マネスキン『RUSH!』全曲解説 2023年ロック最大の話題作を徹底レビュー

 
10.IF NOT FOR YOU|イフ・ノット・フォー・ユー

「TIMEZONE」に続く、今作2曲目のバラードも献身的なラブソング。そしてここでもダミアーノは音楽とラブを天秤にかけて、ラブを選んでいる。ラミ&マックスの強力プロデューサー・コンビは、彼のパーフェクトなボーカル・パフォーマンスを前面に押し出し、ここまではギター、ベース、ドラムス以外の音はほぼ聴こえなかったのだが、ストリングスやマンドリンらしき楽器の響きでさりげなく彩った。曲の終わり方も相俟って、「BLA BLA BLA」で引用した「Please Please Please Let Me Get What I Want」を想起させはしないだろうか?



11. READ YOUR DIARY|リード・ユア・ダイアリー

引き続きラミ&マックスによるプロダクションだが、こちらは一転してアップテンポ。共作者にジャスティンを含む「READ YOUR DIARY」は、ストーカー・ファンタジーじみたストーリーを聞かせる。これまたマネスキンらしいレトロ&メロドラマティックな旋律に乗せて、留守中の女性の家に忍び込んで勝手に日記を読む男をダミアーノは演じており、最後の溜息までもが不穏だ。



12.MARK CHAPMAN|マーク・チャップマン

そして、今回は英語オンリーなのかと思いきや12曲目にして言語が切り替わり、ここから先3曲はイタリア語詞。全てファブリツィオがプロデュースしている。やはり母国語で歌う時は、分かり合える相手が望ましいのだろう。タイトル通りに、ジョン・レノンを殺めて未だニューヨークの監獄に収監されている男を象徴的に用いて、偏執的なファンダムを描写。“オブセッション”というゆるいテーマを「READ YOUR DIARY」と共有しており、スピード感のあるニューウェイブ・サウンドが、誰かに追われているかのような不安を醸す。



13.LA FINE|ラ・フィーネ

「ZITTI E BUONI」の延長にある、グランジーなリフとイタリア語の高速ラップのコンビネーションで身軽に走り切る4人は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズといった90年代レファレンスに立ち返る。英語で“The End”を意味するタイトルを掲げ、そろそろ手に負えないレベルに達しているフェイムとどう付き合うのか、いかにして息の長い活動を成立させるのか、自らに問うている。“唯一の答えは立ち去ること、でなければ留まって朽ちるだけ”のくだりは、“消えていくより燃え尽きたい”というニール・ヤング御大の言葉にも重なる。



14.IL DONO DELLA VITA|イル・ドーノ・デッラ・ヴィータ

“人生という贈り物”と題されたこのバラードは、不死鳥をモチーフにした生命賛歌。音楽的にも、ポエティックな歌詞においても、他と少々趣を異にしている。トーマスがマイク・マクリーディーの名前を影響源に挙げていたという記憶はないのだが、ギター・プレイを含めてパール・ジャムの大河バラードに重なる重厚な出来だ。コンパクトながらスケール感は申し分なく、クライマックスで転調して光のほうへ歩み出し、エンディングで聴こえるファルセット・ボイスが重みを払拭する。


 
 
 
 

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