This is LASTが語る、3ピースバンドとしてのプライド 現代のロックバンドのあり方

―This is LASTは、去年11月にベースの菊池竜静さんの脱退を発表しました。3ピースバンドとしてかなり大きい変化だと思うんですけど、どんな心境だったんでしょう?

陽報:竜静の脱退の話を3人で話し合った時、僕もテルもThis is LASTをなくすってことは一切考えてなくて。僕ら2人とも覚悟が決まった。竜静が自分の症状だったり、精神的な面も含めて、お客さんに心配かけたくないとか、竜静なりに色々気遣った結果、お客さんに対して言葉足らずな瞬間が多々あったんですよね。それは僕としても感じていて。僕がお客さんだとしたら納得はいかないだろうなって思うタイミングも結構あったので、お客さんに対してはすごく申し訳ないなって思っていて。ただ、お客さんの行き場のない気持ちを、僕たちにいただくことが多くて。そういうふうに言葉を受け取れる環境にあるのも、幸せなことだなとは思っているんです。お客さんが僕たちに対して気持ちを伝えてくれる信頼関係みたいなものを繋げられていること、作ることができていることはバンドにとって誉あることだなと思うので、お客さんに対してごめんねっていう気持ちもあるし、ありがとうっていう気持ちもある。これから覚悟を決めてもっと突き進んでいくって気持ちを固めたので、そういう風に伝わったらいいなと思いますね。

―鹿又さんはいかがでしょう。

鹿又:大体のところは、今あきが言ってくれたんですけど、僕も不思議とネガティブな気持ちではなかったというか。「This is LAST、やばいな」みたいな気持ちは全然なくて。覚悟を決めて、これからも突き進んでいく想いがより固まったというか。信念を持ってバンド活動できるようになったので、ポジティブに突き進んでいけたらいいなって思っています。


鹿又輝直

―前回の取材で、アレンジ面で竜静さんらしいものを持ってきてくれると話してくれていましたが、音楽制作の部分は、どういう風にチューンナップしたんでしょう。

陽報:竜静が抜ける抜けないって話をする以前ぐらいから、僕が楽曲の形を作るスタイルに自然と変わっていっていたんですよ。竜静が脱退をすることになって、僕が1曲1曲作曲していく形になった。ただ、僕のイメージしていたもの、今までのThis is LASTみたいなものに翻弄される部分もありました。変な話ですけど、竜静っぽさみたいなものをちょっと考えたりする瞬間もあって。最初の頃は、それで翻弄されてうまくいかない繰り返しで。サビだけ作ってボツとか、本当にそういう曲が100曲以上ファイルにまとまっている。そこは本当に大変でしたね。翻弄されつつも、本当に苦しい時期を乗り越えて、模索しながら、自分の表現したいことを表現できるようになってきたなとは思います。

―鹿又さんは、そういうあきさんの産みの苦しみを、近くで見て感じられてました?

鹿又:もう感じまくってますね。寝てないなっていうのもわかるし。でもそういう負の感情みたいのをライブでは出さないんですよ。そこがすごくかっこいい部分だなと思いますね。

陽報:ライブって生物じゃないですか? 完璧なものが見たかったら、クラブに行って音源を流してもいいですよね。でも、人がやるからこそ、音源を超える瞬間がやっぱあると思っていて。僕がギターをアンプで鳴らして、その音を見てくれるローディーさんがいて、その音をPAさんがマイクで拾ってスピーカーから出す。ライブって、たくさんの人が関わってるんですよね。そういう中で僕が思うのは、ライブはその時出せる全力を出すのが1番ってこと。ただ、今までは逆だったんです。どんなに体調や調子が悪くても120点を決められなかったら、くそって決めてたんですよ。そうなると、毎日がくそだったんです。1年間通してめっちゃ良かったなって思う日が1、2回しかないみたいな。ただ、周りからすごくいいライブだったよって言ってもらえることがずっとあって。自分の評価と周りの評価の矛盾にストレスを抱えていた。そこからだんだん考えが変わっていって、その時、自分が全力を出し切れたかどうかが1番大事だよなって。ロックバンドって生き様なので、とにかく全力で誠心誠意やれたらそれでいいって気持ちで、納得できるようになりました。

―今回のアルバムに収録されている曲の中でも「Any」は、打ち込みっぽいリズムや、幼い声の合唱的な音も入っていますが、どのように生まれた楽曲なんでしょう。

陽報:この曲は、僕がサブスクライクな楽曲を作りたいというところから始まったんです。2023年頭に全23本のワンマンライブツアーをやらせてもらった時、ほぼ家に帰らず、チームと一緒に生活してる中で、チームに対しての愛情が溢れすぎちゃって。This is LASTチームに向けて「愛してる」って気持ちを込めて書いたんです。それこそツアーを回りながら誰かの誕生日祝ったりするのも幸せで。レコーディングに関して言えば、SNSなどで音楽が消費されることが多い時代で、音楽はiPhoneのスピーカーから流れるケースが大じゃないですか? だから、一聴していいと思えるシンプルさが必要だなと思って。あと、ドラムとベースの音色って1番時代が出るんです。今の時代的には余韻をデッドしたドラムが多い。点で鳴るようなドラムだったり、打ち込みっぽいドラムが増えた。だからこそ、今僕の考える現代のロックバンドのあり方として、生ドラムを打ち込みにして時代と戦おうと思ったんです。生ドラムを録音したものを打ち込みっぽくするっていう、本来絶対やらないようなことをこの曲ではやっています。

鹿又:だからレコーディングは大変でしたね。スネアの皮を変えて試したり、叩き方だったり、金物の鳴りをどうするみたいなことを色々やりつつ、今の音源にたどり着いたんです。

陽報:ミックスで音はいじりまくっていますね。本当にバンドマンがやったら邪道だと思うことに手を出したっていう(笑)。打ち込みをドラムっぽくすることはあるんですけどね。



―ボカロPが作る楽曲と真逆方向からのアプローチというか。

陽報:ボカロPさんの楽曲って、ここ数年流行ることが多いじゃないですか。それは打ち込みを生っぽくしようとしてるわけなんですけど、やっぱり打ち込みっぽさが残ってる。そこに僕は着目して、逆に生が打ち込みに寄せようって(笑)。そこはめっちゃ楽しかったです。スタッフはみんな「叩かなくてよくない?」って言ってましたけど。いや、それは違うんだ!やっぱロックバンドのプライドがあるから鳴らしたものを変えるんだ!って言って。

―めちゃめちゃこだわっていたんですね。キッズたちの声を入れた意図は、どういうところにあるんでしょう。

陽報:そもそも「Any」は僕の大事なものに関して歌ってる曲なんです。自分の大事なものだったり、誰かの幸せを願って、僕主観で書いてるけど、それこそみんなの歌にしたかった。それで曲調もゆらゆらした感じにしたり、最後にシンガロングを入れてみんなで歌えるようにしたり。それこそ子供の声を入れたりすることで間口を広げられたらいいなっていうことで、こういうアレンジをしました。

―鹿又さん的に今作においてチャレンジした楽曲をあげるとしたら?

鹿又:やっぱり「Any」かな。チャレンジの塊みたいな曲なので。レコーディングも、いかに人間味を出さないで機械的に叩けるかすごい意識しました。これはかなり挑戦的ですね。

陽報:本来のバンドの面白さ全部捨てて、逆をやっているからね(笑)。

Rolling Stone Japan 編集部

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