若者を殴打し銃を振り回したNBAスーパースター、さらなる揉め事を犯す前兆か? 米

カウボーイからマフィア、ギャングに至るまで、アメリカのポップカルチャーはアウトローな人物を美化する。大勢が思わず真似したくなる、根強いアメリカンストーリー。類まれな才能に恵まれ、家族のサポートやチャンス、そして富に囲まれたモラントのような人間でさえも抗うことはできない。その最たる例として思い浮かぶのが、元NBAプレイヤーのジャヴァリス・クリッテントンだ。高校時代は生徒会長も務めた優秀な生徒で、法律事務所で働き、学生団体Future Business Leaders of Americaにも所属していたクリッテントンは、ジョージア工科大学に入学。初年度でいきなり注目を浴びてNBA入りを果たしたが、悪い連中とつるむようになり、最終的にワシントン・ウィザーズ時代のチームメイトだったギルバート・アリーナスとロッカールームで発砲騒ぎを起こし、選手生活に幕を閉じた。2015年にはジュリアン・ジョーンズさん殺害の罪で懲役23年の刑をくらった。4児の母親だった22歳のジョーンズさんは、アトランタで強盗に遭ったクリッテントンが犯人めがけて発砲した弾に当たって死亡した。

ロッカールームの件で選手生命を棒に振ったアリーナスは、ワシントンポスト紙にこう書いている。「聞いた話では、奴はさらに荒んだそうだ……悪いことが起きて人生が変わると、心を入れ替え得る人間もいる。ジャヴァリスは違ったらしい――奴は“ワル”に磨きがかかり、ますますタブになった」

時に大金は歯止めにはならず、むしろ稼ぎ頭として権力をかきたてる。周囲に群がる太鼓もちや取り巻き連中が起こした面倒で、有名人がとばっちりを食う場合もある。元NBAスターのポール・ピアースは週末、モラントの肩を持つツィートを投稿した。「世間がジャをどう言おうが知ったこっちゃない。俺も一度刺された後、銃を持ち歩くようになった。世間は奴の状況を知りもしない。人生でどんな目に遭っているか知りもしないで、みんな好き勝手いいまくっている。要するに、金がある黒人は目の敵にされるって話さ」。

銃を所持していただけで犯罪者扱いする世論から、モラントを守ろうとする擁護派の気持ちも理解できる。だがモラントが他にも暴力沙汰を起こしてきたことをふまえると、「大騒ぎするほどのことじゃない」という理屈はまかり通らない。憲法修正第2条の問題では収まらない。モラントの動画が射撃場や狩猟中で撮影していたのであれば、何の問題もなかっただろう。だが10代の少年を殴り、Twitterでユーザーを脅し、「悪ぶっている」と言われれば「そうだ」と開き直り、ショッピングモールの警備員やペイサーズのチームと厄介事を起こし、クラブで上半身裸で銃を振りかざす動画を上げる。これらはさらなる揉め事の前兆とも受け止められる。ひょっとしたら今回の一件は彼にとって、人生を変えるような間違いを犯す前の警鐘として必要だったのかもしれない。

選手の暴力行為は、荒んだ人格形成期の副産物だと言えないこともない。だが、今回は当てはまりそうにない。ジャ・モラントはよるべのない「環境の産物」ではない。非は彼自身にある。ひとかどのNBS選手になったとか、名声に苦悩しているとかいうよりも根深い問題だ。彼と同じようにアイデンティティの危機を抱える全米の子どもたちは、ジャレン・ローズやシャノン・シャープからTVで励ましてもらえたりはしない。今回の一件は、この国が暴力を偏愛していることを如実に表している。とくに誰かを傷つける理由もない億万長者のスター選手ですら、公の場でギャングを気取るのだから。こうした人間を生む状況が一掃されれば、世の中ももっとましになるだろう。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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