蔓延するフェイク動画、複雑化するイスラエルとハマスの状況

同じように、イスラエルのベンヤミン・ナタニヤフ首相の広報チームでソーシャルメディアを担当していたこともあるインフルエンサー、ハナニャ・ナフタリ氏もハマス幹部の「豪遊生活」の写真を投稿し、混乱を引き起こした。画像にはAIモデルで生成した際によく見られるブレがあったため――またナフタリ氏自身も真実をねじ曲げた前歴があり、今月もイスラエル防衛軍から戦地任務の招集がかかったと虚偽の主張をしていたため――偽コンテンツだと非難が相次いだ。

だがフォーブス誌も報じているように、ナフタリ氏は解像度を上げるためにAIの「画像鮮明ツール」で加工処理したものの、写真そのものは本物だ。加工後の画像はX(旧Twitter)に投稿されて2000万回以上閲覧されたが、見た感じはDALL-EやStable Diffusionのようなテキスト入力画像生成プログラムで生成されたかのようだ。ナフタリ氏を批判した人々も、そうにちがいないと思い込んでいた。

他にも、ガザ地区住民やイスラエル人への同情を煽るため、または双方の底力や団結力を示すために作られた偽AI画像もある。イスラエル政府寄りと見られるAI画像には、イスラエル人の群衆が街を練り歩き、沿道の住民が窓から国旗を振って声援を送る様子が映っている。Telegramの「戦時メディア」というチャンネルで投稿されたとおぼしき画像には、実在しないイスラエル人難民キャンプが映っている。

イスラエルがガザ地区に砲弾の雨を降らせる中、胸をつまされるような本物の写真や動画が数多くガザ地区から発信されているものの、巷に出回っている画像にはAIで生成されたものも多々ある。そうした画像は厳しい環境に子どもたちを配置して、見る者の感情を揺さぶってくる。中には「AIアート」とラベルがついたものもある――燃え盛る炎をバックに、パレスチナ人の少女がテディベアを抱いた画像もその1つだ。だが、赤ん坊が周囲のアパートが爆撃されるのを見つめるAI画像のように、注目される画像はえてして本物として投稿されている。

さらに事態をややこしくしているのが、誤解を生む画像がしばしば一目置かれている情報源から発信されているという点だ。チュニジア人ジャーナリストのムハマド・アル・ハキミ・アル・ハミディ氏は、灰だらけのパレスチナの子どもたちが瓦礫をバックに微笑む画像を先日投稿した。そこはかとない雰囲気が漂うこの写真は、各種ソーシャルメディアで発信されているのみで、メディアには一切掲載されていない。

AI由来の戦争コンテンツの被害は誤情報だけにとどまらず、憎悪を直接あらわにしたプロパガンダもある。ハマスの戦闘部隊がパラグライダーでイスラエルを攻撃したことから、ネオナチ集団はパラグライダーをシンボルに採用してユダヤ人殺戮を美化したり、先制攻撃を仕掛けるハマスのパラグライダー部隊を描いた反ユダヤ的な風刺画をAIモデルで作成したりしている。そうしたパラグライダーのミームには、Tシャツにデザインされてネオナチ系オンラインショップで販売までされている。

もうひとつパレスチナ支援者の怒りを買ったのが、ガザ地区一帯に新装開業の巨大テーマパークを描いたコンセプトアートだ。これを投稿したInstagramのユーザーは、「ご紹介します、まもなくイスラエル南部に建設予定の新たな観光リゾート都市ノヴァです」と、イスラエルの国旗の絵文字付きで投稿した。「不動産購入開始の時期は?」というコメントの質問には、「ちょうど今更地にしているところです」と回答している。

他国がイスラエル、またはパレスチナへの支援を表明する様子を示したフェイク画像も世界各地に出回り、やはり緊張状態を煽っている。そのうちの1つには10月8日にパリ市がエッフェル塔をイスラエルの国旗の色にライトアップしたとあるが、加工された画像だった。たしかに翌日エッフェル塔はイスラエル色にライトアップされたものの、画像とはまったく違っていた。コンサート会場「ラスベガス・スフィア」の外装にイスラエルの国旗が施されたとの加工動画が出回り、会場側が噂を否定するという事態も発生した。別のフェイク画像には、スペインのサッカーチーム「アトレティコ・マドリード」のファンが巨大なパレスチナ国旗を掲げる様子が映っている。事実確認の末にフェイクであることが判明し、AIで生成された可能性が指摘された。

Akiko Kato

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