ブルーノ・メジャーが語るタイムレスな作曲術、親密な歌心を培ったルーツとメランコリー

 
『Columbo』での挑戦と進化

―ここからは新作について質問させてください。『Columbo』は過去の2作とは異なるサウンドだと感じました。音楽面のコンセプトを聞かせてください。

BM:たしかに、これまでの2作とは違うサウンドになったと思う。別に意図したわけではないんだけどね。僕は何かしらのサウンドを意図してアルバムを作るということはしないから。自分には決まった作曲方法があってね。最初はギターとiPhoneのメモ機能を使って、歌の部分を書く。それが終わったらボーカルと楽器、ギターかピアノだけをノートパソコンに録音する。そして、そこから細かいパーツごとに一つずつ作り上げていくんだ。「この曲には何が必要なんだろう?」ということを考えながらね。ドラムビートが必要かもしれないし、ベースギターかシンセサイザーかもしれない。シンセサイザーはご覧の通りたくさんある(自宅スタジオの中にずらっと並んだ楽器をZoom越しに見せながら)。だから、特定のサウンドを目的に音楽を作っているわけじゃないんだ。自分のその時のクリエイティブなマインドが、そのまま音楽として反映されている。

あと、今回のアルバムはロサンゼルスのシルバー・レイクで作曲したんだ。僕としてはシルバー・レイクのサウンド、カルフォルニアらしいサウンドのアルバムになったなと思う。



―カルフォルニアのサウンドというのを、もう少し具体的に説明すると?

BM:僕はギター奏者だけど、最初の2枚のアルバムはピアノを使っての作曲が多かった。でも、今回のアルバムはギターで作曲したんだ。それがサウンドの違いに貢献しているかどうかは分からないけど、おそらくそういうことなんだと思う。カルフォルニアの「サウンド」というよりは、むしろ「フィーリング」に近い気がするね。別にビーチ・ボーイズやジョニ・ミッチェルみたいなサウンドにしたいと思ったわけじゃない。「芸術は環境の産物」とよく言うように、このアルバムはカルフォルニアで書いたから、僕にとってはカルフォルニアな感じがするってこと。

でも同時に、イギリスの影響もたくさん含まれているんだよ。レコーディングはロンドンで行ったから、アルバムにはエルトン・ジョンやクイーン、ピンク・フロイド、ニック・ドレイク、レディオヘッドの影響も詰まっている。だから、このアルバムにはイギリスらしいフィーリングも感じられると思うよ。

―アルバムを聴いて、僕もエルトン・ジョンに通じるものを感じましたけど、これまでの作品からすると意外な名前ですよね。

BM:エルトン・ジョンの魅力は、コーラス部分になるとすごく開けっ広げで、“Hold me closer tiny dancer〜♪”のように、彼は仰々しく歌い上げる。そういう瞬間を今回のアルバムにも入れたかったんだ。「We Were Never Really Friends」を聴くと“Don’t Make Me Make The Call〜♪”の部分なんかは、ビッグで広がりのあるサウンドになっている。母親が夜中3時のキッチンで、ワインを飲みながら、大声で歌い上げている感じをイメージしたんだ。エルトンは、曲の構成にものすごい自由度があるところがいいと思う。ピアノの演奏も影響が入っているかもしれないね。




―エルトン・ジョンだけじゃなくて、さっき名前が出たビリー・ジョエルも感じました。そういったピアノメインのソングライターで、しかもパワフル系の人たちの影響がかなりありますよね。

BM:確かにそうだね。ビリー・ジョエルは上手すぎて僕を不安にさせるアーティストの一人なんだ。あんまりそういうアーティストはいないんだけど、彼はそのうちの一人に入る。個人的には、彼こそがトップ中のトップだと思う。ビリー・ジョエルの業績を見ると、彼がどうやってあれほどのことを成し遂げてきたのかが信じられなくて、その才能に恐れを抱いてしまう。ピアノの演奏もトップレベルだし、歌も素晴らしい。そして、とにかくかっこいい! オタクっぽいとか、ギークっぽいとか、テクニックに凝りすぎている感じが一切しない。彼の音楽はアイコニックで、感情や人生、死、愛について何らかの理解がある人なら、誰にでも伝わるという普遍的なものなんだ。僕が作りたいのはそういう音楽なんだよね。僕は、自分を偉大なアーティストたちと比較する。今まで成し遂げられた最高のものと、自分を比べない理由なんてないだろう? でもビリー・ジョエルを聴いた時は「ちくしょう!(=負けた)」と思ったね(笑)。

―あとはさっき名前が出たところだと、ピンク・フロイドというのは意外な気がしました。それは自分の音楽のどの辺りから聴こえると思いますか?

BM:ピンク・フロイドに関してはギターの話に戻るんだけど、13歳の時に「Another Brick In The Wall」のソロ部分を習ったんだ。(口ずさみながら)今でも覚えてるよ。「Comfortably Numb」も大好きだった。彼のギター演奏がとにかく大好きなんだ。つまりピンク・フロイドの影響とは、実はデヴィッド・ギルモアの影響という意味ってこと。同じようにクイーンの影響はブライアン・メイの影響ってことだね。僕はギター奏者だから。「The Show Must Go On」のギターソロ部分にはデヴィッド・ギルモアの影響が感じられると思うよ。




―新作は多くの曲が共作で、しかもクレジットの比率が50/50とか60/40とかですよね。共作したのって今回が初めてですか?

BM:コライトは昔からやっていたよ。いつも一緒に仕事をするクルーがいるんだ。ダン・マクデューガル、エミリー・エルバート、レイリー・コール、そしてレコーディングを毎回一緒に行う、共同プロデューサーのフィン(・ファイロー)。共作はすごく好きなんだ。一人で作曲するのとは違う感じだからね。例えばニューアルバムの「Trajectories」や「18」を聴くと、共同で書いた曲とは違う(自分がひとりで書いた)雰囲気が聴こえると思う。でも、色々な人から影響を受けて作曲するのはいいことだと思うんだ。



―共作をしていても、すべての曲がブルーノ・メジャーらしく聴こえるんですよね。他人と50/50で共作する目的って何だと思いますか?

BM:共作する人によって、自分の違う一面を引き出してくれるんだよ。ダン・マクデューガルはとても論理的な考え方をする人で、構成を組み立てるのが上手い。例えば、「Columbo」は、ヴァースとコーラスだけは僕が書いて出来上がっていたんだけど、その先の発展をどうすればいいのか分からなかった。だから、ダンに曲を聴かせたら、「これはここにするべきで、これはこっちだ」「このセクションをここに入れよう」などとアドバイスしてくれる。彼は、メロディやハーモニーを聴き取るのも得意だ。レイリーと作曲をするときは、すごく安心感が感じられるから、彼女には心の内を曝け出すことができる。二人で、僕の祖母についての曲を一緒に書いたんだ。エミリーはとてもピースフルな人で、カルフォルニアの天使みたいな人なんだよね。彼女には穏やかな雰囲気が常にある。「Easily」という曲を聴くと、エミリーと共作したということが分かると思う。会話をする相手によって、話題が変わるのと同じことだよ。グルメについて話す相手もいれば、愛や人生について話す相手や、サッカーについて話す相手もいる。共同で作業する人によって、自分の違う一面が出てくるんだ。それはすごく役に立つことだよ。だって、一人で作業しているときは、自分としか対話していないからね。



―自分が話したい内容に合わせて会話の相手を選ぶように、その曲が求めていることによって共作者を選ぶと。サウンドに関してなんですけど、過去の作品はベッドルーム/密室っぽい感じだったと思います。でも、新作は空間が広く感じられるし、バンドサウンドっぽい質感も際立っている。録音に関して、これまでとかなり変えた部分がある気がしたんですが?

BM:違いは全くないよ。ただ録音の腕が上達したんだと思う(笑)。僕の1stアルバムに対して、「どうやってあんなローファイな音を出すことができたの?」と聞かれることがあるんだけど、正直言って、あれは僕のできる限りのハイファイな音だったんだよ。だって僕はマイク1本しか持ってなかったから。これはShure SM7Bで、僕の1stアルバムは全てこのマイクで撮った(Zoom越しに見せる)。でも今はマイクの数も増えたし、ファイローと一緒にアルバムを作ってきて何年も経った。『A Song For Every Moon』をリリースしてから6年も経っているんだよ。アルバムを作るたびに、新しいことを少しずつ学んでいくから、録音の技術も上達している。当初、僕はプロデュースのやり方を学んで、曲の書き方を学んで、いろいろな楽器の演奏のやり方を学べば、アルバムを作ることができると思っていたんだ。それはある意味その通りで、僕はそうやって『A Song For Every Moon』を作った。それはそれで良かったんだけど、2枚作ったら「アルバムを作ること」自体にもスキルがあるんだって気づいたんだ。だからアルバムを作るたびに、いろいろな経験をして学んできて、そのスキルが徐々に上達しているんだと思うよ。そして今回は、これまでよりも少し完全味のあるサウンドのアルバムを作ることができたと思う。

―8月に来日公演があります。どのようなライブになりそうですか?

BM:日本では2公演やるよ! 東京公演は僕にとって3年ぶり。この3年間、僕はステージに上がって演奏をするということをやっていなかった。クレイジーな話だよ。だから、僕自身は、エモーショナルで、緊張して、ワクワクしている状態だと思う。ライブも全て新しい内容にして、新たなセットリストを組んで、新しいメンバーとの新しいバンドで全てが新しいんだ。つまり新しい世界になる。すごいことになると思うよ。だからみんなのサポートが必要なんだ。間違いなく僕はすごく緊張しているだろうからね(笑)。




ブルーノ・メジャー
『Columbo』
発売中
日本盤CDにはボーナストラック2曲を追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13435


ブルーノ・メジャー来日公演
2023年8月7日(月)東京・WWW X ※追加公演 ※SOLD OUT
2023年8月8日(火)東京・WWW X ※SOLD OUT
詳細:https://www.livenation.co.jp/show/1420671/bruno-major/tokyo/2023-08-08/ja

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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