サム・ウィルクス&ジェイコブ・マンが語るデュオとしての哲学、ルイス・コールや長谷川白紙への共感

 
シンセの可能性を引き出すために

―『Perform the Compositions of〜』ではDX7やJUNO-106がたっぷり使われています。即興演奏家として、こういったヴィンテージのシンセサイザーを使うことの意義を聞かせてください。

ジェイコブ:Junoは僕、DX7はサムがすべて弾いている。面白いのは何曲かで(鍵盤奏者の)僕がJunoでベースラインを弾いて、(ベーシストの)サムがキーボードのパートをDX7で弾いてるんだけど、色々アイデアを出し合いながらやってたらたまたまそうなったんだよね。



―お互いの役割が逆になってる曲があると。

ジェイコブ:Junoって僕にとって万能なんだけど、同時にすごくシンプルな楽器なんだ。デジタル・メニューはなくて、ノブとフェーダーだけで全てをコントロールするしね。僕自身はそのパラメーター内でうまくやっていると思うし、色々いじってると無限の可能性があることがわかる。僕はJunoをオーケストラのメンバーの音を再現するのに使うのが特に好きなんだ。例えば、「はいクラリネット、はいフルート、次はストリング・セクション」という風にね。ドラム・ループの一助となるパーカッションのサウンドを作るのも好きだ。即興と作曲で言うと、シンセサイザーを弾き始めた時、自分が扱ってるのはもはやメロディーやハーモニー、リズムだけじゃないってことに気づいた。向き合ってるのは自分が出すサウンドの実際のソニックだったんだ。使ってるパッチそれぞれは、その瞬間に色んなタイプの作曲や即興にひらめきを与えてくれる。それによって自分の固定観念に縛られずに新たな領域を模索する手助けをしてくれるんだ。

サム:僕の周りで、ジェイコブのように自分の楽器を深く理解している人はほとんどいない。彼がJunoから引き出す無限のカラー・パレットだけで音楽を作っていくのは本当に驚くべき光景だよ。

一方で、僕が使っているYamaha DX7はすごく複雑で、FMシンセシス(FM合成)によって無限の音色を合成できるんだけど、実はマニュアルをちゃんと全部読んでないんだ。コロナのパンデミック中に読破しようとはしたんだけどね。僕が持ってるのはダニー・エルフマンが使ってたDX7で、Craigslistで買ったんだけど、最高にクールなサウンドを出すことができる。それに、僕の師匠パトリース・ラッシェンがくれた80年代のカートリッジがあるから、おもちゃを与えられた子供みたいに色んなサウンドを試すことができるんだ。

それぞれ聴き比べると全然違うんだけど、DX7はすごく滑らかでJunoでは出せないハーモニックでソニック(音響的)なコンテンツを提供してくれるからいい組み合わせになる。逆にDX7にはJunoのようなサウンドは出せないから、僕たちは音響的にも協働作業ができるんだ。

―ちなみに、パトリース・ラッシェンからはどんなことを学びましたか?

サム:彼女からは多くを学んだよ。彼女はいつも「自分の偉大さのレベルは、どれだけ準備するかで決まる」と言っていた。その格言は僕にとって音楽に関してはもちろん、人生についての基礎にもなっている。あとはアレンジやレコーディングのこと、仲間やコラボレーターたちとのプロとしてのコミュニケーションの取り方も学んだ。彼女の作品を聴くだけでも多くを学んだよ。ファンキーでかっこいいんだ。



―続けてサムに質問ですが、様々な楽器を演奏するあなたにとって、エレクトリック・ベースはどんな役割を担っている楽器ですか?

サム:自分で作曲を始めた頃、僕がワクワクしたのはベースでは出せないサウンドだった。シンセサイザーにどっぷりハマっていて、特にキーボードで作曲するのに夢中だった。コードにすごくこだわっていて、2年くらいそうやって音楽を作ってたんだけど、その間にベースと距離を置いたことで、よりクリエイティブになることが出来た。というのも、ベースに関してはかなりの時間を練習に費やしてきたわけだけど、その過程で音楽のことだけを考えるというより、テクニックに意識が行ってしまっていたんだ。一方で、キーボードを使って作曲することで、シンセとかサンプラーでいい感じのソニックに到達できると、それは言葉にできないほどエキサイティングなことだった。だから僕の最初のアルバム『Wilkes』にはエレクトリックベースはほとんど登場しない。このアルバムのベース・パートのほとんどはMoogを使ってる。

でもギグとなると、演奏したいのはベースなんだよね。そこから、どうやったらこの楽器で自分の求めてるサウンドを出すことができるんだろうって考えるようになった。ノワーとの共演でシンセ・ベースを導入したこともあったけど、サム・ゲンデルと共演し始めた時に、彼の伴奏は自分一人でできることに気づいたんだ。それでペダルをどんどん増やしたりすることで、僕の中のベース・プレイヤーとしての魂が自分のなかで大きな割合を占めるようになった。

今は自分の中での位置付けがまとまった気がする。ベースと強い繋がりを感じるし、練習もすごく楽しくて、以前のようにテクニックだけじゃなくて音楽を感じることができる。昔はもどかしくなって他の楽器に気移りしたりもしたけど、そんな時期を経て、今では共同体という感じだね。



―お二人の作曲に映画音楽やゲーム音楽の影響はありますか?

ジェイコブ:うん。二人ともジョン・ウィリアムス(スターウォーズなどで知られる映画音楽の巨匠)は好きだね。伝説のコンポーザーで、指折りのメロディーメイカーだと思う。あと、ジブリ映画の音楽を手がけた久石譲、彼の音楽も素晴らしいよね。

サム:僕は安藤浩和の『大乱闘スマッシュブラザーズ』のサントラが大好き。めちゃくちゃファンキーで、特にオープニング・メニューのシンセ・ベースがすごいんだ。あと、マーク・マザーズボウもいいね。彼はディーヴォのメンバーなんだけど、映画音楽の優れたコンポーザーでもあるし、ゲーム音楽も手掛けている。彼が作った『クラッシュ・バンディクー』の音楽も好きだな。あとは『ロード・オブ・ザ・リング』も大好きで、その音楽を担当したハワード・ショアも素晴らしいね。

―サムは長谷川白紙のBrainfeeder第1弾シングル「口の花火」にも参加していますよね。そこでの演奏について教えてください。

サム:初めて聴いた時、「うわ、すごい!」って思った。依頼が来たのはツアー中で、最初の3/4だけ聴いたんだけど、これはいいものができるぞって思った。すごく楽しみだったよ、今まで聴いたことないタイプのサウンドだったからね。白紙はハーモニーも音響的にもすごくユニークな才能を持っている。それから準備し始めて、残りの1/4を聴いたら、これがメチャクチャ複雑で、予想外だったからちょっとパニクって、演奏できるか不安になったよ(笑)。

物凄く複雑な音楽なんだけど、それなのにすごく美しくて、自然な流れを持っていて全ての動きが音楽的。そして、覚える過程でメトリック・モジュレーション(元のテンポを変えることなく、違うスピードで演奏しているように聞こえる技法)がかなり使われていることに気づいて、「これはすごいな!」って思った。

レコーディングはZoomでやったんだけど、かなり楽しかったよ。自分のベースラインを書くとき、もともとの曲調に忠実かつシンプルに演奏するバージョンと、それから僕のクリエイティビティが存分に発揮されたバージョンが浮かんだ。だから、僕のベース・パートは2つあって、それらがほぼ同時に頭から最後まで入っている。白紙の曲を覚えることでミュージシャンとして腕が上がった気がするよ(笑)。



―今度、来日公演がありますが、改めて二人でやりたい音楽を言語化すると、どういうものになりそうですか?

ジェイコブ:リミットレス。

サム:シンフォニック。

―日本でのライブはどんなものになりそうですか?

ジェイコブ:カッコイイ。

サム:タイトなアレンジ、即興。鍋とかフライパンも使うかもしれない。

―(笑)ちなみに、渋谷にあるTangleっていうバーを憶えていますか?

サム:Oh my god! お気に入りのバーのひとつだよ。オーナーは2人ともすごくいい人たちなんだ。自分たちでDJをやってて最高。日本に行くのを楽しみにしているよ。(日本語で)ありがとうございます、どうぞよろしく。


サム・ウィルクス&ジェイコブ・マンのライブ映像



サム・ウィルクス&ジェイコブ・マン来日公演
2023年10月25日(水)ビルボードライブ東京
開場17:00 開演18:00 / 開場20:00 開演21:00
サービスエリア¥7,900-
カジュアルエリア¥7,400-(1ドリンク付)
▶️詳細・購入はこちら

2023年10月26日(木)ビルボードライブ大阪
開場17:00 開演18:00 / 開場20:00 開演21:00
サービスエリア¥7,900-
カジュアルエリア¥7,400-(1ドリンク付)
▶️詳細・購入はこちら

2023年10月29日(日)ビルボードライブ横浜
開場15:30 開演16:30 / 開場18:30 開演19:30
サービスエリア¥7,900-
カジュアルエリア¥7,400-(1ドリンク付)
▶️詳細・購入はこちら



【チケットプレゼント】
サム・ウィルクス&ジェイコブ・マン

10月26日(木)にビルボードライブ大阪、10月29日(日)にビルボードライブ横浜で開催される来日公演の1st / 2nd Stageに、Rolling Stone Japan読者2組4名様ずつご招待します。

【応募方法】
1)Twitterで@rollingstonejp「@billboardlive_o」(大阪)「@billboardlive_y」(横浜)をフォロー
2)ご自身のアカウントで、下掲のツイートをリポスト

【〆切】
2023年10月12日(木)
※当選者には応募〆切後、「@billboardlive_o」「@billboardlive_y」より後日DMでご案内の連絡をいたします。

Translated by Aya Nagotani

 
 
 
 

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