大切な何かを喪失することを考える、死別・喪失と向き合うために理解しておくべきこと

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音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第46回は、死別・喪失が人にどんな影響を与え、それにどのように対応すべきかについて産業カウンセラーの視点から伝える。

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2023年に入ってからアーティストの訃報が相次いでいます。身近な人との死別の場合はもちろんですが、大切な何かを喪失することは人の心身に多大な影響を与えます。そしてそれは一般的な人生ではそれほど頻繁に起きることではないために、ほとんどの人に心の備えがありません。そこで今回は、死別・喪失が人にどんな影響を与え、それにどのように対応すべきかを考えてみたいと思います。

死別・喪失に対する様々な身体的・心理的反応や症状はグリーフ(grief)と呼ばれ、日本語では「悲嘆」と訳されます。一般的に日本語で「悲嘆」というときは「かなしみなげくこと」の意味ですが、ここではもっと幅広い状態を表す言葉です。この悲嘆のあらわれ方は文化によっても違いますが、主に4つの反応があげられます。

まず「思慕」です。これは喪失対象をふとした時に思い出す反応で、その際に様々な感情が生じます。強い心的外傷を伴う体験があった場合には、突然鮮明にその記憶を思い出す「フラッシュバック」が起きることもあります。ときには、故人の気配を感じたり話しかけたりといった「ちらつき現象」が起きたり、故人について自分が知らない側面を追い求めるような「探索行動」を取ったりします。この「思慕」が悲嘆の中では最も長く続きます。

2つ目は「疎外感」です。これは、死別・喪失によって自分のまわりにいる人々の態度が変わったように感じたり、見捨てられたと思ったりする感情です。他に、周囲から置いてきぼりを食ったように感じたり、自分だけが他の人と折り合いが悪いように思ったりするということがあります。これらは、死別者・喪失者に対する社会のなんらかの偏見が原因となっている場合もあります。

3つ目は「うつ的不調」です。葬儀などの社会行事や法的手続きなどが終わり、身辺の整理もついた頃からうつ的症状があらわれはじめることもあります。具体的には、無気力、虚無感、感情の不安定さ、孤独感、漠然とした不安などがあり、睡眠不足や食欲の変化があったり、希死念慮が生じたりすることがあります。アメリカでの調査では死別直後の遺族で24%、7ヶ月で23%、13ヶ月で16%がうつ病の基準を満たしていて、死別後1年以内は自殺の危険性が上昇することがわかっています。「死別後だから調子が良くないのは当たり前だ」としてこれらの兆候を見過ごさないようにすることが大切です。

4つ目は「適応対処の努力」です。なんとか現実へ対処しようと、たとえば「死者の分まで頑張ろう」とか「新しい生活に向かって行こう」などと、自分自身を奮い立たせようとします。これは死別後の比較的早い段階からあらわれることがありますが、ときに「〜しなければならない」という思いが強くなりすぎて焦燥感が募り、かえって心身の重荷となってしまうことがあります。これら4つ以外にも、死別のケースによっては「どうして救うことができなかったのか」といった自責の念や、なぜ自分が生き残ったのかという「生存者罪悪感」、医療者に対する怒りなどが生じることもあります。

Rolling Stone Japan 編集部

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