ブルーノ・メジャーが語るタイムレスな作曲術、親密な歌心を培ったルーツとメランコリー

 
「メランコリー」はどこからやってくる?

―割と古い名前についてばかり質問してきましたが、レディオヘッドの名前も挙げていましたね。

BM:レディオヘッドやディアンジェロ、J・ディラもそうなんだけど、彼らにはリリシストとしてではなく「音響」に関して大きな影響を受けている。歌詞が目的でディアンジェロを聴く人はあまりいないはずだ。むしろ音響的な体験が求められていると思う。それはプロダクションがもたらすもので、シンガーソングライターにとっても重要な要素の一つだ。「どうやったら聴き手に対して、ある種の感覚や感情を喚起することができるんだろう?」と考えるのがプロダクションだ。ウラディミール・ホロヴィッツが演奏するベートーヴェンの「月光」を聴くと、歌詞がないのにある種の感情が呼び起こされ、悲しくメランコリーな気分になる。それが音響(sonics)の力なんだ。

僕の音楽を聴けば、音響的にはレディオヘッドの影響がたくさん含まれているということに気づくと思う。例えば、ニューアルバムの収録曲「You Take The High Road」を聴けばわかるはずだ。それに自分の歌い方は、トム・ヨークのファルセットにも影響を受けている。彼は高音を出す時に、ものすごく表現豊かに歌うからね。そこは自分の歌い方にも共通するところだと思うよ。




―今、「悲しい」とか「メランコリー」といったエモーションを表現する単語が出てきました。あなたの音楽にとって、それらはすごく重要な要素なのではないかと思うのですが?

BM:それはディープな質問だね。僕の音楽は、自分が感じたことを素直に表現したもの。だから、自分の中には「悲しさ」とか「メランコリー」というものが確かに存在しているんだと思うよ。とにかく、そういうこと。僕は音楽を作るとき、頭で考えないようにしている。一番良い音楽ができるのは、脳が完全にスイッチオフされた状態で、身体で感じている時。悲しくしようとか、メランコリーにしようとか、こういうふうにしようと考えて音楽を作っているのではなくて、自分の中にある感情を表現しているだけだから、その時、感じたものがそのまま音楽として反映される。だから、自分の中にメランコリーな感情があるっていうことなんだと思うよ。

―例えば、「メランコリー」の表現に関して影響を受けたアーティストはいますか? それとも自分自身の中から出てくる感覚なのでしょうか?

BM:僕が初めてアーティストになりたいと思ったのは、ニック・ドレイクの『Pink Moon』を聴いた時だった。ポーランドのワルシャワでギグをやっていたんだけど、インフルエンザになってしまい、2日間くらい寝たきりだった。熱にうなされながら『Pink Moon』を聴いて「これはすごい!」と思った記憶がある。あのアルバムには間違いなくメランコリーな要素があると思うよ。色々な人が、色々なタイプの音楽を作っている。ファレルは「Happy」という曲を作っているけど、僕はそういうタイプの人間じゃないってこと(笑)。



―そのニック・ドレイクの「メランコリー」って、あなたの言葉で説明するならどんなエモーションになりますか?

BM:彼のメランコリーは彼特有のものだよね。ニック・ドレイクの音楽にはアセクシュアルな感じがあって、そこがとても興味深い。彼の音楽には、テストストロン(男性ホルモン)みなぎるアルファ男性(訳註:男らしさをそのまま形にした、いわゆる「男の中の男」と喩えられる男性)らしさが感じられない。その反面、例えば、ビリー・ジョエルなどは、銃士や海賊みたいな感じの堂々とした生き様で、愛や喪失感などについて歌っていて、男性ホルモンが強そうな感じがする。ニック・ドレイクは内省的でアセクシュアルだと思うんだ。シェイクスピアのパック(訳註:シェイクスピアの戯曲『夏の夜の夢』に登場する妖精)みたいなキャラクターで、自身の経験について知的に語っている。まるで彼が退屈しているみたいな感じ。彼はたしか比較的裕福な家庭で育ち、大学も出ているインテリなんだよね。ニック・ドレイクの魅力は、彼の音楽を聴いていると、彼がベッドの端に座りながら音楽を演奏していて、その音楽は自分だけに向けて演奏されているように感じられるところ。ニック・ドレイクのレコードを聴くと、自分と彼だけの特別な瞬間がそこにあるような、不思議な感覚がするんだよ。ニック・ドレイクが自分だけに歌ってくれているような。僕はそういうところに影響を受けて、自分の音楽でもそれをやりたいと思っている。僕の音楽は親密なものだし、できるだけパーソナルな感じにしたいと思っているからね。

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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