ヤング・サグが1年以上勾留、ラップに対する人種差別的偏見が妨げに 米

アトランタ市フルトン郡の裁判所に出廷したラッパーのヤング・サグ(本名ジェフェリー・ウィリアムズ)(NATRICE MILLER/ATLANTA JOURNAL-CONSTITUTION/AP)

ヤング・サグ、ガンナ、他26人の被告人が56件の容疑で起訴されてから、2023年5月8日でちょうど1年になる。アトランタ市フルトン郡地方検事局のファニ・ウィリス検事は、サグ(本名ジェフェリー・ウィリアムズ)がストリートギャング団Young Slime Life(YSL)のリーダーだと主張している。ウィリアムズは容疑をすべて否認しているが、2022年5月9日にアトランタの自宅でフルトン郡警察に逮捕されてからずっと勾留されたままだ。これまでに4度、直近では4月26日に保釈を申請しているが、彼が社会に対する危険人物だとするウラル・グランヴィル担当判事の判断で、すでに3度却下されている。

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だが、そうした考えはウィリアムズのラップの歌詞に影響されている部分もある。司法制度の人種格差を浮き彫りにする、言論の自由をめぐる問題だ。有罪が確定するまでは何人も無罪だとする「推定無罪」が、裁判を今か今かと待つウィリアムズや共同被告には適用されていないと批判する声も上がっている。だが、こうした災難に遭っているのはウィリアムズだけではない。収監制度に内在する人種的偏見が原因で、起訴された黒人や有色人種は本当の意味で「推定無罪」とみなしてもらえない。ジョージア州以外でも一般市民は過剰な取り締まりを受け、留置所はキャパオーバーだ。公判手続きの遅延により、無実の人々は罪人のように檻の中に閉じ込められている。

ウィリス検事は2022年10月、公判開始日を1月9日から3月27日に先延ばしする申し立てを行った。3TBを超えるデータが見つかったため、精査する時間が必要だというのが理由だ。グランヴィル判事はこれを却下したが、その際こう言い渡した。「被告の大半は保釈を認められていない。本件の公判開始日に関しては、裁判所にも負担になる。彼らには裁判を受ける当然の権利がある」。

陪審選任手続きは1月4日から始まり、気の遠くなるようなスローペースで今も続いている。グランヴィル判事の予想では6~9カ月はかかるとみられる裁判でのために、日程を空けられる陪審員12人を見つけるのは困難なためだ。5月19日までに1200人を超える陪審員候補が召喚されることになっているが、そこから12人に絞り込むことができなければ、さらに追加召喚される可能性もある。

元検事のニーマ・ラマニ弁護士いわく、陪審選任がなかなか進まないのは事件が広範囲にわたっているせいでもある。なにしろ10人の被告がいっぺんに裁かれるのだ。「この事件の問題点は、判事がすべての訴因をまとめて裁こうとしている点です。十数人の被告がいて、それぞれが弁護士を立てる権利を持ち、それぞれの弁護士が陪審員候補や証人1人1人に質問する権利を持っている。十数人の弁護士が陪審員候補や証人に質問していくので、通常なら数分で終わるのが何時間もかかってしまうのです」。

またラマニ氏いわく、事件の話題性が陪審選任に悪影響を及ぼしているという。「おそらくアトランタ市でも過去最大級の裁判です。市民権をめぐる裁判が世間をにぎわせている中でのことですから、既成概念をもたない陪審を見つけなくてはならないでしょう」。

陪審選任手続きは8月にもつれ込むと見られているが、そうなればウィリアムズ他13人の被告は15カ月間も勾留されることになる。ウィリス検事はYSL裁判だけでなく、2020年の大統領選挙絡みでドナルド・トランプ前大統領を恐喝容疑で捜査している真っ最中だ。これほど大きなヤマは、すでに枯渇しているフルトン郡検事局の財源に間違いなく響いているとラマニ氏は言う。

「ファニ・ウィリス検事はトランプ氏を捜査中です。選挙結果介入容疑で起訴すれば、アメリカ史上もっとも政治色の濃い裁判となります。現実的に考えても、他の事件は蔑ろにされるでしょう」

さらに同氏はこう続けた。「私は検事時代、麻薬や人身売買が専門でした。麻薬カルテルの事件に集中して、大麻や街の売人は相手にしませんでした。無意味ですから」。

Akiko Kato

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