マネスキン『RUSH!』全曲解説 2023年ロック最大の話題作を徹底レビュー

 
5. BABY SAID|ベイビー・セッド

2021年11月にマネスキンがLAで公演した際に対面したというマックスが、自ら関わった曲のひとつ。彼はジャスティンと共にソングライターとして名を連ね、プロデュースはラミが担当。曲の成り立ちはコンテンポラリーなポップソングに近いが、必要最低限の骨格だけに削ぎ落としたバンド・アンサンブルに、彼らのアイデンティティが図太く残っている。少々キワどい歌詞のテーマは、キレイに言えば“コミュニケーション”か?



6. GASOLINE|ガソリン

ウクライナ戦争の勃発を受けて綴られたこの曲の、“冷酷な心で神のように”振る舞う標的は、ほかでもなくロシアのプーチン大統領だ。ラミのプロデュースで、インダストリアル・ミュージックを独自に消化。ストップ&スタートを繰り返すアウトロといい、ずば抜けて実験的なサウンド作りを行なっている。もとを正せば昨年4月に、ウクライナ難民の支援などを呼び掛けるキャンペーン“Stand Up For Ukraine”への参加表明としてスニペットを披露したものの、以来コーチェラ・フェスティバルでプレイしただけで、今に至るまでフル音源は公開されていなかった。



7. FEEL|フィール

マックスの門下生であるマットマン&ロビン(イマジン・ドラゴンズ、P!NK)をプロデューサーに迎え、ディストーションの効いたリフで駆動するガレージ・ロックは、ライブ映えすること間違いなし。少々バカバカしいプロットはファンタジーに相違ないが、“テーブルの上のコカイン”という箇所は、ユーロヴィジョン・ソング・コンテストのファイナルで起きた、例の濡れ衣事件をネタにしているんだろう。やや単調な曲ではあるものの、充分にエンターテイニングに聴かせてしまう話力と演技力が、ダミアーノの歌にはある。



8. DON’T WANNA SLEEP|ドント・ワナ・スリープ

ラミ、マックス、ジャスティンという豪華な組み合わせで、「MAMMAMIA」以降定番化したダンス・パンクのスタイルを、思い切りポップに表現。これまたツアー生活にインスパイアされたようで、感覚を麻痺させてアドレナリン・ラッシュだけで乗り切るタフな日々を描き出す。ちなみに、“ルーシーのダイアモンド”のくだりでザ・ビートルズにオマージュを捧げている彼ら、前述したザ・スミスへの言及然り、「FEEL」の“Rebel rebels”(恐らくボウイへのオマージュだろう)と言い、ロック史からのレファレンスが歌詞のそこかしこに潜んでいることも指摘しておきたい。



9. KOOL KIDS|クール・キッズ

少しポップに接近し過ぎたかなと思ったら、そんなこちらの気分を予測していたかのように、4人だけで綴り、ファブリツィオとプロデュースした1曲で、グイっとピュアなロックンロールに引き戻す。アイドルズの影響を強く映したこのユーモア満々のパンク・チューンは、アクセントやボキャブラリーもブリティッシュな音楽賛歌。自嘲モードにプライドを包み込んで、クールじゃない自分たちを祝福する。昨年末の全米ツアーでは毎夜セットのオープニングを飾っており、未発表曲でライブをスタートするという発想そのものが大胆極まりないのだが、目下のバンドのテーマ・ソングと見做すこともできるんだろう。


 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE