フジロックでの怪演から20年、ダンコ・ジョーンズが鳴らすロックンロールの現在地

 
「サプライズ」というべき新境地

しかし、同時にその延長上で新境地とも言える変化が感じられるものにもなっている。

たとえば、前述した「Guess Who's Back」に加え、「Electric Sounds」「Stiff Competition」「I Like It」といった極太のコードリフで聴かせる曲がリスナーの脳天にガツンと一撃を食らわせる一方で、痛快な気分を味わわせる「She's My Baby」「Eye For An Eye」「What Goes Around」といったスピーディーなパンク・ロック・ナンバーはもう1つの聴きどころになっている。中でも「Eye For An Eye」はダンコ・ジョーズのラモーン・パンクなんて言ってみたい。

それはジョーンズも認めるところ。

「ここ数年で苦労の末に作り上げたサウンドがあって、俺達はその音にこだわっている。でも、もう少し細かい観点で他のアルバムと比較するなら、これまでのアルバムより少しテンポが速いと思う。俺達の曲に『Cadillac』(2001年のシングル)というのがあって、最初はこのアルバムの曲も全部そんな感じにしたいと思っていた。一定のリズムで、ミドルテンポで、重厚感があって、核心を突くような。でも、曲作りを始めてから、そのアイデアは割とすぐになくなった」




ライブができなかったパンデミックの反動なのか。ダンコ・ジョーンズの持ち味の1つだったファンキーなグルーヴよりもスピードを求めていることは、アルバムをリフ・ロックはリフ・ロックでもスピーディーな「Shake Your City」で締めくくっているところからも明らかだ。

さらにもう1つ。メンバー自身は無自覚なのか、敢えて言わないだけなのか、そこかしこで閃かせるダンコ・ジョーンズらしからぬポップ・フィーリングもまた、『Electric Sounds』の聴きどころになっていると言えそうだ。



たとえば、80年代のU2が奏でそうなキャッチーなギターのリード・リフと日本の歌謡曲を思わせる泣きのメロディが印象的な「Good Time」は、変化球というか、異色曲に挑んだ成果と考えることもできるが、得意のリフを鳴らしながら、80年代のアメリカン(ハード)・ロックを換骨奪胎したみたいな「Get High?」の明るさはどうだ⁉ それを言ったら、「Guess Who's Back」もAC/DC系のリフ・ロックと思わせ、昔からのファンは曲が持つおおらかさに「おや!?」と思うかもしれない。

そして、その「おや!?」という感覚はアルバムを聴き進むにつれ、徐々に大きくなっていくのだが、無自覚なんてとんでもない。『Electric Sounds』のリリースに先駆け、「Guess Who's Back」「Good Time」「Get High?」を順々にシングルとしてリリースしていったことを考えると、新境地とも言える変化が感じられるその3曲がアルバムのキモという自覚は、やはりあるのだろう。



発展や進化の為にアルバムを作ることはしないが、発展や進化が自然と曲に表れることはある、と。そうでなきゃ、30年近くも(しかもノンストップで)バンドを続けることはできないだろう。

「俺達の曲は大体、ロックがしたいとか、ロックと一緒に人生を楽しんでるとか、そんなのばかりで、時々、女のことを歌にするって感じだから、サプライズなんて何もないよ!」とジョーンズは笑うが、それは謙遜というものだろう。

少なくとも筆者は、『Electric Sounds』を聴き、ダンコ・ジョーンズらしさの中にサプライズを感じ取ったが、それはさておき、まずは『Electric Sounds』を手に取っていただき、パンデミックでも鳴りやまなかったダンコ・ジョーンズのロックンロールをより多くのロック・ファンに存分に味わっていただきたいと思う。






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