笠置シヅ子が起こした革命、刑部芳則が語る服部良一によるリズムの実験

エッサッサ・マンボ / 笠置シヅ子



田家:昭和30年6月発売、作詞の服部鋭夫、この方は?

刑部:この方はあまり作詞として出てこない方ですよね。

田家:服部良一さんではない?

刑部:違いますね。

田家:これはなんと安来節でありましたが、この曲を選ばれているのは?

刑部:おもしろいですよね。「エッサッサ・マンボ」ってタイトルもそうですし、安来節という日本古来の民謡とマンボという新しいリズムを融合させている。他にはない服部メロディという形で選んでみたんですけど、服部さんは若い頃にロシアの国民楽派というクラシックを勉強しているんですよね。ロシアの国民楽派というのはどういうことかと言うと、民謡を芸銃的な音楽にするという技術なんですよ。だからやっぱりそれを継承しているから、服部さん的に日本の民謡を芸術的な自分の作品にというような、それがこの1曲にも表れているかなという感じがしているんですよね。

田家:なるほど、そういうバックグラウンドがあるんですね。その国独自のものというのをどうやって新しいリズムで音楽にしていくかというのがずっとテーマにあった?

刑部:そうですね。だからやっぱりこれもそうで、外国のマンボをそのまま日本に持ってきたってうけないだろうと。やっぱり日本人がどこか馴染みのある安来節とくっつけることによって親しまれるんじゃないかと考えたんだと思うんですよね。

田家:「お祭りマンボ」とはどこか違いますもんね。

刑部:ちょっと違いますよね。

田家:笠置さんとひばりさんというのは先生の中ではどういう関係と?

刑部:初期の頃、ひばりさんは「河童ブギウギ」というのでたしかデビューしているので、笠置さんを意識していたと思うんですけど。美空ひばりさんは天才少女と言われるように、なんでも歌いこなしていく方ですよね。それはそれのよさがあるんですけど、笠置さんはひばりさんとは違って舞台から出てきた人でパワフルに新しい最先端な曲を歌っていく。言ってみればテレビ時代の人だと思うんですよ。だけど、それがまだラジオと蓄音機の時代のときに出てきた。それこそ時代を 30~40年先取りしたような歌手の方だなという感じがしますよね。

田家:ドラマの中でもひばりさんと笠置さんはどんなふうに描かれるんでしょうね。

刑部:どうなんでしょうね。そのへんも出てくるか、出てこないのか。あるいはどういう関係なのかというのをぜひ楽しみにして観ていただけたらなと思いますけどもね。

田家:今日最後の曲です。昭和31年1月発売「たよりにしてまっせ」。

たよりにしてまっせ / 笠置シヅ子



田家:1956年、昭和31年発売。2枚組のアルバム『笠置シヅ子の世界」。Disc2の最後の曲ですね。この曲を最後にしているのはやっぱり意味があるんでしょう?

刑部:これが笠置さんの当時一般発売された曲としては録音された最後の曲なんですよね。この後、ほとんど新曲を出さず、昭和35年ですか。服部さんの特別な企画のときにお歌になったというのが、人前で歌った最後。もう事実上、歌手を引退していく形になりますよね。

田家:廃業宣言みたいなことはされたんでしたっけ?

刑部:してないんですよね。ですから引退宣言をして辞めたというわけではないんですけど、これが最後の笠置さんの光り輝いている1曲じゃないかと思ってCDの最後にも入れましたし、今日も最後にこれを選んでいるんですけど。たしか間違いなければKinKi Kidsというアイドルがいるじゃないですか。それが平成になってからカバーしていたと思いますね。

田家:キンキですからね。笠置さんと服部さんの間に関西、大阪、関西弁というのは大きいでしょうね。

刑部:大きいですね。だからやっぱり初めてじゃないですかね。みんな標準語で歌うと思うんですけど、自分の出身地の言語で民謡以外でこういう歌謡曲を歌ったのは笠置さんぐらいじゃないですかね。

田家:この2人じゃなければ作れない歌がたくさんあったという中に、そういう要素もあったということですね。音楽は自由でいいんだ、何弁でもいいじゃないか。

刑部:そうそう。これは服部さんと笠置さん2人とも大阪出身だからという、そこが意思疎通できて、こういういい曲ができているんだと思いますよね。

田家:この先ドラマではそのへんがどんなふうに描かれるんでしょう。来週と再来週は笠置シヅ子さんではない服部良一さんの全体像をいろいろ教えていただこうと思います。来週もよろしくお願いします。

刑部:どうもありがとうございました!

静かな伝説 / 竹内まりや



流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

笠置シヅ子さんが歌っている姿は、僕も本当に小さい頃に見た記憶があって。晩年は大阪のおばちゃんという女優さん、CMに出てくる人というイメージがありました。1985年に70歳でがんで亡くなったんですね。ブギというリズムは、笠置さんがいたから、そして服部良一さんも笠置シヅ子さんがいなかったらあれだけの曲は書けなかっただろうなとあらためて再確認しております。マイクの前で飛び跳ねながら歌う。僕らがエルヴィス・プレスリーを見たときにうわー!マイクの前で足動かしてるよって思ったのですが、それより遥か前に笠置シヅ子さんがいました。明らかに革命ですね。

Disc1、Disc2、今週のDisc2はおもしろかったですね。こんなにいろいろなリズムの実験を日本の歌謡曲でしてきた作曲家がいたんだというのは大発見です。大瀧詠一さんが歌謡曲論を書きたいとずっと言っていて、それが果たせないで亡くなってしまった。大瀧詠一さんが語る服部良一論を聞きたかったですね。今週のいろいろなリズムの冒険は大瀧さんがナイアガラでやってきたことに通じると思います。そして、ドラマ『ブギウギ』がこの後日本の音楽シーンをどんな風に描いて行くか。ブギウギという音楽と服部良一さんにどんな光を与えていくのか注目したいです。来週と再来週は服部良一さんそのものについて迫っていこうと思います。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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