カッサ・オーバーオールが明かす、ジャズの枠組みを逸脱する「異端児」の思想

 
勇気、想像力、インスピレーション

―あなたの音楽には個性的なミュージシャンがたくさん参加しています。起用するにあたっての基準みたいなものはありますか?

カッサ:基準なんてないよ。俺のやり方に対応できればいいだけ(笑)。俺が一緒に仕事しているミュージシャンは全員ハイレベルだけど、勇敢さや度胸、それからお互いを信用し、ステージ上でも信頼し合えることも重要なんだ。それは(共同作業を)進めていく過程でわかるようになる。俺を信頼するまでには時間がかかるかもしれない。俺たちは不確かな空間の中で生きているから。でも、励まし合いたいよね。怖いもの知らずであることは重要だよ。恐れに立ち向かえる人がいいね。ウチの母は、俺のライブで歌を披露してくれたことがあるけど(笑)、世界一最高のミュージシャンである必要はないんだ

―今の話でいう「勇気」を、まさにトモキ・サンダースも備えているように思います。彼はまだ日本でそこまで知られていない存在ですが、魅力を教えてもらえますか?

カッサ:おいおい、日本にいる誰もがトモキのことを知ってるもんだと思っていたよ! 彼はファラオ・サンダースの子孫。トモキの凄いところは、素晴らしいサックス奏者であるのと同時に度胸があって、全身全霊でステージにコミットしてくれるところだね。俺がラップする時はドラム・セットに飛び込んで叩いてくれたり、バックボーカルもDJもするし、曲中でブレイクダウンに入ると観客の中に入ってカウベルを鳴らしたりするんだ(笑)。トモキとは今後も必ず何か面白いことを一緒にやりたい。なんたって、トモキは日本のヒーローだから!


トモキ・サンダースも参加したセッション映像

―『Animals』でリル・B、シャバズ・パラセズ、ダニー・ブラウンといったラッパーを起用した理由は?

カッサ:彼らは危険を背負ってでも冒険してくれる人たちだった。例えば、ダニー・ブラウンはラップ界で最もユニークな声の持ち主の一人。ビートがかかり、彼が声を発するとダニー・ブラウンだって瞬時にわかるよな(笑)。

何百ものミックス・テープを発表してきたリル・Bは、この世で最も影響力のある一人。俺はジャズ・ミュージシャンとしてリル・Bのミックステープを愛聴してきたけど、とてつもないインプロバイザーだね。クリエイティブな想像力を働かせて、その場で曲やフロウを披露している。シャバズ・パラセズに参加している元ディガブル・ブラネッツのイシュマエル・バトラーは、ジャズとヒップホップの融合を確立したアーティストの一人だ。

つまり、参加している全員がクリエイティブなインプロバイザーなんだ。そんな彼らを「こういう世界もあるぜ!」と、もっと自由でアバンギャルドな領域に引き込みたかった。「リル・Bがデヴィッド・バーンと仕事したら、弦楽四重奏とクレイジーなアルバムを作ったらどんな感じだろう?」というふうに。そういう発想がインスピレーションになった。



― 『ANIMALS』のインスピレーションになったアーティストや作品は?

カッサ:たくさんあるよ。例えば、制作初期はYeことカニエ・ウェストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』から多大なインスピレーションを受けた。プロダクション面から参加アーティストの貢献まで完璧でクオリティの高い作品だ。それから、俺は80〜90年代のヒップホップと60年代のジャズが大好きで、クール・モー・ディーやビッグ・ダディ・ケインといったラップ・ヒーローたちのフロウ・スタイルなどにもインスパイアされた。彼らのリズムの取り方は、ジョン・コルトレーン・カルテットにおけるエルヴィン・ジョーンズやマッコイ・タイナーのリズムの取り方と共通点があると思う。


Photo by Patrick O'Brien-Smith

―今作はWarpからのリリースですが、同レーベルの作品や所属アーティストからも影響を受けていたりしますか?

カッサ:もちろん! まずはフライング・ロータス。彼は俺のキャリアと逆で、先にプロデュース業で名を馳せたあと、ミュージシャンとしての活動が徐々に増えていった。一方、俺はミュージシャンとしてキャリアを始めたあとにプロデュース業もやるようになった。これはあくまで推測だけど、彼の意図は俺と似ていて、電子音楽のなかにオーガニックなサウンドを見出しているんじゃないかな。そして、そういったオーガニックなサウンドを電子機材というツールを駆使しながら表現しているんだと思う。フライング・ロータスからは、「音楽の可能性」って部分で刺激を受けている。

スクエアプッシャーからも影響を受けているよ。俺がオーバリン大学のジャズ・パフォーマンス学科で学んだことや、世界最高のドラマーになるために取り組んできたことの全てが彼の作品から聴こえる。彼は生ドラムのビートを切り刻み、コンピューターから出てきたような音に仕上げているけど、俺はドラムセットでスクエアプッシャーの楽曲を生演奏できるからね。

それから、ハドソン・モホークとルニスによるプロダクション・デュオ、TNGHT(トゥナイト)からも影響を受けている。TNGHTはミニマリズムの手法を駆使しながら、マキシマリズムな世界に到達している。つまり、5〜6音から成るミニマル・ミュージックを壮大なサウンドにミックスすることで、マキシマリズムな世界を表現しているんだ。それは、俺の音作りの秘訣でもある。



―『ANIMALS』はジャンルで括れない音楽ですよね。ある意味では刺激的なジャズとも言えそうですが。

カッサ:でも、ジャズ業界は、俺をどう扱えばいいかわからない感じだよね。俺がジャズの最先端で革命を起こしていることを理解していない。ヴィジェイ・アイヤーやクリス・デイヴィスといったジャズの才人を未来へいざない、ジャズを活性化させているというのに。

さっきニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのフライヤーを眺めながら、「周りのミュージシャンは出演しているのに、なぜ俺は呼ばれないんだ?」と不思議に思ったよ。理由はわかってる。俺はラップする際に汚い言葉を使うこともあるし、ダニー・ブラウンやリル・Bを自分のアルバムに迎えているからね。ジャズ業界は新しいことに挑戦しないし、俺は彼らのシステムに合わないのだろう。だからこそ、Warpのようなレーベルならハマるんだ。俺はWarpと組むことで、ジャズ業界のなかにいるよりも、ずっと強力でデカいことができると信じているよ。きっと数年後、フェスのプロモーター連中は「どうしてカッサ・オーバーオールに声をかけなかったの?」と聞かれて、「あの頃は理解できなかったんです」って言うことになるだろうさ(笑)。




Kassa Overall Japan Tour 2023

2023年10月19日(木)東京・渋谷WWW X *SOLD OUT
スペシャルゲスト;長谷川白紙

2023年10月20日(金)大阪・Billboard Live OSAKA
1st:OPEN 17:00 / START 18:00
2nd:OPEN 20:00 / START 21:00
▶︎公演詳細・チケット購入はこちら



It’s a beautiful day~Camp in 朝霧JAM
2023年10月21日(土)~22日(日)
富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
チケット:
2日通し券 19,800円(1人様・税込)
1日券 13,000円(1人様・税込)

※車でご来場の方は事前に入場券と併せて駐車券の購入が必要、詳細は公式サイトにて

出演:
10月21日(土)
THE ALBUM LEAF / 青葉市子 / BADBADNOTGOOD / CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN / HIROKO YAMAMURA / HOVVDY / KASSA OVERALL / MAIKA LOUBTÉ / 冥丁 / OGRE YOU ASSHOLE / OOIOO / 折坂悠太(band) / toe with 原田郁子(clammbon)、皆川真人

10月22日(日)
CHET FAKER / DENIMS / DJ NATURE / Helsinki Lambda Club / 本門寺重須孝行太鼓保存会 / KITTY, DAISY & LEWIS / Night Tempo / OMSB / くるり / さらさ / sunking / TENDRE / toconoma / TOMMY GUERRERO / WAAJEED

公式サイト:https://asagirijam.jp/

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Translated by Keiko Yuyama

 
 
 
 

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