永瀬正敏が語る、信じる道を歩き続けてきた男の美学

永瀬が初めて煙草を吸ってみたのは、バンドを結成した頃。「煙草は20歳になるまで吸っちゃダメですけど、その時は煙草を吸っている先輩に憧れてたんです。だからカッコつけてただけで味なんて全然わからなかった」と振り返る。そのバンドで学園祭に出場したが、同級生で歌手になりたい女の子がいて、一曲だけその子をステージに立たせてやろうとザ・ヴィーナスの「キッスは目にして!」をカバー。ボーカルだった永瀬はコーラスにまわった。学校の卒業アルバムにバンドの写真が掲載されたが、バンドの中心には女の子がいて永瀬はいちばん端。「僕、ボーカルだったんですけどね」と永瀬は笑った。

学校を息苦しく感じていた永瀬にとって、音楽との出会いが救いだった。バンドをやっている先輩からもらったミックステープを聴いていて、永瀬はいろんなアーティストを知った。

「クラッシュとかイギー(・ポップ)とかRCサクセションとか、テープにはいろんな曲が入っていて、それを聴いてがっつり掴まれたんです。僕はバイクに乗って学校の廊下を走るような不良じゃなかったけど、屋上で煙草を吸ってヒットナンバーを聴く気持ちはよくわかった。音楽にはすごく助けてもらいましたね」



RCの「トランジスタ・ラジオ」みたいな青春を送っていた永瀬が、日本の伝説的なパンク・バンド、亜無亜危異をモデルにした映画『GOLDFISH』に出演することになった。80年代に社会現象を起こしたガンズというパンク・バンドのメンバーが、30年ぶりに再会して再び音楽を始める、という物語だ。監督を務めるのは亜無亜危異のギタリスト、藤沼伸一で、永瀬が演じる主人公のイチは藤沼をモデルにしている。話が来た時、永瀬はどう思ったのだろう。

「亜無亜危異は僕が中学生の頃にデビューしたんですけど、ある種のカリスマ性を持ったバンドでした。同級生や先輩たちがペタンコのカバンに亜無亜危異のステッカーを貼っていたのを覚えてます。13~15歳の頃って子供でも大人でもない難しい時期じゃないですか。そういう子供達に衝撃を与えたバンドだと思うんですよね。そんなバンドをモチーフにした映画で、しかも藤沼さんが監督をすると聞いて、これは腹をくくらないとダメだなって思いました。ヘタするとギターで殴られるんじゃないかって(笑)」

藤沼は初対面で、子供の頃に衝撃を受けた亜無亜危異のメンバーともなれば緊張するのは仕方ないが、一緒に仕事をしてみて、どんな印象を持ったのか。


©2023 GOLDFISH製作委員会

「とても温和な方で、僕と同じ目線に立ってくれるような気がしました。亜無亜危異のメンバーにも会わせてくれたんですけど、みんな良い人たちなんですよね。僕はこれまで、イギーとかジョー(・ストラマー)とか、たくさんの本物に会ってきました。彼らはみんな繊細で優しかった。パンクスは何でも壊そうとする人たちだと思われがちですけど、理不尽なものを壊せと言ってるのであって暴力的な人たちじゃない。藤沼さんもそういう本物の一人でした」

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