような残忍なシーンも満載だ。

7位『PIGGY(英題、原題:Cerdita)』
日本公開未定

FILMAX



シャイなぽっちゃり女子のサラ(ラウラ・ガランの名演に注目)は、両親が営む精肉店で働きながら、地元の意地悪な女の子たちから執拗ないじめを受けていた。ある日、怪しげな浮浪者(リチャード・ホームズ)がサラたちの町に流れ着いたのをきっかけに、謎の失踪事件が相次いで発生。この町に連続殺人犯が潜んでいるのでは? と住民たちは不安を募らせる。果たして、この連続殺人犯はサラを狙うのか、それともサラの守護天使となるのか? ドラマの監督や脚本家として長年スペインのテレビ業界で活躍するカルロタ・ペレダの長編監督デビュー作となった本作は、復讐をテーマにしたスリラー映画と殺人鬼が暴れ回る残酷なスラッシャー映画の両方の要素で戯れる。その一方で、殺人鬼から逃れようとするのであれ、その殺人鬼に弟子入りするのであれ、ペレダ監督はオーディエンスがサラの肩を持ちたくなるような正当な理由をそこここに散りばめている。実際、劇中の拷問シーンよりも、サラがいじめられるシーンのほうがはるかに凄惨だ。無人の高速道路で仁王立ちをする血だらけのサラのイメージは、まさにこの映画を象徴している。

6位『Soft & Quiet(原題)』
日本公開未定

MOMENTUM PICTURES



「エルム街の悪夢」シリーズのフレディと「13日の金曜日」シリーズのジェイソン、「チャイルド・プレイ」シリーズのチャッキー、「ハロウィン」シリーズのブギーマンことマイケル・マイヤーズを全部ひっくるめた存在よりも怖いのは、ネオナチ思想に傾倒した過激な女性グループかもしれない。ベス・デ・アラウージョ監督の長編監督デビュー作『Soft & Quiet(原題)』が描くのは、巧みなワンショットによってリアルタイムで展開するアメリカの悪夢。オーディエンスは、一見SNSフレンドリーな女性グループの仲間に引きずりこまれる。彼女たちがその有毒さをいかにも気軽に振り撒く様子や、仲間たちに促されて新入りの若い女性(エレアノーレ・ピエンタ)が人種差別的なコメントをSNSにあっさり投稿する場面は、不気味なほど現実味を帯びている。そして彼女たちが行動に移る瞬間、事態はますます悪くなるのだ。家宅侵入がヘイトクライムへと変わるラスト30分は、目を覆いたくなるほど凄まじい。これは、本作に対する称賛であると同時に、観る人への警告として受け止めていただきたい。

Translated by Shoko Natori

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