音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。俳優から監督まで幅広く活躍している齊藤工が、新たにメガフォンを取った映画『スイート・マイホーム』が9月1日より公開された。本作の制作秘話から齊藤本人のプライベートに至る自身の「こだわり」を聞いた。「正直なところ、『これは映画にしてはいけない』と最初は思いました」映画『シン・ウルトラマン』(2022年)の主演に抜擢されたのも記憶に新しく、監督としては長編映画初監督作『blank13』(2017年)が「第20回上海国際映画祭」の最優秀監督賞を獲得。他にも『COPLY+-ANCE』(2020年)や『ゾッキ』(同年)などで、監督やプロデュース業へと活躍の場を広げている齊藤工。彼が新たにメガフォンを取ったのは、2018年「第13回小説現代長編新人賞」を受賞した神津凛子のデビュー作を実写化した『スイート・マイホーム』だ。
舞台となるのは、長野県のとある極寒の町。愛する妻と娘と共に、アパートで暮らす清沢賢二(窪田正孝)は、一軒のモデルハウスに心を奪われる。たった一台のエアコンで家中を隅々まで暖められるその「まほうの家」を、彼は家族のために建てる決心をする。しかし念願のマイホームに越した直後から、奇妙な出来事が起こり始める……というホラー&ミステリーである。
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
前述の「第13回小説現代長編新人賞」で選考委員を務めた角田光代は、「読みながら私も本気でおそろしくなった」と述べ、ホラー漫画家の伊藤潤二は「ミステリーファンのみならず、ホラーファンもきっと満足することと思います」と評したこの作品を、齊藤は映画化することに躊躇したことを明かしてくれた。
「特に幼い命の扱いに関しては、活字だからこそ描ける世界線のエンターテイメントだと思ったので、実は何度かオファーをお断りしていたんです。ただ、原作のことはずっと頭の片隅にありましたし、何度も繰り返し読んでいた時にコロナ禍になってしまって……。誰もが家から出られない状況になり、僕は独り身なのでずっと1人で過ごしていたのですが、テレビのニュースから流れてくるのは、あちこちで起きているというDVの被害でした」