小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味

「つながるはずのないものがつながる、つながっている」

─『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』は、「LIFE ART」「LIVE ART」の2つのイベントを両軸としており、音楽を主とする「LIVE ART」を「通底縁劇・通底音劇」と名付けたのも、今おっしゃっていただいたような経緯があったからなのですね。「通底」という言葉は、アンドレ・ブルトンの『通底器』からヒントを得たものだとお聞きしました。「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージしているそうですが。

小林:僕らがap bankを作ってからもう20年以上経つのですが、当時予想していた未来よりも深刻な状況になっています。例えば気候温暖化がもたらす深刻な変化について、もはや疑いようのないところまで来ていることを世界中の人たちが感じているはずです。左とか右とか、大企業とか小さなコミュニティとか、そういう次元で考える問題ではない。一進一退は当然ありますが、問題解決に向け工夫して乗り越えていくためには、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージすることが大切なのではないかと。

実際、つながってないものなんてないんですよ。例えば歴史的な要因による戦争や、自然災害による物理的な分断だけでなく、コロナ禍で起きたさまざまな分断はあっても、根底では我々は繋がっているし、分かり合えるのではないかと感じています。今、この時期に「通底」をテーマにライブを行なうことの意味は、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということを提示したかったからなんです。

─「通底縁劇・通底音劇」の内容についても具体的にお聞かせください。小林さんプロデュースによるスペシャルライブが4会場で行われ、その第1弾が4月6日に富津公園ジャンボプールにて開催される、アイナ・ジ・エンドさんをフィーチャーしたアートパフォーマンスライブ『不思議な愛な富津岬』です。

小林:『不思議な愛な富津岬』というタイトルは、アイナはもちろん『不思議な国のアリス』にも引っ掛けていて(笑)。富津公園ジャンボプールの一角で、今まで見たこともなかったようなサイケデリックかつファンタジックな世界観を作り出す予定です。最近は俳優としてヴィム・ヴェンダース監督作『Perfect Days』や、Netflixドラマ『First Love 初恋』にも出演し異彩を放っているダンサーのアオイヤマダもメンバーとして名を連ねるパフォーマンス集団「東京QQQ」も要注目です。

実は先日、『通底(ツーツーテーテー)大熊町〜復興&交流イベントおおくま学園祭2024』というイベントを、未だ帰宅困難な地域が残る大熊町で開催したのですが、スガ シカオくんや安藤裕子さん、CENTらと共に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたアオイツキ(アオイヤマダと高村月の二人からなるポエトリーダンスパフォーマンスユニット)もメンバーの一員である東京QQQと、アイナ・ジ・エンドが一体どんな化学反応を織りなしていくか。ひびのこづえさんというコスチューム・アーティストの衣装にも期待してもらいたいですね。

─4月20日、21日は、メインステージとなるクルックフィールズで、櫻井和寿さん、スガ シカオさんを中心としたライブ『super folklore(スーパーフォークロア)』が開催されます。

小林:Mr.Childrenの楽曲はもちろん、僕がプロデュースしてきた櫻井くんの、とにかく名曲揃いの作品たちを「再解釈」してみようと。櫻井くんの楽曲が好きな人たちにとっては、それだけでも大満足してくれるものになると思います。「フォークロア」と名付けているように、テーマは個の営みと社会や他者との関係性。例えば、未知なるものに対する敬虔な思い……例えば「信仰」や「宇宙観」「スピリチュアリズム」は、個の営みに内在していたりもする。つまり個と全体は真っ二つに分断されているのではなく複雑に関係しているということを、クルックフィールズという場所で「組曲」として届けたい。そのためにはスガ シカオくんのある種の「毒味」というか、日常を切り取る独特の視点が必要だと思ったので声をかけさせてもらいました。2人とも積極的に参加してくれていて、今とてもワクワクしていますね。

また、『super folklore(スーパーフォークロア)』にはButterfly Studioというクリエーター集団も出演します。ゲストボーカリストのHana Hopeや東京QQQの⾼村⽉、KUMIらをフィーチャーしながら進んでいく。名和晃平くんが手がけるドローンアートも組み込まれた、通常のライブパフォーマンスとは全く違う総合表現になると思います。

─君津市民文化ホールでは、5月4日、5日に宮本浩次さんを中心としたライブ『dawn song(ドーンソング)』が開催されますが、こちらはどんな内容になりそうですか?

小林:宮本くんは、数年前に女性の歌う楽曲ばかりカバーしたアルバムを2枚リリースして(『ROMANCE』『秋の日に』)、僕はアレンジャーとして参加したのですが、そこでは昭和の楽曲もたくさん取り上げたんですよ。今回「通底」をテーマに掲げると決めた時、そういう「昭和的なもの」を掘り起こすことも必要だと。思えば内房総は、戦後の高度経済成長を象徴する「京葉工業地域」でもあるんですよ。そこに宿る「悲喜こもごも」を、昭和の楽曲に投影させるというか。敗戦から立ち上がり「dawn(夜明け)」を迎えていくような、そんな力強いライブになったらいいなと思っています。

昭和の歌謡曲といえば、ザ・ピーナッツというグループがあって、コーラスもできるし歌い分けもデュエットもできる、素晴らしく機能的なグループだと僕は思っていたのですが、彼女たちをオマージュした落花⽣ズという2人組も、『dawn song(ドーンソング)』に出演してくれます。そのうちの一人であるヤマグチヒロコは、僕が中沢新一さんと石巻市で『Reborn-Art Festival 2019』という芸術祭を開催したとき、宮沢賢治をテーマにしたオペラ『四次元の賢治』にも出演してくれて。満島真之介が宮沢賢治を演じ、コムアイやSalyuら錚々たるメンツが集まったのですが、その中でもヒロコは引けを取らない演技を披露してくれて。彼女のパフォーマンスも非常に楽しみにしています。


Photo by Takuya Maeda

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