ビヨンセの超人的なパワーを目撃、映画館で楽しむ「家族」たちとの祝祭

©RENAISSANCE WORLD TOUR, Photo by Julian Dakdouk シカゴ Soldier Field 公演 2023年7月23日

ビヨンセの最新ツアー『Renaissance World Tour』の圧巻のステージから、その裏側までを、余すところなく描いた映画『Renaissance: A Film by Beyoncé』が、12月21日に日本で公開された。同ツアーの米ニューヨーク公演にも足を運んだ音楽ライター、渡辺志保の考察をお届けする。

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2022年にビヨンセが発表した7枚目のアルバム『RENAISSANCE』は、ビヨンセが作り上げたサイバーかつハイブリッドなボールルームを舞台に繰り広げられる壮大なダンスミュージックアルバムだ。「BREAK MY SOUL」「CUFF IT」といったヒットシングルを生み出し、2023年のグラミー賞では最多ノミネートである9部門にてビヨンセの名前が踊り、4つのトロフィーを持ち帰った。中でも、最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム部門は黒人女性による初の受賞者となり、ジャンルを超えた彼女の功績が讃えられた瞬間でもあった(また、この年のグラミー賞をもって、ビヨンセはグラミー賞史上最多受賞アーティストとなった)。

そんな超大作アルバムを引っ提げてビヨンセが世界を廻ったツアーが、『Renaissance World Tour』だ。2023年5月のスウェーデン公演を皮切りに、10月のカンザス・シティ公演まで計56公演に渡る大掛かりなツアーで、その収益は5億ドル(約750億円)を超えると言われている。各地のチケットは軒並みソールドアウト。多くの会場において最高動員数を塗り替えるだけではなく、ツアー先のネイルサロンやウィッグ・ショップはビヨンセのライブ前に売り上げが跳ね上がり、地元のレストランやホテルにもインフレ状態が起こった。こうした経済効果は「ビヨンセ・バンプ(Beyonce Bump)」とも呼ばれ、メディアも大きく扱った。かくいう私も、久方ぶりのビヨンセのパフォーマンスを目撃すべく、7月の終わりにニューヨークへと飛び、ニュージャージーで行われたライブへと遠征した。夏休みシーズン、かつ円安に喘ぐ中、必死の思いでゲットしたコンサート・チケットとフライト。掛かった費用は安くはない。私のような海外勢も多いだろうから、『Renaissance World Tour』を巡って一体いくらのドルとユーロが行き交ったのか、恐ろしいほどだ。


©Parkwood Technology, Photo by Andrew White
バルセロナ Estadi Olímpic Lluis Companys公演 2023年6月8日



©2023 Kevin Mazur, Photo by Kevin Mazur
ニューヨーク MetLife Stadium公演 2023年7月30日


社会現象にもなった『Renaissance World Tour』をドキュメンタリー・フィルムに収めた映像作品が、この『Renaissance: A Film by Beyoncé』だ。ツアーを実現させるまで4年を費やしたとビヨンセが劇中で明かしている通り、これまで行われた数々のビヨンセのツアーを上回るほどの大掛かりな仕掛けやセットで構成されている。その隅々にまで彼女のこだわりが溢れ、どうしたら自分のイマジネーションを具現化できるのか、そしてそれをエンターテインメントとして観客に提示することができるのか、極限の状態のビヨンセをスクリーン越しに目撃することができる。



その眼差しは超人的でもあり、10代の頃からプロフェッショナルなアーティストとして活動を続けてきたビヨンセだからこそ行き着いた境地ともいえる。とはいえ、本作の醍醐味はふとした時に見せるめちゃくちゃカジュアルな、そして母親らしいビヨンセの表情が映し出される点でもある。大好きなチキンにかぶりつきながら、夫のジェイ・Zの質問に答える様子や、双子のルミとサーの乳歯が抜けたことを喜ぶ姿は、楽曲を聴いただけでは分からない彼女の素の姿だ。劇中、11歳になる娘のブルー・アイヴィーがビヨンセのステージに参加し、ダンサーとしてパフォーマンスを披露する場面にも迫っている。母親にビヨンセ、父親にはジェイ・Zを持つブルーは、生まれた時から常に世間の目に晒されてきた。今回は彼女の強い意志でステージを踏むことを決意したわけだが、ツアー中に彼女がどう成長していったか、本人やビヨンセ、そしてブルーにとっての祖父母であるティナやマシューの口からその経験が語られる。

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