ボーイジーニアス独占取材 世界を揺るがす3人の絆とスーパーグループの真実

 
フィービー・ブリジャーズの憂鬱

ベニスにある植物ベースのレストランでブリジャーズと会った時、彼女は店内を素早く見渡してから、黒のジャケットのフードを脱いだ。プラチナブロンドのヘアを軽く後ろに流した彼女は、オリーブの木に囲まれた中庭の席に着いた。『Punisher』で大ブレイクを果たして以来、外を出歩くことが難しくなったと彼女は話す。「内面には触れることなく、いろんなことを世間と共有するのって難しい」。テンペBLTを口に運びながら、彼女はそう言った。「もし今ソロアルバムのプロモーションが控えてたら、たぶん無理。きっとボイコットする」。彼女は典型的な南カリフォルニアのアクセントでオレンジジュースを注文したが、メニューにないと言われたため、水で我慢することにした。

『Punisher』のプロモーションで、彼女は様々な雑誌の表紙を飾り、深夜のTV番組にも数多く出演した。まだ国民的スターとまではいかないものの、エリオット・スミスやトム・ウェイツのような孤高のミュージシャンを尊敬し、プライバシーを侵害する極端なファンを「Punisher」という言葉で表現する彼女は、世間からの注目に居心地の悪さを覚えているという。「私は根っからのインディー人間だけど、文句を垂れるほど有名じゃないくせにって言われることもある」と彼女は話すが、それはボーイジーニアスのファンも同じだという。「ジョン・レノンの取り巻きくらい熱心なファンがいる一方で、親戚の中には私たちを一文無しだと思ってる人もいる。『いつになったら定職に就くんだ?』みたいなね」

ブリジャーズの母親がタトゥーを入れたのは、彼女が開いたフレンズギビングなるパーティの場だった(彼女のアシスタントのルームメイトはタトゥーアーティストだ)。「1年くらい母さんと口をきいてなかったから、フレンズギビングはちょうどいい機会だった」と彼女は話す。「これなら毎年やりたいと思ったから、今じゃ恒例になってる。母さんとはすっかり仲直りしてるんだけどね」

ブリジャーズが20歳だった2015年に、彼女の両親は離婚している。『Punisher』からのシングル「Kyoto」をインスパイアした父親との関係は複雑だったが、2人はパンデミックの最中に距離を縮めたという。「コロナが流行りだすまでの数年間、父さんとは音信不通だった」と彼女は話す。「パンデミックによって人と会うことが制限されるようになったことで、自分が何を望んでいるのか気づいたんだ。条件や建前なしに、本音で語り合いたいって」。この取材からほどなくして、ブリジャーズの父親は60歳で逝去した。ホットピンクに髪を染めた彼女と父親が並んで座り、イヤホンを共有している写真と一緒に、彼女はこう投稿した。「お父さん、どうか安らかに」

ブリジャーズの存在感は『the record』でも光っている。ボーイジーニアスが2018年に発表した「Me and My Dog」に激しく胸を揺さぶられたリスナーは、「消耗するばかりの恋愛」についての残酷なまでに率直なモノローグ「Letter to an Old Poet」に涙するかもしれない。「あれは自分の生き方を大きく左右する誰かが、等身大以上の存在になってしまうことを歌った曲」と彼女は語っている(誰のことを指しているのかという質問に対してはノーコメントだった)。

「Emily I’m Sorry」は、“エミリー、どうか私を許して/少しずつ溝を埋めていきたいの/27歳の私は、まだ自分が何者なのかを知らない/でも何を求めているのかはわかってる”という歌詞が胸を熱くする曲だ。当初ビートルズに関する陰謀論にちなんだ「Paul Is Dead」という仮タイトルがつけられていた「Revolution 0」は、ブリジャーズの「オンラインで誰かを好きになる」体験についての曲だ(彼女は相手が誰なのかを明らかにしていないが、ファンの多くはアイルランド出身の俳優ポール・メスカルのことだと推測するだろう)。「ロックダウン下での濃密な時間は、ただただ美しかった」と彼女は話す。ブリジャーズとメスカルは婚約していると噂されていたが、後に2人は破局したと報じられた。ブリジャーズは多くを語ろうとしないが、今現在婚約していないことだけは明言している。



私生活に関する情報の流出を見事に回避している、テイラー・スウィフトのやり方をお手本としているかと訊ねると、彼女はこう答えた。「私は幸福感が滲み出ているような人々にインスパイアされるけど、私自身はまだそうなろうと努力している段階なんだ」。ブリジャーズはこう続ける。「彼女は深くて賢明な女性で、楽しむということを決して犠牲にしない。自分で定めた境界線を他人に踏み越えさせないっていうルールを、彼女は一貫して実践してる」

「有名人が成功を収めた後に、どうやって幸せになるのかってことはあまり報じられない」と彼女は話す。「私は世界中を一緒に回るメンバーを親友で固めていて、水を差すような存在が入り込まないようにしている」

そのセリフは、SZA『S.O.S.』のハイライトの1つであり、ブリジャーズがゲストとして参加している「Ghost in the Machine」での彼女のヴァースを思い起こさせる。“あなたは言った、私の友人はみんな私の従業員だって/そうなのかもね、でもあんたは最低”。そのラインがメスカルに向けたものだという見方もあるが、筆者はベター・オブリヴィオン・コミュニティー・センターのメンバーであり、一時は彼女と恋仲にあると噂されたブライト・アイズのコナー・オバーストを思い浮かべた。あとでブリジャーズに直接訊ねたところ、「政治家風に言うなら、思い出せない」という回答が返ってきた。彼女はBOCCの今後についても明言を避けており、ただ「わからない」としている。



R&B界のスーパースターであるSZAは、まずオンラインでブリジャーズに連絡をとった。何度かのやりとりを経てコラボレーションに合意した2人は、それから1週間程度で同曲を完成させた。「彼女のことがとにかく大好き」。ブリジャーズはSZAについてそう話す。「占星術、怒り、健康的な境界線とか、私たちはいろんなことについて話し合った。互いに文化的なボキャブラリーを共有していることがすぐわかったから。彼女は現実離れした才能を持ったソングライターだけど、同時にすごく人間的でもあるんだ」

自分がいかに「幸運」であるかを、ジャーナリストから指摘されることは多いという。「『成功を収めた今の気分は?』って時々訊かれるんだけど」とブリジャーズは話す。「私はいつもこう答えてる。『私は説得力のあるものを作った。あなたは黙ってて』」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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