MGMTが語るTikTokバズ、ポップでオープンな現在地、20年来の友情を保ち続ける奇跡

Photo by Jonah Freeman

2007年秋にリリースされたMGMTのデビュー・アルバム『Oracular Spectacular』は本国アメリカよりも先にイギリスで火がついて、2008年に入ってから「Time To Pretend」(35位)、「Electric Feel」(22位)、「Kids」(16位)とトップ40入りするシングルを連発し、アルバムも8位まで上昇。USアルバム・チャートでも38位と健闘を見せ、それまで東海岸ローカルで活動していたインディ・デュオはメジャー・デビューするなりスターの地位を手に入れた。ルックスの良さも手伝って、初来日となったサマーソニック2008でのライブは黄色い声援に包まれていたことを思い出す。

しかし急すぎた成功に対する反動は大きく、そこからのMGMTはデビュー作のポップ性からあからさまに距離を置いて、マニアックな方向へと突き進んでいく。2ndアルバム『Congratulations』(2010年)は元スペースメン3~スペクトラムのソニック・ブームを迎えて共同プロデュース、サイケデリック側へ振り切った大作に。米2位、英4位と好セールスを記録するも、ファンが望むようなシンセ主体のポップ・チューンはそこに含まれていなかった。

3rdアルバム『MGMT』(2013年)では、『Oracular Spectacular』以来久々にデイヴ・フリッドマンが制作陣に復帰。しかし反抗期はまだ続いていて、前作の方向性に満足しなかったというレーベルの神経を逆撫でするような実験的アプローチの曲と、気まぐれなジャンル越境の試みが混在した内容に。米14位、英45位とセールスが下がって行く様子は、ある意味「メンバーの目論見通り」に見えた。

そこから5年近くものブランクを経て届いた4作目『Little Dark Age』(2018年)では、デイヴ・フリッドマンに加えて、プロデューサーに転身して活躍していた元チェアリフトのパトリック・ウィンバリーを招集。冷涼としたシンセ・サウンドをフィーチャー、持ち前のポップ性がいくらか戻ってきた本作は、批評家筋から好評を得た。チャート上は米35位、英27位と伸び悩むも、2020年の後半からタイトル曲がTikTokでバイラルヒットする予想外の展開に。それに引っ張られてMVの再生回数が1.3億回にまではね上がり、久々に追い風モードとなった。

長年在籍してきたColumbiaを離れた2人は、2022年にライヴ・アルバム『11•11•11』を自身のレーベルからリリース後、再びパトリック・ウィンバリーとの共同プロデュースで、5枚目のアルバム『Loss Of Life』を完成させた。ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)やクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ、ネルス・クライン、デンジャー・マウスなど、これまでになく外の血を多数入れた本作は、ここ数作で最も風通しがよく、楽曲も粒揃い。長い反抗期をいよいよ完全に脱した感がある。会心の一枚となった『Loss Of Life』について、ベン・ゴールドワッサーとアンドリュー・ヴァンウィンガーデンに訊いた。



─「Little Dark Age」のTikTokをきっかけにしたバイラルヒットは、あなたたちにも予想外の出来事だったと思います。かつて「Kids」がアンセムになっていったのともまた規模が違う現象でしたが、あの盛り上がりの間はどんなことを感じていましたか?

ベン:まず思うのが、あれがあの時期に起こったのが僕たちにとってすごくラッキーだったということだね。ツアーができない時期だったし、バンドとして何もやっていなかったから。あれ以上ラッキーなことなんて起こり得なかった。

アンドリュー:ありえない感じだったよ。Spotifyでアーティストごとにストリーミング回数が見えるセクションをチェックしようとしたんだ。コーヒーを飲みながら何気なくアクセスしたら、「Little Dark Age」のグラフがとんでもないことになっていた。「何だこれは?! エラーか?」と思ったよ(笑)。僕はTikTokをやっていなかったから、どういうことだったのか後で分かったんだ。あのいきさつは見ていて楽しかったね。エネルギーにも自信にもなったし、ベンも言っていたけど、すごくラッキーだと思った。




─その後にリリースした「In the Afternoon」、「As You Move Through the World」はそれぞれタイプが違う興味深い曲でしたが、新しいアルバムではああいう方向には進みませんでしたね。何か心境の変化があったんでしょうか?

アンドリュー:「In The Afternoon」は『Little Dark Age』を締めくくるような感じなんだよね。『Little Dark Age』を引っ提げたツアーの日程がもう少し残っていた頃だった。2019年の暮れにささっと録音してしまおうという感じだったんだ。ソニーとの契約も終わっていたし、じゃあ1曲レコーディングして出してみようという話になって。テーマ的にはゴス、パンク・ウェイヴ、ポップ感がある曲になったんじゃないかな。その後コロナ禍が起こって、いよいよひとつのフェーズが終わったような気がした。『Loss Of Life』に取り組み始めたことが色んな意味でリセットになったんだ。




─ニューアルバムの前に忘れられないのが2つのコラボレーションです。1つめはアヴァランチーズとの「The Divine Chord」(2020年)ですが、あの曲はどうでした? 彼らとは音楽の作り方において共感する部分が多いのでは、と思うのですが。

アンドリュー:彼らの作り方を垣間見ることができたのはクールだったね。彼らの音楽はサンプル主体でコラージュ・ベースになっているけど、僕たちは以前から彼らの音楽にエモーショナルな意味で惹かれてきたんだ。今まで僕たちがやってこなかったタイプのアプローチをしているところが好きでね。自分たちとは違うやり方を見るのはインスピレーションになるよ。アヴァランチーズのトラックに携わったことは、『Oracular Spectacular』再現コンサート(2023年)に役立った気がする。最終的に『Oracular Spectacular』に入っている曲すべてをリメイクするような形になったからね。自分で自分の曲をサンプリングしたり、昔のレコーディング・セッションの音を使ったりしたから。曲の断片を引っ張ってきて、それまでやったことのないアプローチを試みたんだ。その時はサンプルのアプルーヴの心配をしなくて済むように、ライヴで使うことだけを念頭に置いてやった。だけど心からエンジョイできた作業だったよ。



─コーラ・ボーイの「Kid Born in Space」にも参加しましたね。あのコラボはどのようにして実現したんですか?

アンドリュー:彼とツアーしたことがあったんだ。2018年に僕たちのオープニングを務めてくれてね。すぐに意気投合して仲良くなったよ。お互いよく笑わせ合ってね。彼がアルバムを作っていたときニューヨークに来ていて、一緒に取り組んだんだ。



─そしてニューアルバムはMom + Popからリリースされると聞いて、あなたたちにとても合いそうなレーベルだなと思いました。Columbiaでもある程度創作の自由は守られていたと思うのですが、それでもメジャーレーベルならではの干渉や、作品に対する無理解を感じることはあったのでしょうか。

ベン:Columbiaとは全体的にとてもいい関係だったよ。ただ、彼らに限らずビッグなレーベルはみんなそうだと思うけど、組織が大きいからものごとの流れがスローだったり、多くの人に理解しがたいことがあったりするものなんだ。特にクリエイティヴなものに関しては、あまりにたくさんの手にかかると、全体の完全性が損なわれてしまうことがある。今回のアルバムを作っていた頃、僕たちはどこのレーベルにも属していなかった。とてもクールな経験だったよ。完全に自分たちだけのタイミングでやろうと決めたものをやることができたしね。Mom + Popの人たちと会って、自分たちにとても合ったレーベルだなと思った。コミュニケーションがとても楽だったし、僕たちの考えを解ってくれている実感があったんだ。

─しかし新作は、より自由に作ったはずなのに、むしろColumbiaが喜びそうな、とてもわかりやすくて親しみやすいアルバムになったように思います。エクスペリメンタルな要素が薄まって、はっきりしたメロディを持つ曲が多くなったのは、どのような流れからだったのでしょうか?

アンドリュー:最初にふたりの意見が通じ合ったのは、そぎ落とした箇所や静かな箇所を増やしたいという面でだった。それぞれの曲を、壮大な旅を凝縮したような感じにしたのが良かったと思う。プログレみたいな感じにはしない、ポップの範疇ではあるんだけど、リピートしそうなところでしなかったり、逆にしなさそうなところでしたりとか、想定外の展開でね。全体的に、歌詞も音楽もよりクリアでダイレクトな音にしたいというゴールは確かにあったね。

Translated by Sachiko Yasue

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE