レディ・ブラックバードを今こそ知る 時代を超越した歌声とニーナ・シモン〜アデルの系譜

 
ニーナ・シモン、ニューオーリンズ、モダン・ヴィンテージな作風

影響を受けたアーティストなど、音楽的な背景についてはBillboard JAPANの最新インタビューでも語られているが、アルバム冒頭の「Blackbird」がニーナ・シモンのカバーであることから、やはりニーナからの影響が強く感じられる。「Blackbird」は公民権運動が頂点を迎えていた63年に、人種差別に対する批判を込めて歌われた曲。レディ・ブラックバードのカバー・ヴァージョンは2020年5月末、図らずもジョージ・フロイドの殺害事件があった直後にリリースされたが、ニーナの曲を歌い、同曲のタイトルをアーティストネームに引用しているほど憧れているのだろう。彼女は、ニーナの黒人女性としての力強さや気高さにもシンパシーを感じていると話している。




アルバムでは、ビル・エヴァンスが58年に録音した「Peace Piece」のピアノ・フレーズに歌詞を付けた「Fix It」、ジェイムス・ギャングが69年に発表したサイケ・ロック「Collage」のカバーもあり、これらの解釈もニーナを思わせる。ルー・ロウズやサム・クックなどで知られる「Lost And Looking」(62年)やティム・ハーディン「It’ll Never Happen Again」(66年)のブルージーかつジャジーなカバーも、原曲の雰囲気を僅かに残しながら独自のものにしている。それらはニーナ風に解釈したというより、ニーナがそうであったように、自分にしかないスタイルで歌っているのが尊い。ヒプノティックスの「Beware The Stranger」(73年)は、もともとクリスタル・ジェネレーションやヴォイシズ・オブ・イースト・ハーレムが「Wanted Dead Or Alive」として歌っていた曲だが、これに関しては原曲の面影も感じられないほどで、心の赴くままに歌ったのだろう。そうして歌い手を自由に泳がせるクリスの懐の深さも素晴らしい。






クリスといえば、トロンボーン・ショーティの2017年作『Parking Lot Symphony』と2022年発表の最新作『Lifted』をプロデュースしたことでも知られる。後者にはレディ・ブラックバードもバック・ボーカルで参加していたが、『Black Acid Soul』に収録された3曲のオリジナルのうち、クリスがギターを弾くジャズ・バラード「Nobody’s Sweetheart」ではショーティがトランペット・ソロを挿んでいる。そう思うと、ナオミ・ネヴィルことアラン・トゥーサンが書いたアーマ・トーマスの「Ruler Of My Heart」(62年)をカバーしているのも興味深い。ダーティ・ダズン・ブラス・バンドがノラ・ジョーンズを迎えてカバーしていたこともあるニューオーリンズR&Bクラシックだ。また、ローライダー・ソウル・クラシックとしても知られる「It’s Not That Easy」は、ルイジアナ州シュリーヴポートのリューベン・ベルがカサノヴァズとの連名で67年に出した曲。本人のお気に入りなのかクリスの趣味なのか分かりかねるが、彼女の音楽からはニューオーリンズ(ルイジアナ)的なダウン・トゥ・アースな感覚が伝わってくる。アルバムのデラックス・エディション(2022年10月リリース)では、追加されたディスク2の冒頭が、ルイジアナの名シンガーであるトニー・ジョー・ホワイトの「Did Somebody Make A Fool Out Of You」(73年)のカバーだったのも、単なる偶然ではないと思いたくなる。






NYのハーレムで静かな朝を迎えたような、あるいはルイジアナのバイユーの景色が浮かんでくるような『Black Acid Soul』。同作をリリースしたのは、2019年に英ロンドンで設立された新興レーベル、ファウンデーションである。レーベル創設者でA&Rを務めるロス・アレンは、デュア・リパのリミックスなども手掛けたザック・ウィットネスらをマネージメントする人物だ。つまり、『Black Acid Soul』は、エレクトロニックなダンス・ミュージックの界隈から送り出されたアルバムであった。そして、当のレディ・ブラックバードも古典的なジャズやソウルを歌うだけにとどまらず、ビートの効いたダンス・ナンバーも歌っている。デラックス版に収録された曲でも、アリ・タンポジがペンを交えた「Woman」は80年代のティナ・ターナーが現代に蘇ったような力強いポップ・ソウルだし、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル「Ain’t No Mountain High Enough」(67年)に着想を得たようなモータウン・フィーリング溢れる「Feel It Comin」もエイミー・ワインハウスの「Tears Dry On Their Own」(2006年)に通じるアップ・チューンだ。彼女の音楽に対してエイミーやアデル、セレステらの名前が引き合いに出されるのは、そうしたモダン・ヴィンテージな作風ゆえだと思う。




ロス・アレンの人脈からか、客演やリミックスも、エレクトロニックなダンス・ミュージックを中心としながら、特定のジャンルにとどまらない。ゴールディーのドラムンベース曲「Sunlight」(2021年)に乗る声でレディ・ブラックバードの存在を知った人もいるだろう。また、アルバムの先行シングル第2弾「Beware The Stranger」のマシュー・ハーバートによるリミックスは、ヴィクトリア・ベッカムの2020年春夏コレクションの音楽として使用され、これも彼女の名前を広めることになった。デラックス版に収録されたリミックスも、UKジャズ、ハウス、レゲエなど多岐にわたるが、中でもエマ・ジーン・サックレイがメロウでグルーヴィなダンス・チューンに改編した「Blackbird」は、とりわけ人気が高い。




動画サイトでは、いくつかのライブ・パフォーマンス映像を見ることができる。ただ、ライブ全編を通してどんなステージなのかはあまり伝わってこないし、予想もつかない。それだけに今回の来日公演には心が躍る。1月26日にビルボードライブ大阪、1月27日に渋谷WWWでレディ・ブラックバードが待っている。彼女の音楽について語るのは、それを見てからでも遅くない。






Lady Blackbird Japan Tour 2023

2023年1月26日(木)Billboard Live OSAKA
[1st stage] 開場17:00 / 開演18:00 [2nd stage] 開場20:00 / 開演21:00
カジュアルエリア(1ドリンク付) 前売り:¥7,900
S指定席 前売り:¥9,000
指定席 前売り:¥7,900
BOXシート(ペア販売) 前売り:¥19,100

2023年1月27日(金)東京・渋谷WWW
OPEN 18:00 / START 19:00
スタンディング 前売り:¥7,500 (ドリンク代別)

>>>詳細・チケット購入はこちら

 
 
 
 

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