レディ・ブラックバードを今こそ知る 時代を超越した歌声とニーナ・シモン〜アデルの系譜

レディ・ブラックバード(Photo by Christine Solomon)

 
レディ・ブラックバードの来日ツアーが1月26日にビルボードライブ大阪、1月27日に渋谷WWWで開催される。2021年のデビューアルバム『Black Acid Soul』はジャイルス・ピーターソンも絶賛。ジャズ・リスナーもソウル/R&Bファンも注目すべきシンガーの音楽的背景を、音楽ジャーナリストの林剛に解説してもらった。

レディ・ブラックバードが来日する。と言っても、まだこの名を知る人は少ないかもしれない。2013年にLAリードが仕切るエピックからハチロクのソウル・バラード「Boomerang」を出したマーリー・マンローの新名義と言えば、あの女性か!と思う人もいるだろうか。名匠クリス・シーフリードが手掛けた1stアルバム『Black Acid Soul』を2021年に発表して注目を集めている、米ニューメキシコ州出身でロサンゼルスを拠点に活動するシンガーだ。



“Acid”という文字が入ったアルバム・タイトル、また、ベティ・デイヴィスやラベル時代のパティ・ラベルなどに通じる風貌から、サイケデリックなソウルやファンクを歌っているのかと思いきや、さにあらず。晩年のマイルス・デイヴィスを支えたデロン・ジョンソンが弾くスタインウェイのグランド・ピアノとジョン・フローラーによるダブル・ベースをメインにしたシンプルで静謐なサウンドに乗せて歌うのは、大半が50年代後半から60年のリズム&ブルース、ソウル、ジャズ、フォークの古典で、オリジナル曲も往時の雰囲気そのものだ。ブルーなフィーリングを漂わせたスモーキーでビターな歌声は、ビリー・ホリデイなど往時のジャズ・シンガーを思わせる。ジェイミー・カラムのホリデー・アルバムにゲストで招かれていたのも納得のいくところだ。




アルバムを手掛けたクリス・シーフリードについて、「ようやく自分の音楽を理解するプロデューサーと出会えた」と言うように、なかなかの苦労人で、キャリアは長い。家族の影響で幼少期から教会で歌っていた彼女は10代前半から音楽業界に身を投じており、クリスチャン・ロック/ラップの名門グループであるDCトーク、特にその中心人物であるトビーマックと音楽的な交流を深めていた。しかし、宗教的な音楽が肌に合わないと感じた彼女は、クリスチャン・ミュージックの世界から距離を置く。その後エピックと契約するのだが、それからクリス・シーフリードに出会うまでは、もう少し時間が必要だった。クリスはいくつかのオルタナティブ・ロック〜ポップ系バンドで活躍し、プロデューサーとしては、アンドラ・デイのデビュー・アルバムで「Goodbye Goodnight」(2015年)のようなヴィンテージなソウル〜ジャズを作っていた人でもある。そのアンドラといえば、映画『The United States Vs.Billie Holiday』(2021年)でビリー・ホリデイを演じたわけで、ビリーを思わせるレディ・ブラックバードがクリスに相性の良さを感じたのも当然といえば当然だろう。


クリス・シーフリードとレディ・ブラックバード

「ジャイルス・ピーターソンが“ジャズ版のグレース・ジョーンズ”と評した」というキャッチコピーも躍る。どうだろうか。ジャイルスの喩えが必ずしも的を射ているとは限らない。静かに湧き上がってくるようなディープでエモーショナルな声を聴いていると、グラディス・ナイトやメイヴィス・ステイプルズのジャズ版といった気もするし、ティナ・ターナーや故シャロン・ジョーンズに通じるワイルドさも秘めている。現行のR&Bシンガーなら、ジャズやブルースの曲を歌った時のジャズミン・サリヴァンに近いだろうか。


レディ・ブラックバードが「女性のエンパワーメント」をテーマに作成したプレイリスト

 
 
 
 

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