ゴーゴー・ペンギンが語る「変化」と「進化」の過程、坂本龍一やデフトーンズから受け取った刺激

バンドに訪れた「人生が一変するような経験」

─バンドには他にも変化がいろいろあって、所属レーベルもソニー・マスターワークス傘下のXXIMレコーズに移りました。ブルーノートを離れてここからリリースすることにしたポイントは?

ニック:バンドの音楽性が変わってきていたし、僕らも変わるべき時期だと思った。それは前のドラマーのロブ・ターナーが脱退する前の話だけど、大きな変化だったよ。ブルーノートとは3枚のアルバム契約が終わるタイミングで、再契約の話もあった。彼らは素晴らしい人たちだった。僕らが実験的なこと、新しいことに挑戦するのも勧めてくれたし、何か問題があったわけではないんだ。でも、僕らは音楽的に進みたい別の方向が見えてきて、ブルーノートというレーベルではジャズ的なものに対する期待や、重みがあるんじゃないかと懸念していた。次のレーベルをいくつか検討していたときにXXIMを運営している人と話す機会があって、相性が良かったのでここからリリースすることにしたんだ。




Photo by Yuki Kuroyanagi

─最初に言った通り、このアルバムの曲はどれも感情を強く揺さぶるのですが。クリスもニックも、肉親との別れを経験した後にレコーディングしたと聞きました。そういう個人的な体験が影響している曲はどれなのでしょうか。

ニック:僕にとってそれは「Everything Is Going To Be OK」だけど、皮肉なタイトルだね。というのも、その頃はすべてが信じられないほど悪い方向に進んでいるように感じた時期だったから。兄が亡くなった6週間後にリアル・ワールド・スタジオでアルバムをレコーディングしたんだけど、その8カ月前にも母を亡くしていた。2人ともガンで亡くなったんだ。だから僕個人としては、このアルバムはとても大きな出来事だった。ジョンがバンドに加入したのはもちろん良いことだったけど、個人的なことがたくさんあって、信じられないほどきつい時期だったね。

クリス:僕にとっては「You're Stronger Than You Think」と「Last Breath」かな。「Last Breath」は、音楽的にこれまでとはかなり異なるアプローチだったと思う。このアルバムの初期のプロセスでは、みんなで集まって楽しもう、楽器で好きに音を出してみよう、という姿勢に重きを置いていた。先入観にとらわれず、ただ音楽を作ろう、とね。それが「Last Breath」のような曲につながったんだ。これまでとはまったく違うことができたという手応えを感じた。たくさんのことを思い出させてくれる曲だね……作っていく過程で、とてもエモーショナルになった時期だった。ライブで新作の曲を演奏すると、思わず笑顔がこぼれるんだ。ニックがシンセを弾いている姿を見るのも楽しいし、各自の個性をより反映したアルバムになったと思う。

ジョンは加入してからまだ日が浅いのに、この作品での彼はただ植えつけられたという感じがしなくて、いつもそこにいたようで、しっかり根付いている。つい最近、ベルリンで行なったギグの録音を聴き返していたんだけど、僕とニックで思わず「ジョンのドラム、最高じゃない?」と言い合った(笑)。もちろん、前任のロブはとてもいいドラマーだったし、それは疑いようがない。でも、ある日突然、ジョンのドラムスが、ニックと僕がやろうとしていることにぴったり合うようになった、と実感したんだ。それは今までにないことだった。さっき君が言った、3人が対等に感じられるという点は、僕らがやろうとしていることの本質的な部分だと思う。そういう理想的な状態でフル・アルバムを1枚作ることができたのは、思わず笑みがこぼれるほど幸せなことだよ。




─アルバムのタイトルが象徴するように、悲しみに沈んでいくのではなく、希望の光が見えるアルバムになっていると思います。

ニック:その通り。

─コロナ禍を挟んだ後のそういう心境は、「We May Not Stay」などに反映されているでしょうか?

ニック:実は、この曲のタイトルは日時計に書かれていたモットーに惹かれてつけたんだ。文字盤にラテン語で書かれた、古い格言みたいなものがあってね。僕はそういうものが好きだから、頭の中にその言葉がずっとあったんだ。

─クリスは父親になったそうですね。人生が一変する大きな経験だと思いますが、どんな変化がありましたか?

クリス;本当に人生がすっかり変わる体験だったし、まだ慣れないね(笑)。子供を授かったおかげで家にいる時間ができた。それがなかったら、またいつものようにツアーに戻っていただろう。そういう時期がなければ、僕らが置かれている状況を再検討して、バンドとの関係をより良いものにしようと考えることもなかったと思う。僕が祖母を亡くし、ニックがお母さんとお兄さんを続けて亡くした喪失感は途方もなく大きかった。でも同時に、息子の新しい人生が始まって、彼の成長を見守ることができた。このアルバムでは、すべての感情を表現しようとしたんだ。人々を恋しく思う理由も、喪失感を覚える理由も、その人たちを愛しているから。時に辛く、困難な時期だったけれど、愛があったからこそ乗り切れた。そして、こういうことは人間なら誰もが経験することだ。家族を失い、親になり……さらにパンデミックによって、愛するオーディエンスと長い間会えなくなってしまった。日本に来るのは5年ぶりだけど、僕たちは日本が大好きだし、この日が来るのを心待ちにしていたよ。

息子を授かったのは僕の人生で最大の変化だ。この子のためなら死んでも構わないと思える、誰よりも大切な人がいるなんてまったく信じられないことだよ。彼の存在が本当に力を与えてくれる。息子はもう4歳だから、音楽にも興味が出てきてウクレレやハーモニカを触ってるんだ。近いうちに彼をスタジオに連れて行って、いろんな経験をさせたいと思っているよ。

Translated by Kyoko Maruyama

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