She Her Her HersとThe fin.が語る、アジアでの音楽活動、静かな監視社会で感じたこと

左からShe Her Her Hers(©BUBBLING BOILING MUSIC ARTS FES)、The fin.(Photo by renzo / レンゾ)

.コロナ禍が収束して日本からも多くのアーティストが海外でライブを行うようになった2023年において、特に中国で大きな実績を残したのがShe Her Her HersとThe fin.だ。

【写真を見る】She Her Her Hers/The fin.

The fin.のYuto UchinoがShe Her Her Hersの作品でエンジニアを手掛けたり、She Her Her Hersの松浦大樹がThe fin.のサポートを務めたりと、盟友と言っていいこの2組。最初に世界に飛び出したのはすでに欧米圏でも名前が知られているThe fin.で、今年は一年間に2度の中国ツアーを行い、現地での人気の高さを改めて印象付けた。一方のShe Her Her Hersは2019年に3rdアルバム『location』を中国のWeary Bird recordsからリリースし、同年にツアーも行っているが、コロナ禍に入ってから中国版のTikTokである抖音(ドウイン)で人気が過熱し、特に「Episod 33」は月間で1000万回再生を記録したこともあったという。僕は5月にこの2組が参加した深圳での「Strawberry Music Festival」を現地で体験したのだが、ライブでの熱気は中国での確かな人気を感じさせるものだった。そこで今回はこの2組による対談を実施。2023年の活動を振り返りながら、バンドの過去・現在・未来について語ってもらった。

―今年のShe Her Her Hers(以下、シーハーズ)はコンスタントに中国や台湾でライブを行い、12月からはアジアツアーが控えているわけですが、まずは今年を振り返っていただけますか?

タカハシヒロヤス(Vo&Gt, Syn):5月の上海のライブがすごく印象的でした。僕らはコロナ前の2019年に中国でツアーをしてるんですけど、曲がたくさん聴かれ始めたのはその後で、熱は人づてに聞いてたんですけど、いまいち実感できてなくて。でも4年ぶりに中国に行って、5月18日の上海のライブではステージに出たときの歓声からしてすごく熱があるのを感じたんです。いままでやってきたことが間違ってなかったと思ったし、このままブラッシュアップしていけたら、もっといい景色が見られるんじゃないかと思いました。

松浦大樹(Dr&Cho):5月18日のライブはタイのHYBSと一緒で、彼らが初めて中国に進出するタイミングで、僕らも普通に聴いてたバンドだったりして。

タカハシ:自分たちが普通に聴いてたバンドと海外だったら同じ目線で同じステージに立てるっていうのも、一個士気が上がることだったというか。日本で活動していて、なかなか居場所がなかったところもあったけど、こういうところにバンドの居場所があるんだなと思って、よりギアを1個入れるきっかけになりましたね。

とまそん(Ba&Cho):フェスもよかったんですけど、10月に出た広州のライブハウスもすごく覚えてます。やっぱりフェスよりもライブハウスの方が自分たちを見に来てるお客さんが多かったし、より一層すごい熱量を感じるライブだったので。12月のツアーでもライブハウスを回るので、ちょっとその感じがイメージできて、今からすごく楽しみです。

松浦:やっぱり熱量は行ってみないとわからないところがあったけど、コロナによって弓を引く振り幅が大きくなっていたというか、お客さんの盛り上がろうとする熱量もその分すごく大きくなってるのを感じました。まず2月に台湾に行って、多分日本のアーティストの中でもわりと早く海外に行ったと思うんですけど、ひさしぶりに大きな歓声を聴いて、あの熱量は忘れられないですね。前にThe fin.のサポートで海外に行かせてもらったときに感じたあの熱量を、自分のバンドでも感じられたのは本当に幸せでした。

―The fin.も今年4年ぶりの中国ツアーを開催して、しかも1年に2回ツアーを行いました。

Yuto Uchino:1回目のツアーは2019年に行ったところをもう一度回るみたいな感じで、ちょっとサイズアップはしつつ、大体同じような感じだったんですけど、2回目はその拡張版というか、今まで行ったことない、メインの街からそれたところに行けたんですよね。それが結構自分的には面白くて、メインの都市にもそれぞれ特色があるけど、若者が一定数いて、エンタメを消費する層がちゃんといて、そこに俺たちが行くのとは全然意味合いが違うなと思ったんですよね。そもそも田舎にはあんまり若者がいないみたいで、多分日本で言うと、「香川にいきなりアメリカのバンドが来る」みたいなことで、香川の高校生がいきなりアメリカのバンドを目撃するような体験ってなかなか届けられないじゃないですか。それができたというか、お客さんから「衝撃的に良かった」とか、「人生が変わるようなライブだったよ」みたいな声をすごいたくさんもらったんですよね。海外のバンドとして、普段そういうことが行われないような街に行って、そこにいる若者たちに今の自分たちの空気感みたいなものを持っていけたっていうのは、すごく自分にとって意味があったと思います。


The fin.(Photo by renzo / レンゾ)

―シーハーズは2019年の中国ツアー以降に曲がたくさん聴かれるようになったという話がありましたが、コロナ禍の最中に中国版のTikTok、抖音で曲がかなり使われて、特に「Episode 33」は月間1000万回再生されたこともあったとか。



タカハシ:でも正直日本で生活してたら情報は全然入ってこないんですよ。

とまそん:だからちょっと他人ごとみたいな感じ。

松浦:「Episode 33」はレッドレンジャーになりたい真夜中の弱い人間の歌なんだけど、「中国の人みんなレッドレンジャーになりてえんだな」みたいな、冗談言うくらいしかできないっていうか(笑)。だから「一過性になんねえように」って、結構ビビリながら、視野を広げてプロモーションはしてたんですけど。

タカハシ:最近中国の人たちのSNS、小紅書(レッド)とかを見ると、アルバム(2019年リリースの『location』。「Episode 33」を収録)のジャケットと曲の親和性がめちゃくちゃあったのかなって。あの自然な雰囲気と曲の絡みが良かったのか、あれをセットで楽しんでくれてる感じがあって、マジックみたいなものがあったのかなと思います。

とまそん:実際中国のファンの人とコミュニケーションすると、歌詞のこともすごくよく考えてくれてて、日本語が母国語じゃない人のところにも伝わるのってすごく嬉しいなと思って。海外に出て行きたい気持ちは前からあって、「英語の方がいいのかな?」みたいな発想もあったんです。でも英語は母国語じゃないから、そんな自由には使えないし、やっぱり日本語の方が細かいニュアンスを表現できるから、自分たちの作品には日本語の良さを乗せて作ってきて。それがちゃんと海外の人にも届いたのは、自分たちのやり方を信じてよかったなと思ったし、どんどん風穴を開けていきたい気持ちになりました。


She Her Her Hers(©BUBBLING BOILING MUSIC ARTS FES)

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