ボーイジーニアス独占取材 世界を揺るがす3人の絆とスーパーグループの真実

 
ルーシー・ダッカスと「真の友情」

前世で、ダッカスはジャーナリストだったのかもしれない。取材の間ずっと、彼女は録った音声の質を気にかけ、どの発言がオフレコなのかを明確に指定していた(筆者がテーブルを離れている間に、彼女は筆者のことを褒めてくれていたのだが、その会話も録音されていたことを知って赤面していた)。「ルーシーはとにかく、よく気がつく」とブリジャーズは話す。「彼女に気づいてもらうと、すごく愛されてると思えるんだよね」

筆者とダッカスはある日の夜、持ち帰り用ボックスと同じピンク色のベロアのブースがある粋な寿司屋Wabi on Roseで会った。黒のセーター姿で味噌汁をすすっている彼女は、前日の夜にバンドのメンバー2人と遊び過ぎたせいで2時間しか寝ていないという。「あ、ちょっと待って」と彼女は言い、携帯電話を取り出した。「チェスの対戦をしてるんだけど、負けそうで。ちょっとの間だけオタク化してもいい?」

ダッカスは継続的に作曲しており、筆者との散歩中でもそれは変わらない。「作曲は自分自身と対話する手段なんだ」と彼女は話す。ダッカスは会話の途中でも曲の題材となりうるものを察知し、2人とのランチの最中にもこう話していた。「私の生物学上の母さんが、50代になって『ベッドの下に潜んでいたかのような怒りに気づいた』と言ってて。そのセリフにビビッと来たの、ヤバくない? 曲にできるかも!」

ダッカスはヴァージニア州リッチモンドの敬虔なクリスチャンの家庭で養子として育てられた。アルバム『Home Video』では、週に4回教会に通っていたことなど、彼女の生い立ちが描かれている。2018年作『Historian』はリスナーに衝撃を与え、職場を共にする恋人に別れを告げようとする7分近い失恋ソング「Night Shift」(“あなたのシフトは9時5時、だから私は夜勤を選ぶ/もう2度と会いたくない、できることなら”)は特にインパクトが大きかった。多くの共感を呼んだ同曲は、彼女にとっての「Thunder Road」というべき代表曲となった(父親のSpotify Wrappedプレイリストで、彼女はブルース・スプリングスティーンに次ぐ2位となっていたが、彼はこう話していたという。「君が私にとってのNo.1ソングライターであることは、この先もずっと変わらないよ」)。

ヘイリー・ウィリアムスは2017年に離婚した時、「Night Shift」に大いに救われたという。「(ルーシーに)初めて会った時、とても他人だとは思えなかった」と彼女は話す。「彼女の美しくてスモーキーな歌声が、ものすごく心地よかったから」

だがその心地よさは、「悲しみに暮れる女の子」というステレオタイプにつながることも多い。女性のソングライターが特定の感情のみを題材にするという先入観や、sad girl indieなるマイクロジャンルに当てはめられることに対して、彼女は幾度となく違和感を訴えてきた。「私と仲間が生き延びていける世の中であって欲しいだけ」と彼女は話す。「悲しみを内面化してしまったら、それが自分のパーソナリティになってしまう。それは鬱と結びついて、結果的に孤立を招くことも多い。私は少しでも多く喜びを感じていたいし、大切に思っている人みんなにもそうであってほしい。でも個人的なレベルで言えば、私は単にそういう枠にはめられるのが嫌。間違ってるし、黙れって感じ。私はもっとニュアンスに富んだものを表現しようとしているから」

ダッカスは2019年に、リッチモンドからフィラデルフィアに移り住んだ。過去1年半ほどは、家に帰れるのは月に5日程度だった(余談だが、飛行機での移動の際にはいつもCSNの「Helplessly Hoping」を聴いているという)。フィラデルフィアの自宅で過ごす時、彼女は目覚めてから数時間は一切言葉を発さないようにしている。紅茶を淹れてから作業部屋に移動し、キャンドルを灯し、タロットカードを引くのが彼女のルーティンだ。その後は日記をつけたり、読書をしたり、曲を書いているという。「そうするうちに、いろいろと思いがけないことが起き始めるんだ」と彼女は話す。

彼女は友人を大事にしており、バンドのメンバーは特に大切な存在だという。事実、『the record』の収録曲「We’re in Love」はボーイジーニアスの絆の強さを物語っている。「Night Shift」が究極の失恋ソングだとすれば、「We’re in Love」は真の友情を讃えるラブレターだ。シンプルなアレンジが本質を際立たせている同曲のレコーディング中に、キャサリン・マークスは涙を流したという。ダッカスは同曲でこう歌っている。“あなたが人生の筋書きを書き直すとしても、私はその一部でありたい”

収録曲を選ぶ際に、当初「We’re in Love」に票を投じなかったベイカーは、自分の中で折り合いをつけるのに時間を要したという。「親愛の情が具体的に描かれるセンチメンタルな曲に、私は感情移入できないことがある。どこか怖いと感じてしまって。でも今では、あの曲は個人的なお気に入りの1つ」。ドライブ中に完成した曲をメンバー全員で聴いた時、ダッカスとブリジャーズは手を取り合った。



バンドはいくつかの主要都市で『the record』の発表記者会見を開く予定だ。取材に追われる事態を回避するという目的もあるが、一番の理由は楽しそうだから。「ひとまとめにするのって、どこか悪趣味で面白そうでしょ」とダッカスは話す。「フラッシュを浴びまくるフィービーとジュリアンを見るのが楽しみ」

バンドは今年ツアーに出る予定だが(コーチェラへの出演も控えている)、3人が一緒の時は通常ほど消耗しないのだという。「一晩に何千人もの前で演奏していると、時々メンタルが弱ってしまうこともある」とブリジャーズは話す。「他人に共感するのってすごく難しいけど、あの2人だけは別。一緒にいると、暗い気持ちも晴れてくる」

『Home Video』のリリースツアーで150以上のショーをこなしたダッカスも同意する。「3人でいると、自宅にいるかのようにリラックスできる。どの番組にするかを先に決めておいて、ショーがあった日は寝る前に1エピソードだけ一緒に観るの。子供が就寝前に絵本を読んでもらう感じね。2人のおでこにキスをして、布団をかけてあげるつもり」

3人はツアーのアイデアを練っているところで、中にはベイカーがギターソロを弾いている間にダッカスとブリジャーズがキスをするという案もある。3人全員がキスをする可能性について触れると、ベイカーは頭を振って腕を組んだ。「私たちとキスするのは嫌?」とブリジャーズが問いかける。

「自分はオールドスクールな一匹狼だから」と話すベイカーに、ダッカスはこう返した。「アリかもって思ってるくせに!」

ベイカーは両腕を広げ、笑顔を見せる。「もちろん冗談。みんなでイチャイチャしようね」

From Rolling Stone US.




ボーイジーニアス
『the record』
2023年3月31日リリース
再生・購入:https://umj.lnk.to/boygenius_therecord



フィービー・ブリジャーズ「REUNION TOUR」
2023年2月18日(土)京都MUSE
2023年2月20日(月)大阪NAMBA HATCH
2023年2月21日(火)東京Zepp DiverCity
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3824



PRODUCTION CREDITS
Produced by RHIANNA RULE. Photography direction by EMMA REEVES. Fashion direction by ALEX BADIA. Hair by DITA VUSHAJ at TRACEY MATTINGLY using LEONOR GREYL. Makeup by AMBER DREADON at A-FRAME. Manicure by SREYNIN PENG at OPUS BEAUTY. Styling by JARED ELLNER at THE ONLY AGENCY. Vintage fashion specialist: ALEXANDRA MITCHELL for ARBITRAGE NYC. Tailor: ALVARD BAZIKYAN. Production assistance DOUGLAS STUCKEY and KURT LAVASTIDA. Lighting design by BYRON NICKELBERRY. Photography assistance by NICOL BIESEK. Hair assistance by ALEX HENRICHS. Styling assistance by JESS MCATEE.

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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