挾間美帆、世界的ジャズ作曲家がデビュー10年で培った制作論「私の曲作りにメソッドはない」

Photo by Dave Stapleton

 
2020年、グラミー賞のラージ・ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされたあたりから、挾間美帆の立場は大きく変わったように見える。著名アーティストや名門ビッグバンド/オーケストラとのコラボも増えたし、次世代の作曲家たちへのレクチャーなどに携わることも増えている。前作『イマジナリー・ヴィジョンズ』からは世界のジャズ・シーンで最も勢いがあるレーベルのひとつ、UKのEdition Recordsからリリースするなど、今ではラージ・アンサンブル・シーンの顔として世界中で引っ張りだこになっている。

そんな挾間が自身のプロジェクトm_unitでの新作『ビヨンド・オービット』を発表した。これまでと異なるのは彼女の様々な活動の断片が収められたものであることだろうか。モントレー・ジャズ・フェスティバルから依頼されて書いた曲、資生堂150周年 メッセージフィルム 『「うつくしい」は、いのちの話。』のために提供した曲をもとにした曲、自身のラジオ番組『挾間美帆のジャズ・ヴォヤージュ』(NHK FM)のテーマ曲など、いくつかの提供曲をもとにした曲も収められている。

ただ、面白いのはタイアップの集積に全く聴こえないことで、挾間は何をやっても強固に自分の創作意欲に従って音楽を書いていることが伝わってくる。そのうえで、m_unitでの過去3作品よりもチャレンジングなサウンドになっている。挾間は一度だって守りに入ったことはなく、いつだってオフェンシブな音楽家だが、ここにきて一層攻めているように感じられる。グラミーへのノミネートなどにより獲得した地位や立場がもたらした余裕や安心感は音楽をさらに自由に、さらに大胆に飛躍させている。挾間はそういう音楽家だ。

今回のインタビューでは、敢えてざっくばらんに話をしてみた。僕は彼女を天才だと思っているが、それはそれとして、もしくはだからこそ、ちょっと変わった側面がある人でもある。ここでは我々の理解を超えた凄みの片鱗が引き出せたような気がする。



―m_unitでは久しぶりのアルバムですが、今回はどういうコンセプトですか?

挾間:コンセプトを一言で表現すると「デビュー10周年」です。m_unitとしては5年ぶりですが、その5年間で自分のオーケストラとか、自分のコンサートとかではない仕事やポジションが増えて、自分のために費やせる時間というのが非常に減ってしまった。そのなかで、どうしても10周年を記念して、なにか皆さんにお届けしたいという気持ちがありました。悪く言えば無理やりですね(笑)。どうしてもやりたいと言って叶えたレコーディングではあるので、そういった意味では時間をかけてというよりも、本当にできることを精一杯やったものをその時点で切り取った感じです。

―そんなにアルバムを出したいモチベーションがあったんですね。

挾間:そうですね。10周年は大きいなと思いました。NYで10年サヴァイブしたということになるので、それは自分のなかではある程度の勇気になりましたね。

―DRビッグバンドやメトロポール・オーケストラなど、名門の音楽監督を務めてきた5年間でもあると思うんですが、そういった経験もアルバムに反映されていると思いますか?

挾間:どうでしょうね。全く別物として捉えていますが、(m_unitに対する)ホーム感は増したとは思います。演奏しているときに感じるのは安堵感なんですよね。それは他のオーケストラにはないものです。ホームに帰ってきた、ただいま!みたいな。そういう気持ちのほうが強かったです。

―世界中のいろんなレベルのビッグバンドやオーケストラと仕事をしてきて、m_unitだからこそできることって感じたりしますか?

挾間:m_unitには容赦なく(曲を)書けますね。他のバンドの人たちには書けないようなことを、ここでは好き勝手やらせてもらえるんです。やっても「ゴメンね」って言えば済むような信頼感と絆がある。それは今に始まったことじゃなくて、ずっとかな。でも今作では、(m_unitに参加している)ミュージシャンから「今までにない書き方をしてた」「攻めてた」とか「今までの3枚とは違うね」とも言われました。

―例えば、どういうところですか?

挾間:「プラネット・ナイン」はトランペットとソプラノサックスのフレーズがすごく複雑なんですが、「よくもやりやがったな」という顔で、奏者に必ず一回顔を見られますね(笑)。あとは、「フロム・ライフ・カムズ・ビューティー」、ホルン奏者に言われたかな、「今までにないアプローチで書いたね」って。割とメロディーが多くて、しかも挑戦的なフレーズが多かったりするので。

―それはどういうところから来たものなんですかね。

挾間:好き勝手できると思って、羽を伸ばした結果なんじゃないですかね(笑)。

 
 
 
 

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