フライング・ロータスの革命を支えた「陰のキーマン」ミゲル・アットウッド・ファーガソンの音楽観

 
作曲家/マルチ奏者としての哲学

―あなたがフライング・ロータス周辺のミュージシャンに音楽理論を教えているという話は聞いていましたが、それは仏教を経たから生まれた行動だったのかもしれませんね。音楽の話に戻りますが、あなたの音楽にとって「作曲」と「即興」の関係について聞かせてください。

ミゲル:僕の2大ヒーローはJ.S.バッハとイーゴリ・ストラヴィンスキーなんだけど、彼らは作曲について興味深いことを言っているんだ。「作曲とは、単純に即興をゆっくりやることである」ってね。それは僕にとってすごく腑に落ちる表現だった。作曲と即興は、親密な関係にあると思う。僕はそのどちらもとても好きだから。毎朝、ピアノに向かってまずバッハを弾くんだ。それからスマホのボイスメモで、ピアノで弾いた即興演奏を録音するんだよ。作曲する時は、その即興の中から色々な方向性の要素を抜き出してひとつの曲にまとめていく。だから、僕の人生にとってどちらも重要なものなんだ。誰かと一緒に即興をすることにも大きな喜びを感じるよ。即興をすることは、自信のなさや恐怖を取り払い、今ここに在ることを迫ってくるものなんだ。そして、僕に見極めさせる。でも、決して批判的ではないやり方で見極めるんだ。批判的になるのは簡単だけど、そこでは誰も求めていない。見極めることと批判的になることは同義語に近いかもしれないけど、同じではないんだよね。即興に関して批判的になってしまうと、何も生み出すことはできない。それでは楽しくないよね。エッセンスが失われてしまう。でも、見極めることができれば、自分が何を必要としていて、今何がやりたいのかが明確になってくる。それは大きな違いだよね。即興することは、自分の最良のものを表現する手助けをしてくれると思うし、自分がどのようにこの音楽と関わって存在していくのかを示してくれる。そこが音楽の面白いところだ。最良バージョンの自分をどうやって表現するか、それは音楽が教えてくれるからね。

―あなたのメインの楽器のひとつでもあるヴァイオリンとヴィオラは、自分にとってどんな楽器ですか?

ミゲル:人生で最も付き合いの長い相棒という感じかな。4歳の時にヴァイオリンを始めて、今43歳だから。スキルを練習したり、テクニックを学んだり、ずっと一緒にいる親友だね。ヴァイオリンが僕を世界中に連れて行ってくれたし、僕の先生でもあり、僕が光熱費を支払う手助けをしてくれたり、僕に自信を与えてくれたりする。ヴァイオリンとヴィオラとチェロが、いちばん好きな楽器だよ。音楽は僕の心の安らぎであり、先生でもあるんだけど、ヴァイオリンやヴィオラは、僕にとって最良の乗り物という感じかもしれない。でも、作曲はピアノでするのがいちばん好きなんだ。ヴァイオリンやヴィオラでは作曲はできないんだよね。



―クラシック音楽で聞かれるようなヴァイオリン/ヴィオラの使い方ではなく、エレクトリックなサウンド、アンビエントなサウンドとも混ざり合う独特な演奏をしますよね。あなたが考えるヴァイオリン/ヴィオラの可能性について聞かせてください。

ミゲル:僕は古典を勉強するのが好きなんだ。ほぼ毎日バッハを演奏しているし、ラヴェルも、ジョン・コルトレーンも、ウェイン・ショーターもいつも演奏している。でも、それはコピーするという意味ではない。ただの複製ではなく、そこに何かを足していくことが大切だ。とにかく正しい目的を持って、何か新しいことに挑戦すべきだと思う。それが人生に意味を与えてくれるから。僕は実験の過程を楽しみたいんだよね。ガンジーの自叙伝のタイトルは『My Experiments with Truth(真理の実験)』だしね。僕も真理を追い求めて実験をしている、とまでは言わないけど、敢えて言うなら、僕は感情とサウンドをもって実験をしている、というところかな。僕はいつでも自分に正直でスピリチュアルでありたいから、その過程で犯したミスも厭わない。だから、クリーンに編集したものではない、生々しい音をサウンドに足していきたいんだ。みんなにはリアルな、初期衝動的な真実を楽しんでもらいたいからね。

―ヴァイオリン演奏のインスピレーションになった演奏家は?

ミゲル:普段は弦楽器奏者以外の演奏をよく聴いているからなぁ(笑)。イツァーク・パールマン(イスラエル出身、20世紀のもっとも偉大なヴァイオリン奏者のひとり)はつねに僕のヒーローだね。それと、ジャニーヌ・ヤンセン(1978年、オランダ生まれのヴァイオリン奏者)。それに、ジャズの即興プレイヤーはみんな素晴らしいと思うよ。ディディエ・ロックウッド(マグマにも参加したフランス人奏者)とかね。即興ヴァイオリニストで好きなのは、インド出身のラクシュミナラヤナ・スブラマニアム(インド音楽と西洋クラシック音楽の両方に長けたインド人ヴァイオリン奏者)だね。彼は素晴らしいよ。ラクシュミ・シャンカール(フランク・ザッパやピーター・ガブリエルの作品に貢献したヴァイオリン奏者)の兄なんだ。彼は僕にとってヴァイオリンの神だよ。

でも、いちばん最初に好きになったのはフリッツ・クライスラー(1875年、オーストリア生まれのヴァイオリン奏者)だね。彼の奏でる音はとても甘く優しくチャーミングなんだ。彼は僕の人生を変えた人物。とても素敵な演奏をするし、作曲もする。彼の意見に共感するところも多いし、真面目なのにそれを表に出しすぎないところもいい。僕のヒーローのジョン・コルトレーンが「There’s fun in being serious(真面目さの中に面白さがある)」という言葉を残してるんだけど、僕はまさに真面目でもありたいし、楽しむこともしたいんだよね。人を笑わせたり三枚目を演じたりするのも好き。フリッツ・クライスラーは幼少期の僕に、演奏家と作曲家の二足のわらじを履くことができることを教えてくれた。だから、好きな人はたくさんいるけど影響を受けたのは彼なのかもしれないね。






ミゲル・アットウッド・ファーガソン
『Miguel Atwood-Ferguson』
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Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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