長渕剛が真摯に語る、「血」をテーマに歌をつくりたかった理由

―そして、今回のアルバムの表題曲「BLOOD」。どんな背景や想いから生み出されたものなんでしょう?

長渕剛:あたりまえのことなんですよね。わざわざ歌にするようなことでもないのかもしれない。でも、僕の中では、何かしら“血”というテーマで歌をつくりたい。その想いがすごく強くなっていたんですよね。で、これがいちばん新しい歌なんですよ。アルバムの情報をリリースする手前で、早急にアレンジして組み立てた楽曲なんです。そこで僕は何を歌いたかったのかと言うと、青年時代に「何の為に、誰の為に生きるか」と問い続けたのと同じように、今は「何の為に、誰の為に死ぬのか」ということの大義を必要としているんだと思うんですよね。それは……言葉を恐れずに言うと、みんなの心の中に実はその大義はあって「俺が! 私が!」という我欲だけではなく、誰しもが「誰かの為に生きたい」とか「誰かの為に命を捧げたい」という想いを持っているんですよ。

―そうかもしれないですね。

長渕剛:「そういう優しい心がみんなにあるんだよ。そう思わない?」ということを必死で言いたいんですよ、僕は。何故か必死で言いたい。ふと空を見上げたときに、都会の空は星が少ない、田舎の空は星がいっぱいある。でも「都会に離れた君と田舎にいる僕が見る星は、同じ気持ちの空だよね」ということも必死で言いたい。そして、最終的に「しあわせだったか?」と。僕と関わり合ってくれた人へ。或いは、この歌を聴いてくれている者たちの大切な人へ。いちばん大事にしている人間に問い続けたいことなんだと思うんですよ。でも、怖くてなかなか言えないんですよ。「しあわせだったか?」「うーん」って言われても困るし(笑)。だから、それをわざわざ歌にしてみたかったんです。

―今の話、共感しかなかったです。誰もがそう思っているかもしれないけど、気付かなかったり、忘れてしまったりしていること。それを思い出させてくれる歌でもありますよね。

長渕剛:どんな男でも家族をつくったり、家族をつくらなかったとしても誰かの為に生きているわけですよ。必死で。その社会で戦っている構図はなかなか人には理解できなかったり、大事な人ほどあたりまえになっていて分からなかったりします。だから男は酒呑んで「クソ!」と言いながら明日に向かっていくわけでしょ。それでも、男って悲しくも最後は踏ん張るじゃないですか。その男としての想いみたいなものもおそらく色濃く「BLOOD」には反映されている。同時に「女性の皆さん、ごめん。気持ち分かって」っていう想いもあるかもしれない(笑)。

―そんなアルバム『BLOOD』リリース以降のヴィジョン。長渕剛はどこへ向かおうとしているのか。聞かせてもらってもいいですか?

長渕剛:やっぱり「生ききる」というテーマですから。長渕剛は生ききる。だから余裕はないですよね。余裕はないから必死に懸命に生きていく。これに尽きます。それ以外のことを考えると……今の時代って負のスパイラルに陥りがちじゃないですか。だから、何かしらに必死になって、死ぬことも忘れて生きていくんでしょうね。そんなイメージでやりきろうかなと思っています。それもあって桜島を今は目標として掲げているんです。

―2004年の桜島、2015年の富士山麓、終盤に全員で必死に叫んで拳を振り上げながら、太陽を引きずり出すシーンがありました。あれって曇天だったら台無しじゃないですか。でも、何年も前からとんでもない数の大人たちが「太陽は昇る」と信じて準備している。そこに何万人ものファンが集まってくる。その有り得ないことが起きてしまっていることに対し、長渕さんは何を想っていたのか気になります。

長渕剛:信じる力が失せてしまうから、そういうテーマを掲げたんだと思います。特に2015年の富士山麓は東日本大震災のあとでしたから。それで2年プロモーションして実現したんですけど……でもね、たしかに太陽が出てなかったらマズいよね。たぶん、切腹ですよ(笑)。みんな信用しないかもしれないけど、冗談抜きでそれぐらいのことは覚悟していました。で、太陽は登ったんですけど、終演後に40分ぐらい気を失いました。それで心臓をちょっとやっちゃったんですけどね。3年後ぐらいに手術しました。内臓関連は肝臓とか腎臓はもう無くなってもいいぐらいの気持ちでやんないと出来なかったんで。59歳でしたから。いくら医療班がいたとしても……先生が耳元で「最後は家族だけにして下さい」って言った時は、覚悟しました。

―富士山麓で長渕さんの生涯が閉じてしまっていたかもしれない。その可能性が……。

長渕剛:全然ありましたよ。総合格闘家の三崎和雄に聞いて下さい。アイツ、嗚咽しながら「アニキぃ!」って泣いてましたもん。「おまえ泣くんじゃなくて救急車だろ!」と思いながらも、意識がスーッと床に吸い込まれるような状態になっていて。低血糖ですよね。ヤバかったです。でも、朝陽が出て良かったです。その一発に懸けて膨大な時間と人材と労力をかけて準備してきたわけですからね。でも、さすがに3回目は太陽が出てきてくれないかもしれない(笑)。

―そればかりは読めないですからね。奇跡じゃないですか。ゆえに富士山麓のライブはめちゃくちゃ涙が溢れましたよ。

長渕剛:僕も泣いたね。あれだけ何万人もの人間がひとつを信じてやってきたわけですよ。その信じる気持ちに対して「絶対に裏切りたくない!」という想いがあって、ゆえに本当に命を懸けた祭典だったんだけど。その想念みたいなもの、みんなの想いというものは、何かしら特別なものを引き起こす可能性があるんじゃないかなって。少し希望を持ちましたね。それは深い深い感謝に変わりました。来てくれた人たちに対して。

―ということは、次の桜島も富士山麓のような……。

長渕剛:次の桜島はちょっとカタチ変えましょうよ(笑)。

―たしかに! 長渕さんには生きてほしいので!

長渕剛:死ねって言われれば死んじゃうかもしれないから(笑)カタチを変えましょう! 例えば、夕焼けとかね。逆に陽が沈むまで。

―太陽を引きずり出すのは、もう2回も達成してますからね。

長渕剛:「沈んだらまた昇るから!」って言って(笑)。まぁ桜島は決まったらまたいろいろ考えますよ。

―では、最後に、ニューアルバム『BLOOD』や今後の活動を体感してほしい皆さんへメッセージをお願いします。

長渕剛:音楽スタッフの仲間をつくりました。光り輝くダイヤモンドみたいなグループです。「我々は原石だ」と。この原石を磨く旅をします。おそらく2年、3年かかると思いますが、その仲間たちの結集の力をファンのみんなにぶつけてですね、それでこれから先、自分の役割や使命みたいなものをどんどんカタチにして社会へ投石していければなと。投石と言うと、ちょっと反逆の思想と結び付けられそうですけど、それがないとは言いませんが(笑)! そういうことではなくて「本当の優しさとは一体なんなんだ?」ということを追求していきたいなと思っています。



<リリース情報>


『BLOOD』通常盤

⻑渕剛
『BLOOD』
2024年5月22日(水)発売
VIRGO&LEO
初回限定盤[CD+DVD]税込 3800円
ファンクラブ限定盤[CD+DVD]税込 4000円
通常盤[CD]税込 3300円
=収録内容=
CD
1. 路上の片隅で
2. ひまわりの涙
3. ジャッキーレディー
4. Face Time
5. いいんだよばーか
6. 黑いマントと真っ赤なリンゴ
7. ステンドグラス
8. ZYZY
9. ダイヤモンド
10. BLOOD
初回限定盤付属 DVD ・MV「黒いマントと真っ赤なリンゴ」
・Making of「黒いマントと真っ赤なリンゴ」Shooting
ファンクラブ限定盤付属 DVD
・「Tsuyoshi Nagabuchi Concert Tour 2023 OH!」武道館ライブ映像(3 曲)

<ライブ情報>

TSUYOSHI NAGABUCHI ARENA TOUR 2024 "BLOOD"
2024年6月25日(火)大阪府 大阪城ホール
2024年6月26日(水)大阪府 大阪城ホール
2024年6月29日(土)福岡県 マリンメッセ福岡 B 館
2024年6月30日(日)福岡県 マリンメッセ福岡 B 館
2024年7月27日(土)鹿児島県 ⻄原商会アリーナ(鹿児島アリーナ)
2024年7月28日(日)鹿児島県 ⻄原商会アリーナ(鹿児島アリーナ)
2024年9月5日(木)愛知県 Aichi Sky Expo ホール A
2024年9月6日(金)愛知県 Aichi Sky Expo ホール A
2024年9月28日(土)広島県 広島サンプラザホール
2024年10月18日(金)東京都 有明アリーナ
2024年10月19日(土)東京都 有明アリーナ

Rolling Stone Japan 編集部

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