ボーイジーニアス独占取材 世界を揺るがす3人の絆とスーパーグループの真実

 
3人だからこそ弾けるユーモア

ビーチで会った時、ボーイジーニアスのメンバーは新曲の公開までに2カ月もないという事実に驚いているようだった。「$20」「Emily I’m Sorry」「True Blue」のシングル3曲を同時に発表するうえで、彼女たちは今年1月がベストだと考えた。12月という選択肢はなく、2月は論外だった。

ベイカー:2月は……この話したよね。

ダッカス:2月なんてクソくらえって言おうとしてたでしょ?

ベイカー:ううん、2月は常にクソって言うつもりだった。

ブリジャーズ:常にクソくらえ!

ダッカス:(筆者に向かって)もし2月生まれとかだったらごめんね。



ブリジャーズは2020年6月に『Punisher』をリリースした直後から、特に意識せずにボーイジーニアスの曲を書き始めていたことに、後になって気づいたという。「パンデミックが起きて、創作意欲が薄れてた」と彼女は話す。「ボーイジーニアスのことはいつも意識してたし、3人で『世界ヤバくね?』みたいなメールを交換し合ってた。とにかく友達と繋がっていたかったから。その頃にこの曲を書き始めたんだけど、『これは絶対にボーイジーニアスの曲だ』って思ったの」

その曲とは「Emily I’m Sorry」だ。ブリジャーズはデモをベイカーとダッカスに送り、「またバンドやらない?」と提案した。「3人ともその話題に触れるのを躊躇ってた」とブリジャーズは話す。「私たち全員、こんなに盛り上がってるのは多分自分だけだと思ってたから」

ベイカーは自分がどれだけエキサイトしていたかを、三人称を用いて説明する。「ここにいるビッチはGoogle Driveが大好き」。ブリジャーズからデモが送られてきたあと、ベイカーはLogicのセッションファイルが複数入ったフォルダを作った。それぞれのファイルには「boygenius 1」「boygenius 2」「boygenius 3」といったタイトルが付いていた。

「フィービーからは『曲にタイトルをつけないとね』と言われたっけ」。ベイカーはそう話し、大笑いし始めた。ダッカスがこう付け加える。「ジュリアンは曲ができるとGoogle Driveにアップするんだけど、『新曲ができたよ』って知らせてきたりはしない。一番多く曲を書いたのは彼女だね」

3人は2021年4月にカリフォルニアのヒールスバーグで、また同年8月にマリブで作曲合宿を敢行したほか、2018年からはグループチャットで頻繁にメッセージを交換していた。「Leonard Cohen」が生まれたのは、ヒールスバーグでの作曲合宿だった。愛犬のパグのMaxineと一緒に、ブリジャーズの運転するTeslaでロサンゼルスに帰る途中、3人はサビがない名曲について話し合った。「私はそういうフォーマットが大好きなんだ。下手をするとロクでもない曲になっちゃうやつ」とブリジャーズは話す。「でもうまくやれば、芸術と呼べるくらい超越したものになる。『Hallelujah』にはサビもあるけど、かなり近いと思う」

具体的な例を挙げようと、ブリジャーズは10分近いインディーシーンの名曲、アイアン・アンド・ワインの2005年作「The Trapeze Swinger」を2人に聴かせた。ブリジャーズは曲に聴き入るあまり進路を間違えていたが、2人は敢えて指摘しなかった。

「私もジュリアンも、曲が終わるまでは黙っていることにしたんだ」とダッカスは話す。「聴き終わった後でこう言った。『本当にいい曲だと思う。グッときた。じゃあUターンして』」

ベイカーはこう付け加える。「あんなに寛容になれたのは初めてだったかも」

「The Trapeze Swinger」と同様にサビがない「Leonard Cohen」は、ダッカスがアコースティックギターを弾きながら、チャーミングなライン(“ドライブを1時間も長引かせたことを、君は恥ずかしく思ってる/でもその間、私たちはより多くの恥を晒しあった/誰にも話したことのないストーリーを打ち明けながら”)、あるいはユーモラスなフレーズ(“レナード・コーエンはかつて、あらゆるものには裂け目があると言った/光はそこから入るんだって/私は実存的危機に直面し、仏教の修道院で官能的なポエムを詠んでるオヤジなんかじゃない/でも共感はできる”)を並べる曲だ。

その36単語は、このバンドの魅力を体現している。ボーイジーニアスは年老いた男性の悲痛な告白を引用しながら、続くラインで嫌味なく茶化してしまうようなソングライターの集まりだ。道を間違えた時に再認識したことを、ダッカスとブリジャーズはそれぞれ一言でまとめてみせる。

ダッカス:私たちの前では恥をかいてもいいってこと。

ブリジャーズ;2人の前では恥を晒してもいいってことね。


BAKER: TOP BY NONG RAK. SKIRT BY CONNER IVES. WRISTBANDS, STYLIST’S OWN. SHOES BY DR. MARTENS. BRIDGERS: TOP BY MARNI. SCARF WORN AS SKIRT BY GENE MEYER. TIGHTS BY PUCCI. DACUS: TOP BY ETRO. SCARF WORN AS SKIRT BY GENE MEYER. SOCKS, STYLIST’S OWN.

2022年1月の大部分を、バンドはマリブにあるリック・ルービンのShangri-Laスタジオで過ごした。アルバムのレコーディングには、オートラックスでドラムを叩くカーラ・アザールと、ジェイ・ソムのメリナ・ドゥテルテがベースで参加している。1日に10時間以上作業することも珍しくなかったが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』『お嬢さん』『Yellowjackets』等のスリラー映画を観ることが息抜きになっていた。

今作では共同プロデューサーとして、マンチェスター・オーケストラやPJ・ハーヴェイとの仕事で知られるキャサリン・マークスが起用されている。マークスによると、メンバーにはそれぞれ朝のルーティンがあり、ベイカーはトレイルランニングを欠かさず、ダッカスはタロットカードで当日の「ヴァイブスをチェック」していたという。

マークスはブリジャーズと一緒にヨガをすることが多かった。「贅沢な感じがした」とマークスは話す。「例えばマンチェスター・オーケストラとレコーディングする時は、誰もエクササイズなんてやらないから。前日にバーボンを浴びるほど飲むだけ」

レコーディングの開始から2週間が経った時点で、3人はイルミナティ・ホティーズのサラ・タディンを、エンジニア兼アディショナル・プロダクション担当として迎え入れた。タディンの作業場所は、バックヤードにあるボブ・ディランが以前使用していたツアーバスの中だった。「各メンバーがソロの時とは違うカラーを出しているのがよくわかった」とタディンは話す。「ソングライターとしての信念と矜持にはこだわりながら、それぞれが軽薄な一面やユーモアのセンスを表現していたから」

タディンとマークスは共に、「Don’t Fuck With My Girl」と題された曲がアルバムに収録されるのかどうか、気になって仕方ない様子だった。その収録が見送られたという事実は、アルバムのクオリティを物語っている。タディンによると、アウトテイクは他にも数多く存在するという。「25曲くらい書き上げたはずだけど、どれもヒットが期待できそうな出来だった」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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