ビョークが語るロザリアとの共演秘話、環境問題に挑みながらハッピーな希望を歌う理由

サケ養殖反対運動に触発された理由

—何がきっかけで、サケ養殖の危険に目を向けるようになったのでしょうか?

ビョーク:アイスランドの環境活動家たちは、数年前から(沖合設置型のサケ養殖の)危険性を認識していました。実のところ、こうした養殖方法に対して不満を抱いていました。でも、2月に(アイスランドの会計検査院から)重大な発表がなされると、事態が思っていたよりも深刻だったこと、それどころか、10倍は深刻だったことに気づかされました。その結果、今年の夏にアイスランド国民の怒りが爆発したのです。

アイスランドは、ヨーロッパの中でも最大規模の手つかずの自然が残っている場所です。この国の人々は、千年にわたって大地を耕し、自給自足の生活を営んできました。放牧された羊は、夏の高地を4カ月間自由に駆け回ります。「オーガニック(有機栽培)」や「フリーレンジ(放し飼い)」という言葉が生まれる前から、私たちはこうしたことを実践していたのです。

ですから、沖合設置型の養殖場の実態を知ったとき、私たちは大きなショックを受けました。サーモンの成長を促進させるために薬物が投与されていたのです。サーモンの骨格は、通常の2、3倍のスピードで成長していました。そのせいで、養殖されているサーモンの約60%が変形していたのです。さらには、約20%がいけすの中で命を落としていました。それほどまでに養殖環境が劣悪なのです。そのうえ、何トンもの殺虫剤が撒かれています。あまりの劣悪さに、(ノルウェーの)医師たちは、「養殖サーモンを食べてはいけない」と妊婦や子供に警告しているほどです。こうしたサーモンが「天然アトランティックサーモン」としてスーパーで売られている状況を想像してみてください。実際は天然物なんかではありません。これらのサーモンは、たとえるなら、アウシュヴィッツのような環境で養殖されているのです。

【※補足情報:「すべての養殖サーモンは、心臓に問題を抱えています。それだけでなく、成長のスピードがあまりに速いため、背骨と頭蓋骨が変形しているのです」とIWFのカルダル氏は語る。「さらに、その半数以上は、耳が聞こえません。これは、いけすという養殖環境によるストレスからくるもので、このほかにも寄生虫の問題があります。原始の美しい北大西洋でサステナブルな方法で養殖されているはずのサーモンが、動物虐待とほぼ変わらない方法で養殖されていた、と知った人たちが受けるショックは計り知れません。それに、魚は悲鳴をあげることができません。虐待は、私たちの目に見えない海の底で行われているのです。このようなことは、いますぐにでも止めなければいけません」】



—養殖サーモンを食べるなと医師たちが警告しているとなると、スーパーでは何らかの“しるし”が付けられているのでしょうか?

ビョーク:いいえ、そのようなことは行われていません。だからこそ私たちは、こうした区別化は何としてでも必要だと思っています。これは、スキャンダル以外のなにものでもありません。「北極海産天然サーモン」だなんて、よく言えたものです。天然でもなければ、「北極海産」でもないのに(苦笑)。言うなれば、人為的につくられたミュータント……モンスターのようなものです。【※カンダル氏は、次のように語を継いだ。「アイスランドの最高峰のレストランでは、陸上養殖(訳注:水質、水温、エサなどがコントロールされた屋内の施設で魚介類を育てること)のサーモンだけを使用しています。大手スーパー2社でも、販売されているのは陸上養殖のサーモンのみです」】

—どうしてここまで深刻なことになってしまったのでしょうか?

ビョーク:原因は、養殖場を運営する複数の会社——どれもノルウェーの会社です——の社内規定にあります。それによると、いけすの点検は60日に1回しか行われていませんでした。個人的には、それでは不十分だと思います。少なくとも、毎日点検するべきなのに。誰もいけすを点検しないまま、94日が過ぎました。その結果、何千匹ものフランケンシュタイン・フィッシュが、野生のサケが生息するアイスランドの河川に侵入してしまったのです。実際、侵入者を駆除するためにスキューバダイバーたちが銛(もり)を片手に川に潜りました。そういうわけで、9月は大災難の月でした。

実際の黒幕は、(これらの会社を経営する)ノルウェーのふたりの億万長者のようです。皮肉なことに、彼らは、10年前にまったく同じことをノルウェーでやっていたのです。ノルウェー国民の多くは、こうした養殖業が環境に悪影響を与えることを知っていましたから、反対していました。政府も規制を見直し、より一層厳格にしました。その結果、億万長者たちは「それなら、アイスランドに行こう。あそこなら、やりたい放題できる」と考えたようです。

だからこそ、私たちは心の底から怒りを感じています。魚が虐待されているだけでなく、それによってふたりの億万長者が大金をせしめているのですから。それに、養殖場がある町や村が潤っているわけでもありません。雇用創出という意味では、まったく恩恵がないわけではありませんが、ノルウェーにいる億万長者たちの懐に入る金額に比べると微々たるものです。【※カンダル氏は「ノルウェーの会社は、母国の人々の反感を買った結果、アイスランドに拠点を移したわけではありません。本当の目的は、事業拡大でした。ノルウェーのフィヨルドは、文字通り“完売”状態なのです」と訂正した】


Photo by Veiga Grétarsdóttir

—「Oral」の収益をどのように活用したいと考えていますか?

ビョーク:今回問題になっているのは、アイスランド西部のフィヨルドです。東部のフィヨルドは、まだこうした被害を受けていません。でも、セイジスフィヨルズルという東部の町で養殖場造成の計画が持ち上がっています。ふたりの投資家がこの地に養殖場をつくろうとしているのですが、フィヨルドの近隣で暮らす人々は反対しています。実際、住民たちは通りに出て抗議活動を行っています。裁判もはじまりました。

私は、裁判を闘う住民たちに「Oral」の収益を贈りたいと考えています。2、3年はかかるでしょうが、勝訴すれば、ほかのフィヨルドで暮らす人々にとって——願わくは世界にとっても模範を示すことができます。

ロザリアと私が発表したプレスリリースはスペイン語にも翻訳され、南米をはじめ、世界中に発信されました。アルゼンチンやチリでも(養殖業は)問題視されています。私は、教育や情報が足りていないからだとは思っていません。人々は、魚たちが置かれた劣悪な環境を知らないだけなのです。

—ノルウェー政府が行ったような規制の厳格化をアイスランド政府に求めますか?

ビョーク:現時点でこのスキャンダルの真っただ中にいるのは、アイスランドの閣僚たちです。ひとりは、環境大臣。もうひとりは、英語で何ていうのかわからないけれど、食品安全を取り仕切る省の大臣です。彼らは、「グリーンレフト」という左派政党に所属しています。ですから、一見、環境保護に取り組んでいるかのような印象を受けるのです。

彼らが左派であろうが、右派であろうが、私にはどうでもいいことです。(ほとんどの)アイスランド国民も、私と同意見だと思います。これがスキャンダルであるということには、誰もが賛成しています。でも、閣僚たちは、新しい法律を施行しようとしているのですが、とにかくスピードが遅いのが問題です。「来年の夏に5%変えましょう」のようなペースなのですから、なんともスピード感に欠けているのです。

私たちは、セイジスフィヨルズルの裁判の費用を負担したいと考えています。それよりも高い収益を上げられたなら、何らかの方法で新しい法律の施行のサポートにあてるつもりです。あるいは、この問題を大々的に報じてくれる機関を支援したり。いずれにしても、長期的に携わっていくつもりです。

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE