死亡説で注目を浴びた「最年少成金インフルエンサー」、その虚像と実像 米

実際テイが唯一乗り気だったのは、広報チームが前日にメールで送ってきたペラいちの紙に書かれた質問事項だけだった。後に分かったことだが、これらの質問も細かい点で怪しかった。5年近く沈黙を強いられた末、カナダの裁判所は彼女に優位な裁定を下して母親を唯一の保護者と認め、「自分の好きなように生きて、今まで謳歌していた夢をとことん突き詰める」ことができるようになった。

「やっと自由を取り戻せた」と、スタジオの彼女はまっすぐな姿勢で、茶色の瞳を瞬きもせず見開いて答えた。「これからはやりたいことを追求するわ」。

具体的にリル・テイは何をやりたいのかと問い詰めると、彼女は一瞬口をつぐんだ。

ようやく口を開くと、「私が今やってること全部」と本人。「私がこれからやること全部よ」。


JESSICA LEHRMAN FOR ROLLING STONE

いつの時代も、エンターテインメント業界には幼いうちにスポットライトに引きずり出される子どもがいる。時には本人の心身の健康が犠牲になることも多い。シャーリー・テンプルは自叙伝の中で3歳当時を振り返り、TVドラマ『Baby Burlesks』の撮影中に行儀が悪いと、チャールズ・ラモント監督から黒塗りの箱に閉じ込められたと書いている。飛行機でリル・テイとの取材に向かう数日前には、ブリトニー・スピアーズが回顧録を出版し、ティーンアイドルとして何年も利用され、そのせいで精神が崩壊した経緯を振り返った(一応言っておくと、テイはハロウィーンの際、ブリトニー・スピアーズが2001年のMTVビデオミュージックアウォードで「I’m a Slave 4 U」をパフォーマンスした時と同じ格好の写真を投稿した)。ちびっ子インフルエンサー経済の誕生は、規制の欠如や本人の同意といったやっかいな倫理的問題が絡む分、余計に危険をはらんでいる。

だがソーシャルメディアで活躍する子どもの話題の中でも、リル・テイは突出している。ひとつには、彼女のアカウントが数百万人のフォロワーを集める一方、反感も買っている点だ。ソーシャルメディアでのイメージ作りの黒幕が彼女を利用し、黒人カルチャーを盗用しているという批判も多い。父親のホープから身体的・精神的虐待を受けたとか(父親は否定している)、兄と母親がテイを裏で操っているとか(やはり本人たちは否定している)、テイの半生には深刻な疑惑が後を絶たない。

だがテイ本人いわく、ポップスターになることはずっと計画の一部だったそうだ――幼いころから本人もそれを口にしていたという。復旦大学数学部を卒業後、上海からバンクーバーに移住した母親のティアンは、とくに音楽の才能があるわけではない。だが前のパートナーとの間にもうけた息子のジェイソンはピアノが弾けた。それでテイも4歳からレッスンに通い始めた。6歳か7歳の頃、テイはLAに引っ越してシンガーになりたいと思うようになり、iPadの背景をロデオドライブの画像に変えた。「有名になる自分の姿をいつも想像してた。それが自分のやりたいことだった」と本人。「それが現実になるように、いつも口にしてたわ」。

2018年初期、テイはInstagramで爆発的人気を博した。投稿された写真や動画には、彼女が高級車の運転席に座って札束を数え、自分は叩き上げの大富豪で「あんたのママは遊び人だからカマしてやった」とうそぶく姿が映っていた。噂によると、当時不動産仲介業者していたティアンは、テイのコンテンツのために雇い主の車や物件を借用し、最終的にクビになったらしい。だが母親の弁によれば、娘のキャリアをマネージメントするために辞職したという。「テイの輝かしい未来が見えたので、娘を応援したかったんです」。

それからほどなく、世間はテイのキャラクターの黒幕が誰なのか疑問を抱き始めた。テイと仕事をしたことのある情報筋によれば、首謀者はティアンと思われる。「あれこれ押し付け、付き人ママのような感じでした。おそらくテイも、必ずしも同意していたわけじゃないと思います」。ティアンはこれを否定している。「彼女がマルチな才能の持ち主なのは誰もが知っていました」とティアンは言う。「(自分で選んだ)本人の希望です」 テイも同調し、「私が大きな夢を抱いていることは、母も知ってた。音楽に関わりたいという希望を口にしていたから、小さいころからレッスンに通わせたりして、サポートしてくれた」。

だが複数の情報筋から聞いた話では、6歳年上の腹違いの兄ジェイソンがテイのイメージを作り上げ、妹のキャリアを裏で操っていたようだ。2018年後半にテイの代理人を務めていたというハリー・ツァンの言葉を借りれば、「最終的な決定権はジェイソンでした」。

2018年の動画もこれを裏付けているようだ。カメラフレームの外にいる妹に、ジェイソンが演技指導をしていると思われる映像だ。「後ろに下がって、『貧乏なたかり女ね、場違いなケツでまだ居座る気なの』って言うんだ」とジェイソンの声が聞こえる中、テイは携帯電話をスクロールしながら兄の指示を飲み込んでいた。見たところ、苛立ちや不満は感じられない。バレエに対する姿勢について教師が言っていたように、きっちりやることに全神経を傾けているかのようだ。

情報筋によれば、ジェイソンは傭兵のような手法を取ることで有名で、文字通りあらゆる手を尽くして妹が世間の目に触れるようにしているという。情報筋の大半が、報復を恐れて匿名を希望した。

「『ブルーノ』(サシャ・バロン・コーエン主演の2009年の映画)を覚えてます? 主人公がハリウッド子役の親にインタビューして、子どもが十字架に磔にされても平気か(と尋ねると)、両親が『もちろん』と答えるシーンがあったでしょう?」と、テイの仕事関係者だった情報筋の1人が尋ねた。「ハリウッドには、子どものキャリアのためには何でも喜んでする人間がいるんです。ショックかもしれませんが、珍しいことじゃない」。ジェイソンとの取材申請はテイ側に断られたが、2018年当時、ジェイソンはジ・アトランティック紙の取材で自分が妹のマネージャーだと認め、リル・テイのキャリアに関しては自分だけが決定権を持っていると発言している。

テイもティアンも、兄からの演技指導や搾取を強く否定している。テイ本人は兄妹の関係について、催眠術師スバンガーリのような主従関係ではなく、むしろ「コラボレーション」だと表現している。「昔から有名になりテイと思っていたのは私。アーティストになる自分の姿を思い描き、それを形にしたのは私よ」とテイは言う。「もちろん兄も手を貸してくれたけど」。兄妹と仕事で関わった情報筋も、テイがソーシャルメディア上のイメージ作りに関わっていたことを認めた。「2人で一緒にキャラクターを作り上げていた感じでした。チームとしてあのキャラを押し出していましたよ」「かなり息が合っていました」。

Akiko Kato

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