性的指向をネタに炎上してきた登録者数500万人の米YouTuber、空っぽの半生

「ソーシャルメディアでも私は人気者になれなかった。仲間外れってわけでもない。文字通りただの人だと思う」

ペイタスは昔から名声に執着していた。イリノイ州で生まれ育った幼少時代は、『フルハウス』のオルセン姉妹のような子役スターになることを夢見ていた。10代になると、憧れの対象はプレイボーイのモデルへと移った。ミュージカルが大好きで、何度か高校の演劇部のオーディションを受けたが、歌や演技の才能はほぼゼロだった。「注目を浴びて、スターみたいな気分になるのが好きだった」と本人。「(だけど)いつもエキストラか端役だった」。それもあって、インフルエンサーになると手のこんだミュージックビデオをつくるようになったという。「つねに自分が主役でいたかったの」。

彼女は注目されるために、実は双子だとか、14歳で婚約したとか様々な嘘をついた。「何であんなことしたのか分からない。自分を面白い人間に見せたかったのか、自分のつまらない人生から現実逃避したかったのか」と本人は言う。「ただ私に興味を持ってほしかった。それがバカげた出来事という形で現れたのかもね」。

ペイタスはエンターテインメント業界の道に進むべく、2006年頃にカリフォルニアへ移った。金髪でふくよかな体つきだったため、ほとんどはおつむの軽い女という設定の端役だった。2011年には豊胸手術をしたパーティ客役で、ドラマ『モダン・ファミリー』に1度出演したが、セリフはなかった(皮肉にも、その翌年に彼女は初めて豊胸手術をしたそうだ)。2013年にはドラマ『ネイサン・フォー・ユー』で、巨乳フェチな警備員の憧れの女性役で1話だけ出演した。

当時ペイタスは、性対象にされることで自分が認められたと感じていた。「それまでずっと、『あと数キロ落とせば有名になれる」って自分に言い聞かせてた」と本人。「(ところが)『ワオ、セクシーになれと求められてるわ』ってなったわけ」。これまたペイタス伝説のひとつだが、ちょうどこのころ売春にも手を出し、本人の言葉を借りれば「1回5ドルでフェラチオをする、サンタモニカ大通りの売春婦」になった。その後はストリップクラブで踊ったり、エスコート嬢として週末デート1回で5000ドルを稼いだりした。ペイタスはこの時期のことを包み隠さず、頻繁に話題にした。恐ろしい経験もしたそうだが――「Podcastでは(客から)40回も誘拐されたって言ってたけど」と本人。「実は4回だった」――多少なりとも価値があったと本人は感じている。「男の人とセックスして――自己肯定感のためならタダでもしてただろうけど――5000ドルもらえるのよ? 『ワオ、私にも価値があるんだ』って思っちゃった」。

本人が言うところの「D級」セレブととっかえひっかえ交際したのもこの頃だ。本人の話では、トニー賞を受賞したロジャー・バートとも付き合っていたという。彼女にとっては初めて本気で好きになった相手だった。「もうメロメロだった」と本人。「このまま結婚して、子どもを作るんだろうなと思ってた」。しばらくして、自分がバートの「お飾り」でしかないことに気づいた(ローリングストーン誌はバートの代理人にコメントを求めたが、返答はなかった)。エスコート嬢の仕事で良かったところは、交際相手よりも客の方が敬意を払ってくれると感じられた点だ。

「男の人は『今度のプレミアに一緒においでよ』とか言うでしょ」と本人。だが「(いつも)口だけ。だから私も、お金を払って空約束をしない人をリスペクトしてた」。



2005年にYouTubeが誕生し、それから2年後にペイタスもYouTubeを始めた。YouTubeは様々な点で、彼女のような注目されたがりや、メインストリームのエンターテインメント業界で活躍するには世間一般でいう才能が足りない人には格好の場だった。彼女の初期のチャンネルは名声を追い求めるハリウッドの卵の典型で、手あたり次第にいろいろやっていた。ヴァニラ・アイスの「Ice Ice Baby」をラップする動画や、NBCのリアリティ番組『ラストコミックスタンディング』のつまらないネタをまねる動画もあった。「私はYouTubeやソーシャルメディアでも人気者になれなかった。仲間外れってわけでもない。文字通り、私はただの人だと思う」。

出始めのころはそうだったかもしれないが、2010年代初めごろから変化した。ちょうど元YouTuberのシェーン・ドーソンやドリュー・モンソンなど、社会にそぐわない動画ブロガー集団とコンテンツを作るようになった時期だ。結果的に閲覧件数は爆発的に増えた。「みんな子どもの頃にトラウマを抱えていて、自分の居場所がないと感じていた」とグレイシーは言う。「ところが、そういう連中が集まると面白くなる――“YouTubeのイケてる人”になったんだ」。

この頃すでに、ペイタスはオンラインで注目される秘策に狙いを定めていた。「人を怒らせて……本気でハワード・スターンみたいになろうとしてた。本気でアンディ・カウフマンになろうと思ったの」と本人は言う。「本当は攻撃するつもりじゃなかった時もあるし、ひたすら攻撃しようと思ったこともある。今ではちょっと後悔してるわ……どっちもね」。

女性はキッチンにこもってニンジンを洗っているべきだと言った時のように(カウフマンの独り語りから拝借した)、あるいは犬にも脳みそがあるのかと問いかけた時のように、当時ペイタスがカメラの前で放った発言のほとんどは意図的に怒りを煽るものだった。本人が言うには、無知なために背景を理解できなかったこともあったそうだ。たとえばトランスジェンダーだとカミングアウトした時も、自分をノンバイナリーだと表現する言葉を知らなかったという(彼女は一時期1人称にthey/themを使っていたが、現在はshe/herを好んで使っている)。解離性人格障害(DID)だと勝手に判断して、様々な「別人格」を紹介し、精神疾患関係者を怒らせたこともあった。「ネットでこれが悪いことだと言われるまで、悪いとは気づいていなかった」。

Akiko Kato

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