ジョン・バティステが日本で語る、世界のカルチャーを横断する音楽観とその裏にある哲学

 
「音楽も宗教もすべては繋がっている」

―『World Music Radio』についても聞かせてください。このアルバムは、ラジオDJのビリー・ボブの番組という形式になっています。でも、最後の3曲の前の「Goodbye Billy Bob」という曲で、ビリー・ボブはリスナーに別れを告げますよね。ということは、その後はビリー・ボブではなく、ジョン・バティステが引き継いでるということですか?

JB:アルバムの中で、ジョン・バティステが紹介される瞬間があるんだ。それから、ビリー・ボブが去っていく瞬間もね。ジョンかビリー・ボブか?ーーそのあたりの曲の解釈は、君次第だ。僕は何も言わないよ。でも、ヒントは隠れてるんだ。ビリーの締めくくりのあのサウンドデザインで、彼はもうアルバムから旅立ったしまったと感じるだろう。あの手渡し方、僕はすごく気に入ってるんだ。

―ビリー・ボブが去ったあとの3曲は、曲の雰囲気がそれ以前と大きく変わってますよね。あの3曲でどんなことを表現しようと思ったんでしょうか?

JB:「White Space」と「Wherever You Are」は、〔キリスト教の教会で行われる〕神聖な礼拝説教のような感覚。このアルバムは、土曜日の夜から日曜日の朝を迎える、時の移り変わり、そして人々を集会へと導く様子を描いている。「White Space」と「Wherever You Are」は、アルバムの中でもユーフォリアとスピリチュアリティに満ちている曲だ。

「Life Lesson(feat. Lana Del Rey)」は、映画が終わってクレジットが流れるときに映されるエクストラ・シーンのような、いわゆる口直しみたいなもの。それにはとても重みがあって。その意味では、他の曲とは違う役割を持ってるんだ。



―『World Music Radio』というだけあって、世界中の音楽が入っていますが、その中でもアメリカの音楽がたくさん入っていますよね。しかも、いろんな種類のアメリカの音楽が入っています。この中に入っているアメリカの音楽はどういった役割を果たしているのでしょうか。また、アメリカの音楽の中でも、これらのスタイルを取り入れた理由は何ですか?

JB:スタイルよりも、どうやって制限を持たせないかということを考えていたんだ。『World Music Radio』は「ワールド・ミュージックを作らない」ための良いスタートになると思ったんだ。世界中のカルチャーをカラーパレットのように見立てることが、ジャズやソウル、ポップ、さらにワールド・ミュージックというジャンルから自由になる一種の方法で、僕はその自由さに美学を感じた。とても自由な発想で作るんだよ、まるで子供のようにね。だって、子供は音楽を「これはラップだ、クラシックだーーだから、僕の趣味じゃない」っていうふうに音楽を聴かないよね? 耳に入った音楽に自然と反応する。そういった感覚で音楽を作ったんだ。

―よくわかります。一方で、僕がこのアルバムに面白さを感じたのは、アメリカの音楽が「北米のフォークロア」のように感じられることです。もしかしたら、そんな感覚でアメリカの音楽をアルバムに入れているのかなと思ったんですが、いかがですか?

JB:そうだね。「もし君がそう定義するなら、それもまたワールド・ミュージックだ」というメッセージが根底にある。アフリカやアジア……そういった意味でのワールドミュージックではない、普遍的な意味でのワールド・ミュージック。その解釈は僕を自由にしてくれたし、ワールド・ミュージックという言葉を再定義し、再構築するきっかけになった。

―あなたは敢えて、ゴスペルやジャズ、ソウル、カントリー、ブルースを『World Music Radio』で演奏していますよね。それはアメリカのそういったスタイルが北米の地域特有の、ローカルな音楽にすぎないんだってメッセージなのかなと僕は感じました。そんなメッセージをリスナーが分かりやすく受け取れるような仕掛けというか。

JB:そのとおりだよ。僕が今回のアルバムで挑戦したかったことは、どうすれば世界中に届けられるのか? アメリカン・スタイルに対して「古くて、レトロで好みじゃない」と捉える人にどうやってアプローチするか? そういったことでもあったんだ。


Photo by Masanori Doi

―「Movement 18'(Heroes)」も興味深かったです。ここではウェイン・ショーター、デューク・エリントン、 クインシー・ジョーンズ、アルヴィン・バティステの語りが引用されています。キリスト教の文脈かなと思ったら、ウェイン・ショーターの話は仏教的な話のように感じました。それで気づいたのですが、アルバム全体でいろんな宗教について言及していたり、特定の宗教に偏らないように作られていますよね?

JB:ああ、すべては繋がっているんだ。世界の音楽、世界のカルチャーのことに触れるなら、それは世界の宗教、世界の信仰についても触れることになる。それが、スピリチュアルな道を辿ることの美学だと思うから。真理を追求する者は神に巡りあえる。最後には、精神がその者を導く。さまざまな宗教について言及しているのは、人々が長い年月をかけて真理に辿り着くまでの手段の多様性を示すためなんだ。ウェイン・ショーターは仏教徒だった。クインシー・ジョーンズは、「Master Power」の中で「 主の祈り」を唱えている。それから、ムスリム(イスラム教徒)の祈りの呼びかけがあって。「Master Power」の最後では、ユダヤ教の司祭ラヴ・ドラック(Rav Druck)がユダヤ教のララバイを歌っている。ムスリムの祈りの歌声が聴こえるんだ。つまり、イスラム教の祈りとララバイが同じ曲の中に入っている。

そして、リリックの中で僕は旧約聖書の預言者や聖書の登場人物について言及する。このアルバムには、異なる宗教が共存しあっている曲が何曲もあるんだ。そして最後は、牧師ドリュー・ジャクソンの一声、”Please be seated”で締めくくられる。このアルバムは僕だけの信仰じゃなく、世界中の信仰が含まれているんだ。



―今、話を聞きながら思ったんですけど、DJのビリー・ボブが宇宙から放送して音楽を届けるというコンセプトはすごくスピリチュアルですよね。ある種の啓示みたいだなって。『World Music Radio』はあなたにとって「コンセプト・アルバムであり、ポップ・アルバム」とのことでしたが、実はスピリチュアルなアルバムでもあるのかなと思いました。

JB:ワーオ! それはトロイの木馬のようなもので、表面上からは分からないんだ。シンプルにできているから、そのことに気づくまで時間がかかる。「単純明快さ」が持っている奥行きーー僕の作品のテーマの多くはこれなんだ。それを表現するには、異なるバージョンを試したり編集したり……試行錯誤して相手に届きやすいものにする必要がある。相手が受け取りやすい形にね。『World Music Radio』もスピリチュアル、カルチャー、音色……いろんなレイヤーで成り立ってるんだ。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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