青山吉能と水野朔が語る、アニメとバンドの幸せな関係

想像を超えてきた、アニメーションの表現

ー「ぼっち・ざ・ろっく!」のキャラクターたちの多彩なデフォルメも可愛くて好きなんですが、アフレコの時は皆さんまだ目にされてない状態なわけですよね。実際にアニメーションになったものを見て、どうでしたか?

青山 めっちゃビックリしました。一応台本には、上の方にト書きで、「後藤ひとりがポリゴン風になって、宇宙の果てへ飛んでいく」みたいに書いてあるんですよ。どういう意味なんだろうっていうト書きがめっちゃ多くて、でもどうにかなるのかって思って放送を見たら、本当に台本の通りになってて。

水野 (笑)すごかったですよね。

青山 ぼっちちゃんが、父・母・妹・犬でチケットノルマの振り分けを考えるシーンも、「トランス状態みたいな感じ」って書いてあったと思うんですよ。でも、まさかあんな映像になるとは思ってなくて。アフレコをする時は、音響監督の藤田亜紀子さんも私もきっとこうなるんだろうって予想のもとにいろんなお芝居を試していくんですけど、藤田さんの後ろに毎回必ず斎藤圭一郎監督が座ってらっしゃって、「この絵はこうなる予定なので、こうしてください」みたいな指示を出してもらっていました。

水野 アニメ放送中の結束バンドのLINEがすごかったですもんね。「なんだ今のは!」って。

青山 ね。急にハニワが走り出したり、メンダコみたいになったり、たこせんが実写だったり。「今のたこせんって実写だったよね !?」みたいな(笑)。こんなことアニメで許されるんだって手法がいっぱいあって、それも人気の一つだと思います。

水野 そうですね。もともとアニメ好きでいろいろ見てますけど、私も初めて見ました。衝撃的でしたよね。

ー想像を超えてきたと。

青山 そうです。軽々と超えられちゃって。言葉選びとか虹夏ちゃんのツッコミも面白くて、アフレコも一筋縄では行かない部分もあったので、毎回かなり時間をかけて録ってたんです。絵がない状態で声だけ聞いても絶対面白いって思ってもらえる自信はあったので、そこに面白い絵がついたら、めちゃくちゃ面白いに決まってるじゃないですか。そこに関しての自信はあったかもしれないですね。楽しかった。

水野 楽しかったですね!

ーぼっちちゃんがSICK HACKのライブを見てるシーンのト書きも凄かった?

青山 あれもアフレコする直前で、監督から「台本に乗り切らないから、これ読んでください」って、A4の紙3~4枚渡されて読むって感じでした。

ー曲に対するぼっちちゃんの評も的確でしたよね。評論家みたいで(笑)。

青山 ほんとに(笑)。ライブハウスの後方で腕組みながら語ってる、みたいな。

ー自分の声がアニメーションと合わさった時にどうなったのかを見るのは、声優さんならではの醍醐味の一つじゃないですか。

水野 そうですね。自分たちがやったことが絵になって生かされ、さらにいいものになってるっていうのは、すごくうれしかったです。

青山 第8話(「ぼっち・ざ・ろっく」)のライブで「ギターと孤独と蒼い惑星」を演奏した時、ヨレヨレだったじゃないですか。あれはボーカルの喜多郁代役の長谷川(育美)さんが、アフレコでセリフを録る流れで急遽ボーカルを録ったので、現場もすごく緊張感があったんです。ドラムもなんかもたついてるし、ギターも全然合ってない。歌も、聴いていてハラハラする感じが表現されてる。あれはアフレコの場で長谷川さんが、「今日歌える?」って突然言われて、「え、今からですか?」「うん、譜面台持ってくるから」って、アフレコブースで歌詞と譜面台を渡されて、オケが流れて、はい!って歌ったファーストテイクが使われてるんです。私たちもそれを横で見てる。頑張れも言えないし、ただ目で見てるしかないみたいな。すっごい緊張感があって、私たちは歌わないのに手が震えてるし。その時の空気感がアニメでも伝わってきて、いろんな人がもう見れないって(笑)。



水野 (笑)。

青山 自分も心がざわざわするくらいリアリティがある。

ーそんな舞台裏があったんですね。

青山 お芝居へのこだわりもすごかったです。さっきも言ったんですけど、めちゃくちゃ時間かけてましたし、この作品、とりわけプレッシャーがすごくあって。後から聞いたら、音響監督の藤田さんが、ぼっちが何事にも怖がってる様子をリアルに出したくてとおっしゃってて、納得しました。音響監督が藤田さんでよかったなって思います。藤田さんじゃなかったら多分、あの空気感は生まれてない。みんなちょっと緊張してるんですよ。あ、藤田さんだ、みたいな。

水野 そうですね。いい意味でですよ。

青山 そう。そういうのも相まって、リアリティが生まれていった気がします。そんななかでも、リョウさん役ってのびのびやらないといけないじゃないですか。でも実は、キャストの中でも水野朔が一番年下なんですよ。あの奇人を演じるのはどうだった?

水野 他のキャストさんに比べて割と自由にやらせていただけた感があって。最初こそ「リョウはこういう子だから」って指摘はいただいてたんですけど、途中からほとんどなくなったんです。リテイクはあったとはいえ、あんまり突っ込まれることがなくなって。リョウのなかでも大事なシーン、ぼっちに歌詞を伝えるシーンとかは、いろいろ指摘をいただいてやっていたんですけど、日常のシーンで指摘されることは少なかったかもしれないです。そのおかげでのびのびできて、藤田さんにも褒めていただけました。褒められるとうれしくなっちゃうので、そこからは自分のなかでもしっくりくるリョウさんを演じられたんじゃないかなと思います。

ーリョウさんはどんな時もマイペースで、怖がらなさそうですもんね。

水野 そうですね。ドンとしてる。私もけっこうマイペースなので(笑)。

レコーディングやアフレコで込めた想いが「音楽」に

ー結束バンドのアルバムはオリコンチャートで1位になって、サブスクでもたくさん再生されてますよね。リスナー目線でこのアルバム、どうですか?

青山・水野 最高です(笑)。

青山 マジで最高。制作陣のなみなみならぬ自信が、演者にも伝わってくる。ハードルって一度上げちゃうと下げにくいから、そんなに上げて大丈夫かなって思ってたんですけど、もっと上げてもよかったなって思うくらい、ほんとにいいアルバムだと思います。アニメソングというカテゴリーを抜きにしても、すごくいいです。

水野 私はリョウ役としてほとんどの曲でコーラスを入れさせていただいてるんですけど、事前に収録された長谷川さんのボーカルを聴きながら、毎回レコーディングに臨んだんです。歌のフレーズのアクセントも、できる限り長谷川さんに寄せるようにしていて。長谷川さんもすごく気持ちを込めてレコーディングしてらっしゃるので、毎回しっかり聴いて、その気持ちに添えるようにコーラスさせていただいたんですけど、唯一「フラッシュバッカー」の時だけ、自分が歌いたいようにコーラスしていいよって言われたんです。「フラッシュバッカー」って割とテンポが遅めの曲調だったので、曲のニュアンスの問題だと思うんですけど。



青山 リョウとしての自我みたいなものが収録されてるってことですね。それは熱いな。今すぐ聴き返したいですね。

ーボーカルが先に録った音源に合わせるって、リアルにバンド気分を味わえますね。

水野 はい(笑)。ミックスとかされてない生歌の状態で。育美さん(長谷川)、めちゃめちゃ上手です。

青山 ボーカルが強すぎる、あまりにも。

水野 すごいですよね。本当に。

青山 私は「転がる岩、君に朝が降る」しか歌ってないので、アルバム収録曲の他の13曲がどんな曲で、どんな感じで来るのかを全く知らなかったんです。アフレコで初めて、「あのバンド」ってこんな曲なんだとか、「星座になれたら」って神曲じゃん!って、お客さんとして知ることができて新鮮で楽しかったですね。

水野 私は一足先に聴かせていただいて。

青山 うらやましい。曲作りは2~3年前から行われてたみたいで。私、こんな神曲を、2~3年も人に黙っておけない。

水野 確かに(笑)。

青山 私、こんな曲作ったんだけどって、絶対自分の個人ライブとかで話したくなる。なのにみんなすごい、長谷川育美すごいなって思います。



ー青山さんと水野さんは、劇中ではソングライティングを担うメンバーですよね。

青山 そうなんですよ。今回のアルバムの歌詞を見てると、これ、ぼっちちゃんが考えたんだって思います。実際の作詞はZAQさんや樋口愛さんたちなんですけど、でもみんなぼっちちゃんとして書いてくださってる。だから、ぼっちちゃんの“中の人”が今この世に何人かいることになるんですけど、それがすごくよくて。バンドならではというか、誰かがつくった言葉じゃなくて、自分たちがつくった言葉を自分たちで演奏する。その付加価値だけでも神曲って言ってもいいのに、曲がいいから、そんな付加価値がなくったって評価されていることもよくて。もういい、いい、いいんですぅ……(泣)。

水野 (笑)。

青山 全然言葉が出てこない。ほんとに、めっちゃいいなって思ってるんです。


Photo by Mitsuru Nishimura


Photo by Mitsuru Nishimura

ーいろんな方がぼっちちゃんに寄り添ったアプローチで歌詞を書いてくれて、そこに結束バンドとしてのストーリーが加わっていくことで、ぼっちちゃんへの解像度がより上がるんじゃないですか?


青山 そう思います。特に最終回で披露された曲(「忘れてやらない」「星座になれたら」)は、誰に向かって書いてるんだろうって想像するとより芝居に熱が入りました。例えば、ぼっちちゃんが喜多ちゃんと出会って、喜多ちゃんのことを思いながら書いたのかなとか、ぼっちちゃんの想いだけじゃなくて、リョウさんからの「もっとこうした方がいい」って意見もあったのかとか、虹夏ちゃんはみんなの母みたいな存在だから、これがもし喜多ちゃんじゃなくて虹夏ちゃんに書いてる曲だったらどうだろうとか想像するだけで、ごはんが3杯食べられるというか。ストーリーの中ででき上がった曲でもあるので、作品のファンの方にそういった意味でも曲を楽しんでいただけて、いろんなところで考察とか解釈を目にするんですけど、私はそういうことも期待してアフレコに臨んでいたので、そうやって楽しんでもらえてることがすごくうれしいです。

ー水野さんは「カラカラ」でボーカルを担当していますけど、作詞・作曲はtricotの中嶋イッキュウさんですよね。

水野 はい。変拍子から入る曲で、初めにいただいたのがイッキュウさんが歌ってらっしゃる仮歌だったんですけど、仮歌の時点ですでに完成していて(笑)。できる限りイッキュウさんの歌い方に寄せて歌おうとしたんですけど、ちょっと気だるげな感じがリョウさんとしてもマッチするというか、歌詞にも意味があるので、それこそよっぴーさんがさっきおっしゃっていたように、虹夏に向けて歌っていたらこんな感じだとか、いろいろ考えながら歌わせていただきました。“前借りしてるこの命を 使い切らなくちゃ”ってフレーズがとっても好きで。リョウさんって掴みどころがないけど、バンドに対してはちゃんと信念を持ってやっているところがあるんです。虹夏の夢も含め、リョウさんはみんながどういう気持ちでバンドをやっているのかしっかりわかっているんじゃないかなと思いながら歌わせていただきました。サビに入る前のところも1番と2番で変わっていて、感情の入れ方も少し違うので、そういう些細なところにも気づいてくださったらとてもうれしいです。

ーtricotのTwitterでもこの曲についてツイートしてましたよね。

青山 動画もあげてらっしゃいましたよね。

水野 セルフカバー的な。うれしかったです。



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