ゴーゴー・ペンギンが語る「変化」と「進化」の過程、坂本龍一やデフトーンズから受け取った刺激

プレイリストから読み解く音楽的ルーツ

─海外のレビューを読んでいると、新作のドラムスはDJシャドウなどのビーツと比較されていますね。ビート感という部分で、今回はどんな変化があったんでしょう?

クリス:曲作りでは、僕らが過去にあまりやったことがないようなことをもっと追求したかった。ヒップホップ……特に90年代のインストゥルメンタル・ヒップホップは僕らにとってとても大きな影響源で、DJ KRUSH、DJカム、シャドウに影響されているよ。マンチェスターにはグランド・セントラルというレーベルがあって、キッズの頃はそれがお金をせっせと貯める理由のひとつだった。ミュージック・ボックスとかプラネット・K……そこはもっとドラムンベース寄りだったけど、そういうクラブや、ニンジャ・チューンから出るレコードに刺激されていた。

ジョン:そういうサウンドが流行った頃、サンプル・ソースがどこから来たものなのか調べるのに夢中になった。ジャズやファンクのレコードを聴き漁ってね。アコースティック・ドラムでああいうニュアンスをどう出すか、自分なりに模索したよ。僕はエイフェックス・ツインのようなエレクトロニカや、スクエアプッシャーも大好きなんだ。そこには忙しくて複雑なドラム・パートがあるけど、音量はとても小さくて、その周りには他の楽器のためのスペースがあった。ヒップホップ寄りの音楽でも、ドラムスの音量は大きいけれど、パート自体はシンプルで音と音の間にスペースがあるよね。このアルバムを作り始めるときに方向性を話していて、そのことが頭にあった。僕はここで、「ドラムスでどんなことができるか」という視点に立ちたくなかったんだ。この音楽にとって何が最も効果的で、サウンドからパートに至るまでどうアプローチするか……それを考えていた。一緒に曲を作るということは、そういうことだと思うから。

─最近あなたたちが作ったプレイリストをSpotifyで見つけたんですが、想像以上にジャンルの幅が広くて驚きました。

クリス:本当はミックステープのようなものを作ろうと思っていたんだけど、今年はとても忙しくて時間がないので、このプレイリストに曲をどんどん入れていった。ジャイルズ・ピーターソンとかがやっているように、僕らの嗜好を見せられるようにしたかったんだ。自分たちの音楽を作るときと同じように正直でありたいから、そういう選曲になったね。

ニック:でも、とても風変りな曲ばかりだと思うよ(笑)。



─トゥバ共和国のフンフルトゥが1曲目で驚きました。彼らは個性的な喉唄をフィーチャーしていますね。

クリス:彼らのことはKEXPのセッションを見て知った。喉歌はモンゴルのホーミーを聴いたことがあったけれど、特にファンというわけではなかったし、ああいうアプローチで歌うのを聴いたのは初めてだったので驚いたよ。彼らのインタビューも見たけれど、子供の頃から動物や昆虫の鳴き声を真似していて、あのスタイルを会得したようだね。



─デフトーンズの曲が選ばれているのも驚きでした。こういうヘヴィなオルタナティブ・バンドも通ってきたんですね。

ニック:リミックス・ヴァージョンを選んだよね。

クリス:うん、僕はトゥーリストがリミックスした「Change」を選んだ。デフトーンズはキッズの頃によく聴いていた。僕は8歳からピアノを弾いていたんだけど、11歳くらいになってバンドを組んでみたら、ピアノだとなかなかうまくいかなくて、そのうちベースも弾くようになったんだ。最初に組んだバンドは、ピアノを弾く僕とシンガー、それから楽器を弾かない3人くらいで、自分たちをバンドと呼んでいた(笑)。僕がピアノを弾いてノー・ダウトの「Don't Speak」をやったりしたよ。メンバーがギターを弾くようになって僕がベースを弾き始めてからは、ニルヴァーナやスマッシング・パンプキンズ、デフトーンズの曲なんかをカバーしていた。中でもデフトーンズは当時の僕らにとって大きな存在だったね。彼らは『White Pony』の全曲をリミックスしたアルバムも作っていて、そういう自由な姿勢にも刺激された。



─さっきジョンがこのプレイリストを見て「いいね!」と言っていたんですけど、どの曲についてですか?

ジョン:アフリカ・ハイテックの「Out In The Streets」。ケイクの「The Distance」もいいね。デューク・エリントンの「Fleurette Africaine」も大好きな曲で、過去にプレイしたこともあった。

ニック:ここに選ばれているエイムの「Cold Water Music」という曲でベースを弾いているのは、実は僕なんだ。彼のライブ・バンドに参加していた時期があるんだよ。

クリス:僕はこの曲をティーンエイジャーの頃に聴いて気に入ってた(笑)。その後何年も経ってから、ニックが演奏していたことを知って仰天したよ。



─65デイズオブスタティックの曲が選ばれているのも意外でしたが、メロディの美しさには共通するものがあるなと思って腑に落ちました。

ニック:トラックとして形にはなっていないけど、遊びで「65 Boards Of Canada」っていうタイトルの曲はどうかな、と話していた(笑)。

クリス:あの曲は『No Man's Sky』っていうコンピューターゲームのサウンドトラックに収録されていて、気に入ったんだ。

─他にもこのプレイリストにはブルースマンのR.Lバーンサイドの曲や、ジェファーソン・エアプレインの「Embryonic Journey」があったりするし。他のインタビューではクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの『Deja Vu』の話もしていたでしょ。つまり音楽のスタイルやジャンルに関係なく、ヒントになりそうな要素をいろんなところから集めてきているんですね。

クリス:ジャンル分けって感情的なものだと思う。僕はその音楽が何かを感じさせてくれるなら、どんなスタイルのものでも厭わないよ。僕はダンスが苦手で踊るとひどいけど(笑)、
ダンス・ミュージックを聴いていると踊り出したくなる。ジェファーソン・エアプレインのようなタイプの音楽は、僕の母が夢中にさせてくれたんだ。

ニック:君がさっき、「インストゥルメンタルだけど歌詞が聞こえるようだ」と言っていたけど、このアルバムの曲を書いているとき、僕らはいつもお互いに影響を与え合っていたと思う。ソングライターが歌詞を書くときのように、よりメロディアスで構成された音楽を考えるようになってきた。

─このプレイリストには坂本龍一の「fullmoon」もありました。彼の作品のどんなところに惹かれますか?

クリス:彼は最も素晴らしいミュージシャンの一人だと思う。長い間彼の作品を聴いていたし、彼のインタビューを見たり、テキストも読んだりしたよ。こう言うと悪く聞こえるかもしれないけど、僕は好きなピアニストより嫌いなピアニストの方が多いんだ。ピアニストが演奏する音楽の多くは、アプローチの仕方も含めて、僕にはどうもピンとこなかった。でも坂本は例外で、彼は音楽を聴く確かな耳を持っているし、鋭い指摘をしていると思う。彼のアプローチも好きだよ。映画のサウンドトラックの仕事もそうだけど、彼は明らかに、どうすれば感情的なレベルで聴き手とつながり、スクリーンで見ているものを引き立てることができるかよくわかっている。本当に優れた頭脳を持っている人だった。『Playing the Piano 2022』というドキュメンタリーで、ある曲をゆっくり演奏した理由について、彼は「音と音の間にある響きを聴くのが好きだから」と説明していた。スペースを聴くこと……これは重要なことで、音楽以外にも当てはまる。たとえばスピーチでもすべてを話す必要はなくて、何も言わない方がいい部分もあるからね。




Photo by Yuki Kuroyanagi

─新作には「Friday Film Special」という曲がありますが。あなたたちの音楽は、しばしば映像的だと形容されますよね。たとえばこの曲では、どんな映画が流れている光景を思い描いたんでしょう?

ニック:最初のアイディアは、単にジャムをやってみようということだった。そういうことはあまりやってこなかったから。この曲は僕とクリスが即興でやったジャムから、突然生まれたものだよ。このタイトルは、1980年代に放送していたBBCの子供向けプログラムから来ている。毎週金曜日に子供向け映画を放送していて、それが「Friday Film Special」と呼ばれていたんだ。この曲の内省的でノスタルジックな感じに合いそうなタイトルを考えていて、兄がその番組を見ていたときのことを思い出した。それで、クリスにこれを曲名にしようと提案したんだよ。

─そんな背景があったんですね。メンバーの好みの映画も教えてもらえます?

クリス:う~ん、1本に絞るのは難しいけれど…ウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』が大好き。

ニック:僕は多分、『シャイニング』だな(笑)。

ジョン:僕は『2001年宇宙の旅』。今でも刺激を受けるよ。



─あなたたちは優れたライブ・バンドとして認識されているわけですが、今のあなたたちのライブの見どころを教えてもらえますか?

ニック:ジョンが加入してからライブに対する興奮が高まっているし、セットリストも長くなってきて、より良い形にできるようになった。来年1月の日本公演でやれるかわからないけれど、実はもう新しい曲のアイデアもあるよ。

ジョン:僕らのエンジニアは、スタジオで構築したドラム・プロダクションの効果をライブでも発揮させたいという僕の願望に、本当によく応えてくれている。彼はどうしたらライブのサウンドをもっと良くできるか、常に考えているんだ。そうやって仲間ぐるみで進化しているよ。




GOGO PENGUIN Japan Tour 2024
2024年1月31日(水)Spotify O-EAST
2024年2月1日(木)名古屋クラブクアトロ
2024年2月2日(金)梅田クラブクアトロ
OPEN18:00/START19:00
チケット:¥7,500(前売・1ドリンク代別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3983



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Translated by Kyoko Maruyama

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