ジャック・リーが語るネイザン・イーストとの共演、韓国出身ジャズ・ギタリストの数奇な人生

 
ジャック・リーの数奇な音楽人生を振り返る

─ここからは、ティーンエイジャーの頃に戻って訊かせてください。あなたが最初に興味を持った音楽はどういう種類のものでした?

ジャック:最初はクラシックが大好きだったから、セゴビアのようなギタリストが好きになったし、ベートーヴェンとかを好んで聴いていた。12歳ぐらいになると周りの友達もロックを聴き始めていたので、僕もそういう音楽を聴くようになった。韓国では米軍基地が身近にあったから、ロックに触れる機会が多かったよ。ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンを他の友達より少し早めに聴いていた。

─ギターを弾き始めたのはいつ頃からですか?

ジャック:10歳ぐらいだね。アコースティックギターを弾き始めた。ピアノのレッスンは4歳ぐらいから受けていたけれど、ギターは独学で覚えたんだ。他の人からギターのレッスンを受けたのはニューヨークに行ってから、18歳ぐらいのときが初めてだったよ。

─あなたの演奏スタイルはアコースティックからエレクトリックまで、本当に幅広いですよね。どんなギタリストに影響されたのか教えてもらえますか?

ジャック:パット・メセニーとウェス・モンゴメリー……ジャズのギタリストで言うと、そのふたりが大きな影響源だった。でも、影響を受けたのはギタリストだけじゃなくて、たとえばハーモニーや空間の使い方はキース・ジャレットを聴いて学んだ。ジャック・ディジョネットのドラミングも好きだし、マイルス・デイヴィスのメロディの吹き方も好き。ディストーション・ギターってことで言うと、僕はジョン・スコフィールドから刺激を受けている。名前を挙げ出すときりがないね。肝心なのは、いろんな人たちからもらってきたものを使って、自分自身のものを生み出すことだと思う。


ネイザン・イースト・バンドで演奏するジャック・リー(2015年)

─ちなみに、今一緒にプレイしているネイザン・イーストの音楽とは、どうやって出会ったか覚えていますか?

ジャック:僕が韓国にいた頃は、彼の存在をはっきりと認識せずに、ボブ・ジェームスやジョージ・ベンソンのレコードを聴いていたと思うんだ。

─80年代にティーンエイジャーだったら、ケニー・ロギンスの「Footloose」も確実に聴いていますよね。

ジャック:確かに!(笑)。当時はネイザンがプレイしているなんて知らずに、たくさんの作品に触れていた。明確にネイザン・イーストというプレイヤーを意識して聴くようになったのはアメリカに渡ってから、フォープレイを聴いたのが最初だと思うよ。



─韓国には17歳までいたそうですね。その頃、80年代までの韓国は、ジャズやフュージョンよりもロックの方が盛んだった印象があります。あなたがプロのミュージシャンとしてデビューした頃には、状況がかなり変わってきたのでしょうか?

ジャック:もしかしたらね。確かに僕がアルバムを出して、初めて韓国でショーをやったときはミュージシャンたちが大勢見に来てくれて、反応を感じた。でも今の韓国の音楽シーンって移り変わりが物凄く早いんだ。ファッションと一緒で、変化があまりにも早すぎる。ミュージシャンもそのときに流行っているものに合わせてどんどん変わるので、今はポップ系のものをこぞってやっていたりする状況なんじゃないかな。

─コロンビア大学でコンピューター・サイエンスを学んでいたとか。その頃の経験が、今の活動に何かつながっている部分はありますか?

ジャック:僕は数学が得意だったのでコンピューター・サイエンスを専攻したんだけど、どうなんだろう(笑)。レコーディングのスタジオツールとしてコンピューターを使うのには役立っているかな。バッキングトラックをいじったり、コードチェンジを考えたり、パソコンは日常的にいろいろな用途で使っているからね。

─大学にいた頃、学内のFM局でディスクジョッキーをやっていたそうですね。その頃のことを教えてくれませんか?

ジャック:コロンビア大学でDJをやったことは、僕にとってとても重要な経験だ。たくさんの素晴らしいジャズ・ミュージシャンに会ってインタビューすることができたし、普通の人が10年かけて学ぶようなことを1年で学ぶことができたからね。それは間違いなく僕を助けてくれた。

僕が話を聞くことができたのは、ギル・エヴァンス、マックス・ローチ、ソニー・ロリンズ、そしてラリー・コリエルやタル・ファーロウといったギタリストたち。つまり、レジェンド級のジャズ・ミュージシャンたちと何人も会うことができたんだ。どの劇場、どのクラブにも入れるフリーパスを手に入れたようなもので、多くの友人を持つことができた。まだ20歳そこそこだったから、学んで吸収するには最高の時期だったし、DJに没頭していたよ。

─あなたがアメリカに渡った頃は今よりも人種差別が顕著だったはずですし、アメリカの音楽界でエイジアンが対等に活躍するのは簡単なことではなかったと思うんです。そういう状況をどうやって乗り越えていったんですか?

ジャック:もちろんニューヨークでも当時から人種差別はあったし、アジア系の移民に対するステレオタイプな考え方に直面したけど、自分は気にしてなかった。それによって自分が恵まれてないっていう風に考えることはまったくなかったよ。その時期のニューヨークは音楽の黄金期だったと思うので、自分の演奏を聴いてもらうためにやれることは何でもやった。

─最近は後輩たちにアドバイスや指導をすることも多いと思います。そういうときに、あなたはどんなことが大切だと教えていますか?

ジャック:バンドや他のミュージシャンと演奏する時間も大切だけど、その前に自分ひとりで取り組む時間っていうのも凄く大切だと思う。そしてひとりでたくさん時間を使って練習した後は、自分より10倍うまい人と一緒にプレイしてみるといいよ(笑)。

─レジェンドたちと共演する機会も多いあなたですが、彼らと接してどんなことを学んできましたか?

ジャック:たとえばパット・メセニーと共演したときは、同じステージにいられるっていうだけで言葉にできない何かを感じるもので……彼がいかに音楽に対してリラックスして取り組んでいるかを見ながら、同時にとてもフォーカスして取り組んでいる様子も目の当たりにした。その瞬間は、彼の名前とか、使っている楽器がどうとか、どれくらい速く指が動くとか、そんなことは一切関係なくなる。ミュージシャンが音楽を生み出しているそのとき、その瞬間というのは、小手先のテクニックでコントロールできるようなものではないんだなっていうことを悟ったよ。


パット・メセニーと共演するジャック・リー(2011年)




ジャック・リー&ネイザン・イースト
『Heart And Soul』
発売中 ※日本盤SHM-CDリリース
再生・購入:https://JL-NE.lnk.to/HeartandSoul

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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