死亡説で注目を浴びた「最年少成金インフルエンサー」、その虚像と実像 米

Photograph by Jessica Lehrman for Rolling Stone

アメリカで悪態をつく9歳児として世に広まり、沈黙期間の後、死亡デマで再び脚光を浴びたリル・テイ。そんな彼女が今、シンガー兼ミュージシャンとして再出発した。しかし、彼女の人生は相変わらず謎に満ちている。

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迷路のように入り組んだ殺風景なロサンゼルスのオフィスビル。この中にあるバレエスタジオで筆者はリル・テイと向かい合い、死んだときの感想――というか、死んだと思われた時の感想を話していた。

事件が起きたのは2023年8月9日。人気インフルエンサーの彼女のInstagramのアカウントにTimes New Romanフォントの短い文章が投稿され、彼女と兄のジェイソンが「不慮の事故で亡くなった」という「痛ましいニュース」を500万人以上のフォロワーに伝えた。「押しつぶされそうな悲しみに暮れる私たちを、どうぞそっとしておいてください」。

人々はショックを受けたが、それも当然だった。2018年、まだ年端も行かないリル・テイは、デザイナーものの時計を見せびらかし、「貧乏なたかり女」を罵っては、自分はハーバードを中退した後アトランタで「レンガ運び」をして金持ちになったと大風呂敷を広げる動画で大きな話題を呼んでいた。だが話題になった途端にたちまち姿を消し、2018年春にはソーシャルメディアからほぼいなくなった。原因は母親のアンジェラ・ティアンと父親のクリストファー・ホープによる泥沼裁判だった。訃報が投稿される頃には、彼女はもう何年も音沙汰がない状態だった。

投稿からおよそ24時間、ソーシャルメディアはそこら中で大混乱だった。メディアは死亡記事を掲載し、2010年代のインフルエンサーたちは絵文字満載の追悼文を投稿した。最終的にはテイ本人がTMZに声明を出し、アカウントを乗っ取られた、自分は無事生きていると公表した。この事件は(少なくとも筆者には)、10代の若者が置かれる状況としてはかなりシュールだと思われた。だがリル・テイ本人に言わせると、偽の死亡記事は不都合なところが多分にあった。ダフトパンクのノリを思わせるボップ調のシングル「Sucker 4 Green」でカムバックする計画に、水を差されたからだ。

「いろいろ進めようと思ってたところだったの」。初期の動画の生意気な口調とは似ても似つかぬ穏やかな口調で、彼女はこう言った。「なのに、どこからともなくこんなのが出てきて、後始末をしなくちゃならなくなった」。そうした後始末の一環として、9月後半にはInstagramのLiveでデマについての質問や、両親の裁判沙汰で5年間ソーシャルメディアから姿を消していた経緯について答えた。合間にはピアノとエレキギターで並外れた音楽の才能も披露し、ギターをかき鳴らしてメタリカの「メタル・マスター」を演奏した。

風の強い10月の午後、バレエのレッスンとインタビュー取材を兼ねてダンススタジオで対面したリル・テイは、「Sucker 4 Green」について、あるいは死亡デマやその他諸々について、とくに何か話したがっているわけではなさそうだった。実際、彼女が話したがった話題は3つ。正しいターンの重要性と『ハリー・ポッター』シリーズ(ちなみに彼女はレイベンクロー)、人気TVドラマ『ユーフォリア』で若いドラッグディーラーのアシュトレイ役を演じる「出演契約」を結んだこと。契約に関してはインタビュー中に2度も話題に上った(のちに彼女のPR担当者は、役の読み合わせに打診されただけで、係争中の裁判により契約には至らなかったと訂正した)。

2人のPR担当者が目を光らせる中、テイはスタジオの床で筆者と向かい合わせに座っていた。花柄のレオタードに、母親からおさがりでもらったJuicy Coutureのパーカー、クリスチャン・ディオールの厚底サンダルといういで立ちだ。5年ぶりの密着インタビューに興奮している、と彼女は言った。「あなたの質問にお答えするわ」と言い、「みんなが疑問に思っていることについても説明したい」。

だがすぐに分かったことだが、テイは質問に無関心か、答えられないかのどちらかだった。年齢についても答えをはぐらかした。裁判記録で16歳だと確認が取れているにもかかわらず、筆者が質問してもただ一言、「私は時間を超えた存在なの」(後日母親にも同じ質問をしたが、一字一句違わず同じフレーズが返ってきた)。好きな映画やTV番組、好きな音楽やミュージシャンについて尋ねれば、「どんな音楽も全部好き」、普段誰と遊んでいるかという質問にも「それって私が社交的かどうかっていう質問?」という具合だ。

テイが無作法だとか礼儀知らずというわけではない。むしろその逆だ。インタビューに先だって彼女の周辺を出入りしていた複数の人々に話を聞いたところ、物静かで優しい子で、生意気で口汚いイメージとは全然違うという話だった。実際それは当たっている。「彼女はとても従順で、物事をきっちりやりたがっているような印象でした。とても行儀のいい子です」とは、インタビュー前に話を聞いたバレエ教師の言葉だ。「100ドル札の束を抱え、真っ赤なフェラーリに乗った不良娘という感じじゃありませんでしたよ」。

バレエのレッスンで筆者に手ほどきするテイは、忍耐強く協力的な教師だった。筆者のフォームを優しく修正する一方、(ありもしない)柔軟性をほめそやした。バレエに求められる規則性や、あらゆる動きを正確になぞって完璧にきっちりこなす必要性を重んじているらしく、彼女の動きも驚くほどしなやかで正確だった。「とにかく、ものすごく力が要るの」と彼女は言った。「ステージ上のバレエダンサーを見てると、いとも簡単に見えるでしょ。そこに至るまでの努力は見えないのよ」。

様々な意味で自分の性格もそうだと彼女は言った――自分の演じる荒っぽいストリート気取りのタフな「キャラクター」がまさにそうだと本人が気づくまでに約3秒かかった。「状況によりけりだけど」と本人。「目の前でくだらないことを言われたら、私もくだらないことを即言い返す。音楽についての質問とかね。意味もなく貧乏なたかり女呼ばわりするつもりはないわ……今のところはね」(ちなみに筆者が彼女にそう呼ばれても、あながち間違いではない)。

リル・テイの年頃にはありがちな、ぶっきらぼうな態度も顔をのぞかせた。例えば、ハーバード中退というバカげた説について尋ねると、彼女は冷ややかににらみつけた。同じように、Nワードを連発していた過去について質問した時も素っ気ない返事だった。「あの時は意味を知らなかったのよ。友達だと思ってた人たちから、動画でこう言えって圧をかけられたの。この件については、もうケリをつけてある」と言った。2018年のリアリティ番組『Life With Lil Tay』で、蔑称を使ったことを謝罪した件を指していると思われる。筆者が弁解しようとすると、「だから、ケリをつけたって言ってるでしょ」と無愛想な言葉が返ってきた。

Akiko Kato

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