オースティン・ペラルタ、「21世紀ジャズの特異点」がフライング・ロータスとLAジャズに遺したもの

天才少年と謳われた日本デビュー

伝説的スケートボーダーのステイシー・ペラルタを父にもつオースティンは、LA出身で1990年10月生まれ。5歳でクラシックピアノを始め、10歳でジャズに目覚めるとたちまち頭角を現し、2006年にデビュー作『Maiden Voyage』、その翌年に2ndアルバム『Mantra』(2007年)を発表しています。

この2作はプロデューサーの伊藤八十八さん(2014年死去)が主宰したジャズレーベル、Eighty Eight'sによる日本主導でのリリース。『Endless Planets』発表当時のオースティンは本国で謎の新人みたいな扱いでしたが、日本のジャズリスナーだけはもっと昔から彼のことを知っていたわけです。



2006年頃は、90年代から続くピアノ・トリオのブーム真っ只中。同年に寺島靖国さんによるディスクガイド『JAZZピアノ・トリオ名盤500』も刊行され、ピアノ・トリオ作品が飛ぶように売れていた時期です。ロン・カーター(Ba)、ビリー・キルソン(Dr)という大物が脇を固め、オースティンが14歳のときに録音された『Maiden Voyage』は、そういう背景や“ジャズ界の王子”“天才美少年ピアニスト”といった売り文句もあって大ヒット。同年に出演した東京Jazzではチック・コリア、ハンク・ジョーンズ、渡辺貞夫、上原ひろみという豪華セッションに参加するなど一躍時の人になりました。




『Maiden Voyage』はオースティンの演奏スタイルに影響を与えたマッコイ・タイナーやハービー・ハンコックの楽曲を取り上げつつ、手堅くまとめられたオーセンティックな作品でした。そこから翌年の『Mantra』ではメンバーを一新。ロバート・グラスパー世代の筆頭株だったマーカス・ストリックランド(Sax)、東京Jazzでも一緒に演奏したロナルド・ブルーナー(Dr)という当時20代のトッププレイヤーを迎え、コンテンポラリーなセンスを発揮すると共に、アルバム・タイトルが示すようにスピリチュアル・ジャズ志向も顕在化。ここに散りばめられた宇宙的なモチーフは『Endless Planets』にも継承されています。

生前の伊藤さんにオースティンの話をお聞きしたら、「2作目(『Mantra』)で難しい感じになり、そこからは交渉も難しくなってしまった」というふうに仰っていました。日本のジャズ市場が求める演奏と、オースティンのやりたいことが噛み合わなくなってきたのでしょう。彼はここで一度、姿を消すことになります。




ジャズとクラシック、エレクトロニックを横断する感性

オースティンはその後、大学でクラシックを再勉強しつつ、アラン・パスクアやバディ・コレットというジャズの先人たちに師事し、エリカ・バドゥやシャフィーク・フセインと接点を持ちつつ様々なセッションに出入りするなど、音楽を学び直す日々を過ごしていました。

この頃に大きかったのが、『Endless Planets』のアートワークやフライローの3Dライブも手がけたビジュアル・アーティストで、音楽プロデューサーとしてもBrainfeederから作品を発表しているドクター・ストレンジループとの出会い。2010年に二人がカリフォルニア芸術大学の公演スペースで行なったセッション『Live At CalArts - 7.20.2010』は、今振り返ると画期的な音源だったことに気づかされます。


クラシックの叙情的な旋律、現代音楽的に崩れ落ちるフレーズ。ストレンジループが操る電子音と混ざり合うオースティンのピアノ。日本で脚光を浴びた頃とはまったく違うフリーフォームな演奏は『Endless Planets』の試作品ともいえますし、ジャズのインプロと瞑想的なエレクトロニカが合わさった音像は、LAビート以降の動きを模索していたBrainfeeder周辺の音楽家たちにも大きなヒントを与えたのではないでしょうか。オースティンがその後、ティーブスやデイデラスといったビートメイカーの作品や、サンダーキャットのデビュー作、フライローの『Until The Quiet Comes』(2012年)に起用された理由もそこにある気がします。


オースティン・ペラルタの参加楽曲をまとめたプレイリスト

ジャズとクラシック、エレクトロニックを自由に往来できる感性はイギリスの音楽シーンとも相性抜群。シネマティック・オーケストラがオースティンを重宝したのもそうですし、DJとしてUKのブレイクビーツ・ムーブメントを牽引したあと、鍵盤奏者としてLAのジャズ界隈と交流を深めたマーク・ド・クライヴ・ロウのような人に刺さったのも頷けますよね。

ちなみに、『Endless Planets』のデラックス版には、BBCのスタジオでリチャード・スペイヴン(Dr)、シネマティック・オーケストラのハイディ・ヴォーゲル(Vo)とジェイソン・スウィンスコー(electronics)らと録音したセッション音源が追加収録されています。ここでオースティンが弾くピアノは、LAでのセッションにおける力強いタッチとは異なる、端正かつメロディアスなもの。音楽性の幅広さに改めて驚かされます。


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