ジャングルがソウルの最先端をいく理由「僕らの音楽はUKらしさよりワールドワイド」

ジャングル(Photo by Arthur Williams)

 
ジャングル(JUNGLE)がニュー・アルバム『Volcano』を8月11日にリリースする。アップリフティングなソウル/ディスコ・サウンドを探求するデュオにとって、通算4作目となる本作には、チャンネル・トレス、ルーツ・マヌーヴァ、エリック・ザ・アーキテクト、バスらいつになく多くのゲスト・ボーカリストが参加。加えて前作に引き続き、リディア・キットーが共作者に名を連ね、彼女がメインで歌う楽曲も多く、ジョシュ・ロイド・ワトソン、トム・マクファーランドのツイン・ボーカルが持ち味のひとつでもあったユニットが、さらに存在を拡張させていることを聴き手に印象付ける作品になった。

事実、2013年に結成されたジャングルは、この10年のUKダンス・ミュージック界において、ディスクロージャーに次ぐビッグ・アクトだ。過去の3作はいずれも本国のアルバム・チャートでトップ10にランクイン。この8月にはロンドンで開催される音楽フェス〈All Points East〉でのヘッドライナーを控えている。なお、ジャングルと同日に出演するのはエリカ・バドゥやレイ、ブレスド・マドンナ、バッドバッドノットグッドなど錚々たるソウル〜ダンス・ミュージックの面々。彼らをおしのけてのトリということで、ジャングルの人気っぷりが窺えるだろう。

それにしても、なぜジャングルはここまで本国のリスナーから支持を集めているのか。ジョシュ・ロイド・ワトソンへのインタビューでは、ブリティッシュ・ソウルの系譜に彼らを位置付けながら、その理由に迫ってみようとした。結果的に筆者の目論見は外れてしまうのだが、そのスベっていくやりとりから、不思議とジャングルの特異性(と成功した理由)が浮かび上がってきているとも思う。



—今回は新作『Volcano』についてのインタビューですが、ジャングル結成10周年のタイミングということもあり、あらためてあなたたちの音楽がどのように形成されていったのかについても教えてほしいです。そもそも、あなたがソウルやディスコといった音楽に夢中になったのはいつ頃なのでしょう?

ジョシュ:うーん、ソウルやディスコ自体は僕の好みの音楽ではないんだよな。ファンクは好きだけどね。僕たちはスタイルやジャンルにとらわれない音楽をクリエイトしたいと決めているから、何かひとつのスタイルに影響を受けて曲作りをしているわけじゃない。このバンドでいろいろな音楽の良いところを抽出してはいるとは思うけれど、僕たちのサウンドがソウルやディスコに傾倒しているとは思わないな。

—そうでしたか。それでは、ジャングルの音楽にあるソウル・ミュージックの要素は、どこからきたものだとお考えですか?

ジョシュ:僕とトムは10歳くらいから遊び仲間で、いつしか2人でバンドをするようになったんだけど、僕自身は1人でヒップホップ的なビート・ミュージックも作り続けてたんだよね。その頃に影響を受けていたのは、ティーブスやJ・ディラといったヒップホップのプロデューサーだった。彼らはソウルのレコードを切り刻んでサンプリングしていて、そこにすごく魅力を感じた。そうした音楽からの影響がジャングルの初期のサウンドを形成したんじゃないかな。僕たちのサウンドにあるソウルやディスコといった要素は、あくまでもヒップホップのサンプリングの手法が与えたものだと思う。


ジャングル 左からトム・マクファーランド、ジョシュ・ロイド・ワトソン(Photo by Arthur Williams)

—なるほど。あなたの育った西ロンドンは、4ヒーローやバグズ・イン・ジ・アティックといったソウルフルかつジャジーなエレクトロニック・ミュージックのユニットを輩出してきました。街の音楽カルチャーのなかでも彼らの存在感は大きいですか?

ジョシュ:どちらも聞いたことがないな。バンドなの?

—バンドというか、ユニットですかね。

ジョシュ:その2組については知らないから何とも言えないけど、ロンドンにはいたるところにシーンというかカルチャーがあって、独自の音楽を作っている人たちがたくさんいるよね。僕たちが育ったシェファーズ・ブッシュは……厳密に言うとGoldhawk Road(ゴールドホーク・ロード)なんだけど、いろいろな人種のコミュニティが入り交じっているエリア。僕は家の3軒隣にあるタウンハウス・スタジオというスタジオでよくリハーサルしてたんだけど、ここは、ブラーが「Parklife」をレコーディングした……少なくとも最初のボトルを割る音をレコーディングしたスタジオらしいよ。ちょっとしたトリビアだね(笑)」

—あの印象的なパリーンという音ですね(笑)。70年代末から80年代初頭のブリット・ファンク80年代後半から90年代前半のストリート・ソウルなど、UKには独自のソウルを育んできた歴史がありますよね。ここ数年のイギリスのソウル・シーンについてはどんな印象を持たれていますか? あなたたちにとっては旧知の仲であるインフローが近年ますます活躍していたり、エドブラックなど若手プロデューサーが登場していたりと、充実しているように見えるのですが。

ジョシュ:エドブラック? 知らないな。僕にどんなことについてコメントしてほしいの?

—そうですか。ここ数年のイギリスのソウル・シーン全体について、あなたの所感を教えてほしくて。

ジョシュ:特に何の印象も持っていないかな……。僕たちにはそうしたシーンの一部という自覚もない。実際よく知らないし、ちょっと難しい質問だね。

—わかりました。最近のものより、古い音楽を聴いている感じですか?

ジョシュ:いまはどんな音楽もあまり聴いていないなぁ。聴くよりもむしろ作りたいという感じだから(笑)。ただ最近はボサノヴァをよく聴いているよ。セルジオ・メンデス&ブラジル'66とかそのあたりだね。あとは、デヴィッド・アクセルロッドとか、そんなのを聴いている。サイケデリック・ソウルというか、そんな感じのサウンドが好きなんだ。



— サイケ・ソウルの感覚はジャングルにもありますよね。おそらく新作の「Don't Play」では昔のソウルをサンプリングしていますよね? あそこは何のレコードを使ったんですか?

ジョシュ:エンライトメント(Enlightment)の『Faith Is The Key』という1984年にリリースされたアルバムから使ったんだ。このレコードはコレクターズ・アイテムだったんだよね。一時は800ドルくらいまで値上がりしていたレアな作品なんだ。3年か4年くらい前に初めて聴いたんだけど、タイトル曲がすごく良くて、どうしても僕たちの曲に使いたいと思った。それから粘って交渉し、実現したんだよ。



―ライセンスがとれてよかったですね。ちなみに、あなた自身はジャングルのサウンドのどんなところにブリティッシュネスを感じられますか?

ジョシュ:どうだろう。自分ではあまり感じることがないというか、自分たちがブリティッシュであるということ以外はよくわからないかも……。子どものとき、よく集まってジャムセッションしていたんだけど、GTAなんかのゲームも同時にプレイしてたから、いつも後ろでゲームがつけっぱなしになっててさ。それがある種のビジュアル的な背景になっているというか、そのゲームのサウンドトラックを作るような感じで、曲を作ったりジャムったりしていたんだ。ゲームの舞台はロサンゼルスだったり、マイアミだったりしたから、海沿いのサンセットの情景に合うサウンドをめざした。つまり、ジャングルの音楽はエスケープ・ミュージックなんだ。ブリティッシュネスというより、むしろもっとワールドワイドなサウンドだと思う。

 
 
 
 

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