OPNダニエル・ロパティンが語るポストロック再訪の真意、人間と機械と自分自身の境界

 
OPNにとっての「アメリカ」

―「半自伝的トリロジー」とされる『G.O.D.』、『Magic』、『Again』を中心に、自己啓発的なニューエイジミュージック、80年代のCM音楽、ソフトロック、グランジ/オルタナティブロック、そしてポストロックと、これまでのOPNのアルバム10作であなたのデビュー前の音楽体験は一通り再訪したのではないかと思われます。今後あなたが再訪したいと思う自分の音楽体験は現段階で何か思い浮かびますか?

ダニエル:それはやり終えたと思う。ここまでをずーっとたどってきて、現時点の自分に追いついた。

―数々の変遷を経て遂に、ですね。

ダニエル:(笑)ああ。きっと、とにかく自分がやりたいのは……あの三部作的なレコード、『G.O.D.』、『Magic』、そして『Again』は、僕にとってある種自伝的な面のある作品群だし、あれらを通じて、それぞれに異なる主題を持たせようと思って作ったレコードだった。けれども、自分としては完結したという手応えがある。たしかにあの3枚では、ああいうアプローチを本当にとりたくてああいうふうに作ったけれども、もうその欲求は満たされた。だから再訪したいものは特にないし、うん、そこに対する自分の義務は完遂したな、と。

―なるほど。過去の資産はすべて使い果たした、と?(笑)

ダニエル:(笑)ああ、そういう言い方もできるね! うん。

―(笑)冗談ですよ。

ダニエル:(笑)うん、分かってる。だけど、良い質問だよ。で、実際、僕は使い果たしてしまったのかもしれないし。けれども僕からすれば、それはもっとこう……これ以上、過去を判定する行為に時間を費やしたくない、という発想であって。その行為に取り組む自分なりの根拠はあったし、それはやり終えた。で、ここから先は、自分はそのストーリーを閉じるだろう、と思う。あれら3枚を通じて、自分の抱く音楽の概念、というか自分の音楽の記憶、その物語を完結させたわけで。今の自分には、他にやりたいことが色々ある。


『Magic Oneohtrix Point Never』収録曲「No Nightmares」


『Garden of Delete』収録曲「Sticky Drama」

―OPNの作品は、あなたの視点や経験を通して描いた、やや奇妙な形でのアメリカの自画像のようにも感じられます。このような理解は、あなたにとって納得できるものですか?

ダニエル:イエス。100パーセント納得できる。

―どうして、そうなるのでしょう。たとえば、現在アメリカで暮らしていて、あなたがもっとも奇妙だと思うこと、疎外感をおぼえるのはどんな面ですか?

ダニエル:フム……まあ、違和感は常に抱いているから(苦笑)。「しっくりくる」と感じたためしはないし、だから、何も今に限った話じゃないと思うけど。

―(笑)。

ダニエル:いや、別に受けを狙ってこう言っているわけでもなんでもなくて、ぶっちゃけ、どういうわけか常に、自分はちょっとズレてる、調和していないと感じてきた。もしかしたら、それは自分の生い立ち、ロシアからの移民第二世代としての物の見方のせいかもしれないよ? だから、その移民としての視点は常に、自分の一部としてあるだろうね。アメリカで生まれずっとここで育ってきたにも関わらず、物事を常に少々違った見方で眺める、という。というのも、僕の家族にとってのアメリカ経験は、「アメリカにやって来る」というものだったわけだし。彼らにとっては、そうやって人生を再スタートさせる、自分たちにとっての新たな機会を見つける、云々だった。で、僕はこの国で楽しい経験をたくさん味わっているし、正直、「自分はここにそぐわない」と感じるのと同じくらい、これは自分にとって完璧な背景だな、とも思う。

―どういうことでしょうか?

ダニエル:つまり、別に適合する必要はないんだよ。望んでいないのなら、無理にそこに合わせなくたっていい。アメリカン・ライフにはこの、驚異的な可変性というのか、可塑性が備わっているから、その正体は誰が考えるものとも違う、みたいな。というわけで、その良し悪しを議論することもできるけれども、唯我論的なコンポーザー野郎……内向的で、やりたいことを自分流にやり、他はお構いなしで自分のやることに集中している、そういう類いの男にとっては、ここはグレイトな居場所なんだ。

―(笑)。

ダニエル:だけど、今の自分がイライラさせられることと言ったら、たぶん……僕は、ニューヨークシティに苛立たされるようになったな。いや、今でもNYCを愛しているし、有数のグレイトな都市だと思うし……おそらくアメリカ合衆国内でベストの都市、というか世界の中でも最高の都市だといまだに思っているけど、僕はあそこを後にした。自分が暮らした15年の間に、あの街がカルチャーやアクセシビリティの面で、本当に抜本的に変わったのを目にしたからね。要するに、あの街に関して自分の好きだった何もかもが水泡に帰しておじゃんになった、と。しかも、そこにCOVIDが襲ってきたおかげで、もう絶対に元に戻れなくなった。たとえばレコード店、各種のショウ、音楽とアート周辺の色んなコミュニティ。それらすべてが本当にバラバラになり、すっかり細分化したし、しかも、暮らすのにものすごくお金がかかる街になってしまった。つまり、マンハッタンは丸ごと、広告代理店みたいになってしまった、ということ。まるでJ・G・バラードの小説から出てきた世界だよ。要するに、マンハッタン島の主要機能、それはその島そのものを宣伝することだ、という。

―(笑)なるほど。

ダニエル:うん。それに、ブルックリンにしても、今や多くのエリアがそんな感じだしね。まあ、ブルックリンのすべてがダメだ、と言うつもりはないけど……もしも「ブルックリンはまだ変わっていない」と思っている人がいたとしたら――でも、実際ああいう風に変化してしまったわけだし、その人は意図的に目をつぶっているってことだよ。本当に、ものすごくコマーシャル指向な都市になってしまった。もちろん、以前からずっと商業ベースな街だったんだけど、これまではそれ以外の何かも共存する余地があった。ところが今や、そうした「それ以外」の入り込む余地がほとんどなくなってしまった。僕からすると、それはバランスが崩れていておかしい。だから、もうあそこで暮らしたくないな、と思った。

というわけでまあ、回りくどい答えになったけれども、僕を苛つかせるのはそういう物事、継続的な、観念的な意味でのNYCの商業化、ということだね。ほんと、広告収入をもっともっと作り出すために、一体どこまでやるつもり?と思う。無数のブランドに、ブランドマネジメントの機会に、各種企業向けの広告を生み出すために? 今、僕がニューヨークを歩いていて目にするのは、そういうことだ。

―映画『マイノリティ・リポート』(2002年)の世界に近くなっているのかもしれませんね。

ダニエル:(苦笑)フハッハッハッハッ、うん!

―トム・クルーズが街を歩いているとVR広告が面前にポップアップする、という。あの状況には、すごくイラつかされるでしょうね。

ダニエル:(笑)うんうん。


Photo by Joe Perri

―日本で世界初披露となる最新作のライブセットがどのようなものになるのか――まあ、秘密にしておきたいでしょうけれども――現時点で話せることを教えてください。前回、『Age of』のときの来日公演は、バンドセットで、なおかつ「人工知能が夢想する人類の4つの時代」をテーマにしたコンセプチュアルでシアトリカルな内容でしたが、今回もかなり作り込んだものになるのでしょうか? それとも、まったく違うものに? フリーカ・テット(Freeka Tet:フランス出身のビデオ・アーティスト、先述の「A Barely Lit Path」MVも手がけている)の協力を仰ぐ、という情報もあったと思いますが。

ダニエル:うん。だからまあ、今回はフリーカとコラボしている、それだけでも、このショウがどんなものになりそうかのヒントは君にもちょっとつかめると思う。でも、うん、もっとシアトリカルで、もっとこう、コンセプチュアルな、僕の音楽のプレゼンテーションの仕方になると思う。それでも、フリーカと僕とが一緒に考えてやってみる要素はたくさん含まれるし、あのレコードで表現されたテーマの多くも、何らかの形で代弁されるはずだ。現段階で、自分に言えるのは大体そんなところかな。ただ、アイディアとして確実にあるのは……典型的なエレクトロニックミュージックのコンサートのお約束を無視する、というか。エレクトロニックミュージックのコンサート、と言われて誰もが抱く予想を裏切るようなものをやりたい、ということだね。




Oneohtrix Point Never Japan Tour 2024
2024年2月28日(水)東京・六本木EX THEATER
2024年2月29日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13709


ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
『Again』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Translated by Mariko Sakamoto

 
 
 
 

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