フェイ・ウェブスターが語る、どこにでもいそうなスーパースターの自由と葛藤

心の傷とレコーディング

アニメのように短命なものに執着しがちな彼女だが、『Underdressed at the Symphony』は痛ましい別れを描いた、驚くほど誠実なレコードだ。ウェブスターは、4年間交際していたラッパーのBoothlordと別れた後に本作を作り上げた。「別れてはよりを戻してた」。彼女はそう話す。「それがどれだけ不毛かを理解できるくらい強くなるのに、長い時間が必要だった」。

アンチロマンティックなラブソングとして、彼女は親密な 「But Not Kiss」(“夢の中であなたに会って、すぐに忘れてしまいたい/私たちは結ばれる運命だけど、それはまだ先”)を挙げる。「この曲を書いていて、こう思ったの。『これが私の曲じゃなくて、誰かが私のために書いた曲だったらよかったのに』って」。彼女はそう話す。「探していたものが見つからなかったから、自分で作るしかなかったの」



表題曲では、彼女は別れに伴う苦悩に正面から向き合い(”まだお母さんに話してないんでしょ/だってまた家に招待されたんだもの”)、実際のオーケストラの演奏の一部を含む、ゆっくりと熱を帯びていくようなアンサンブルにのせて胸の痛みを打ち明ける。同曲の後半には、それ以上にストレートな表現が見られる。”不似合いな服装で来た交響楽団のコンサート/演奏を聴きながら泣いてる/あなたがかけてくれた曲”。

破局がもたらした心の傷を癒すために、ウェブスターは実際にアトランタ交響楽団のコンサートに何度も足を運んだ。開演直前に行くことを決め、駐車する時間がないかもしれないと心配しつつも、自宅から15分の距離にある会場に向かって車を走らせると気分が高揚した。当然、服装に気を配る余裕はなかった。

独りであっても、群衆に囲まれていると彼女の気持ちは安らいだ。21歳の若者によるベートーヴェンの演奏を観た夜、正装したオーディエンスに混じってフリースのベスト姿で出席したクリスマスショーなど、その体験は毎回違った。「癒される思いだった」 と彼女は話す。「誰も私のことを知らないし、知り合いに会うこともない。演奏される曲の大半は聞いたこともなかった。本当に辛いときは、『今夜はショーがあるのかしら? 』って考えるようにしてた」。


Photo by Kendrick Brinson
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同作のレコーディングは、アメリカとメキシコの国境に近いテキサス州トルニーロのSonic Ranch Studiosで行われた。ウェブスターが地元以外でレコーディングをしたのは今回が初めてで、「壊れない限り直さない 」という普段のメンタリティとは何もかもが違った。「エンジニア(Drew Vandenberg)からは『何か新しいことに挑戦してみたら?』って提案されたんだけど、『うーん、やめとく』って返した」。彼女は笑ってそう話す。

アルバムは9日間で完成させた。同一の空間でメンバー全員が一斉に音を出すライブレコーディングで、3テイク録ってベストのものを選ぶというケースが大半だった。「どの曲にも反復的なリフがあって、ソロはほとんどない」とストエッセルは話す。「僕らが 『ザ・ライド 』と呼ぶようになった曲の下地になるパートが出来上がったら、あとは歌を入れるだけだった」。

クラインは自分のパートをニューヨーク北部の自宅で録音し、ウェブスターはアトランタの家のキッチンでGarageBandを使ってボーカルを編集した。自他共に認める出不精である彼女は、歌を宅録することが多い。彼女にとって完璧な一日はどんなものかと尋ねると、ウェブスターはただ 「家で過ごす日」と答えた。彼女は任天堂のSwitchやDS(後者は彼女の好きな色であるコバルトブルー)、それに新しいiPad mini(Apple Pencilと一緒に使うこともあると冗談めかして話す)で遊ぶのが大好きだ。諸々を考慮すれば、彼女がストーナーではないという事実は少し意外に思える。

「私は常にシラフなの」。そう話しつつも、彼女は時々ワインを嗜む。「ヨッティが投稿した私とタイラー(・ザ・クリエイター)のビデオには、『彼女キマりすぎ』みたいなコメントがすっごいあって。私たち3人が集まってるってことには触れさえせずに、ただ『彼女はラリってる』みたいなのばっかり。私にしてみれば『笑ってただけなのに! 私はタバコも吸わないのに!』って感じ 」。

Translated by Masaaki Yoshida

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