フェイ・ウェブスターが語る、どこにでもいそうなスーパースターの自由と葛藤

ボブ・ディランは嫌い、ゲームやおもちゃが好き

ウェブスターは優れたユーモアのセンスの持ち主だ。「サッド・ガール」というジャンルに分類されがちだが、その根底には常にユーモアがある。泣くことについての曲(かなり多い)でも、そこには必ず何かしらのひねりが見られる。2019年作『Atlanta Millionaires Club』の収録曲では、泣きすぎて涙が「常温になってしまった」と歌っているが、同曲のミュージックビデオでは彼女がフラダンスやシンクロナイズドスイミングのような、悲しみとは無縁そうなアクティビティに興じている。独特のユーモアは最新作『Underdressed at the Symphony』でも健在であり、「eBay Purchase History」は(予想できるだろうが)ウェブスターのeBayでの購入履歴について歌った曲だ。



ウェブスターはクラシックロックがあまり好きではない。ビートルズについては「興味ない」らしいが、ミネソタ出身のある人物についてはもっと明確な意見を持っている。「ボブ・ディランは大っ嫌い」と彼女は明言する。「まるで好きになれないし、聴いてられない」。彼女のマネージメント会社のLook Out Kidという社名はディランの歌詞からきている。「私と契約するまで、彼らは私がボブ・ディランが嫌いだって知らなかったの」。

一方で、ウェブスターはウィルコの熱烈なファンであり、最も好きな曲として挙げている「Impossible Germany」はライブでも度々カバーしている。彼女は同曲でこの世のものとは思えないソロを弾いているギタリストのネルス・クラインを、新作の2曲でゲストに迎えている。「フェイがウィルコの前座を務めたツアーの初日、ジェフと僕はステージ脇から観ていて、その世界観に感銘を受けた」。クラインはそう話す。「思いがけず魅了されたんだ。彼女の音楽は、ローライダーでのクルージングにもマッチする。スムーズなんだけど、決してあざとくないんだ。ジェフは僕の耳元で 『彼女の歌詞は本当に面白いものが多いんだ』って囁いた。それでますます興味を持ったんだけど、彼の言うとおりだったよ」

ウェブスターはペダル・スティール・ギターにも夢中だ。今では彼女のトレードマークとなっているこの楽器の流体のようなトーンは、彼女の繊細でソフトなボーカルをしっかりと支えている。それを奏でているのは、彼女の長年のギタリストであるマット・"ピストル"・ストエッセルだ。彼女は2人の関係を「共生」という言葉で表現するが、電話でストエッセルと話してすぐ、彼がウェブスターの極めて冷静な音楽的パートナーであることがわかった。ストエッセルがグレイトフル・デッドの大ファンで、ジェリー・ガルシアを崇めていることは驚きではない。ウェブスターは歌よりもトラックを重視する傾向があり、バンドと一体化してグルーヴを生み出し、楽曲に数分間のジャムセッションを盛り込むことも少なくない。「即興ではないんだけど、ジャムバンドばりのクオリティだよ」とストエッセルは話す。『Underdressed at the Symphony』の冒頭を飾る「Thinking About You」はその好例だ。ウェブスターの心の中を覗き込むかのような、夢見心地なこの曲は実に7分近い(この曲の原題が「Wilco Type Beat」だという事実も頷ける)。


Photo by Kendrick Brinson
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テニスの後、ウェブスターと筆者はパサディナにある飲茶レストラン「Lunasia」で昼食をとった。彼女は私の向かいに座り、菊花茶を飲みながら携帯電話でメニューをチェックしている。パイナップルアレルギーがある彼女は、キュウリの炒め物やバーベキューチキンの餃子など、選んだ料理に問題がないかどうかを事前に確認していた。

ウェブスターの携帯電話から彼女について窺い知れることは多い。透明のケースの裏に挟まれているのは、ブレーブスのスター外野手であるロナルド・アクーニャJr.のベースボールカードだ(彼女は2021年の「A Dream With a Baseball Player」で彼への想いについて歌っている)。スクリーンの背景は、ファンタジー系ゲームのウォーハンマーに登場するスケルトンのセピア調のイラストだ。またその端末には、ピカチュウ、ディットー、ポリワグという3匹のクラシックポケモンのミニチュアがぶら下がっている(彼女は以前、ツアーの際の諸般のリクエストを列記したリストにポケモンカードを載せていたが、あまりに数が増え過ぎてしまったために、フォートナイトの通貨であるV-Bucksに変更した)

筆者のリクエストに応じて、ウェブスターはアプリを開き、彼女が実際にeBayで購入したものを見せてくれた。Nerdlucks(『スペース・ジャム』に登場するマイケル・ジョーダンの敵キャラ、通称モンスターズ)のヴィンテージフィギュア、『怪盗グルー』の巨大なミニオン、バーコードをスキャンできる珍妙な携帯機器Scannerzなど、それはまさに「混沌としたおもちゃのコレクション」だ。今時の20代の多くはソーシャルメディアに夢中だが、ウェブスターは子供の頃に憧れたカルチャーの遺産を競り落とす方が好きなようだ。突然、彼女はセール対象になっている商品を指差して、生まれたばかりの子犬を見せるかのようにメロメロでこう言った。「見て!『ウォレスとグルミット』のレターホルダーよ!」。

Translated by Masaaki Yoshida

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