死亡説で注目を浴びた「最年少成金インフルエンサー」、その虚像と実像 米

テイによれば、彼女のキャリアがしかるべき場所に収まったのは2018年春。母親に連れられて兄と一緒にロサンゼルスに向かった後、マリブにあるリック・ルービン氏のスタジオに招かれ、一緒に仕事をしたいとオファーされた時だった。それからエミネムの楽曲「Kill Shot」で彼女の名前が登場し、ツアー同行のオファーをもらった(PR担当者はメールの招待状と思しき文面のスクリーンショットを提供したが、エミネムの広報担当者によればツアーに誘ったことは「一度もなく」、メールも「いかさま」だという。ルービン氏にもコメント取材を申請したが、返答は得られなかった)。「私の姿、私の芸術性が世間の目に触れ始めていた」とテイは言う。「そんな時に、なんか知らないけど、クズ男が出てきたの」。


リック・ルービン氏とリル・テイ(COURTESY OF THE TIAN FAMILY)

テイが言う「クズ男」とは、別居中の父親クリストファー・ホープのことだ。2018年5月、父親は学校の欠席が続いていた娘をロサンゼルスからバンクーバーへ呼び戻す裁判所命令を獲得した。これを境に、テイは世間からほぼ完全に姿を消した。

父親の話と裁判記録によれば、ホープは教師との面談で、娘のインターネットのコンテンツが気がかりだと言われたために裁判所命令を請求した。「娘は若干11歳で、大人の世界で大勢の大人に囲まれながら表舞台に立ち、戦っていました」と父親は言う。「私が望んでいたこととはまるで正反対でした。演技や歌の道に進むアドバイスをしてくれるような、マネージャーのような人間を見つけてくれると思っていたのに」。

テイがまだ2歳のころ、ホープは娘の最終決定権を認められた。裁判資料によると、ホープをテイに近づかせまいとしたティアンは、ホープだけでなく勤め先にも「卑猥なメールや携帯メッセージや留守番電話」を大量に送り付け、「虚偽の非難」をでっちあげたこともあり、こうした裁定が下されたようだ。最終的に裁判所はティアンに接近禁止命令を出し、ホープとの接触を禁じた(ティアンは裁判に関する質問には回答を拒否し、代わりに弁護士を照会したが、コメント取材の申請に対して弁護士から返答はなかった)。

ティアンの主張によると、最終決定権を握っていたホープは娘のキャリアに関係する契約書に一切署名しなかったという。「ものすごいオファーをいただいても、契約書への署名が必要だったので、世に披露することができませんでした」とティアン。「遠く離れた父親が(首を)突っ込んできたのも、それが理由です」(ホープはこれを否定し、「私は娘の貴重なチャンスを無駄になどしていません。ただ、人生を棒に振ることは避けたいと思っただけです」と述べた)。テイがソーシャルメディアに投稿することを禁じる裁判所命令もあったとティアンは言うが、裏付書類を見つけることはできなかった。これについてはホープ本人も反論している。

ちょうど同じころ、テイのInstagramのアカウントに気がかりな投稿が出始めた。2018年7月、「help me」とだけ書かれたメッセージがInstagramのストーリーに投稿された。同じ年の9月には、どうやらアカウントがハッキングしたらしく、黒人男性の生々しい遺体の写真や首つり縄の画像といった人種差別的なおぞましい画像があふれ返った。こうした投稿はすぐに削除されたものの、翌月には再びテイのアカウントで奇妙な動きが見られた。今度は匿名ユーザーにより、ホープが妻と共謀してテイをクローゼットに閉じ込め、娘の前で性的不適切行為を行ったとの疑惑が広まった。2021年、疑惑を真に受けたGoFundMeの署名活動には、幼いころのテイが顔や腕に赤いあざをつけた写真が掲載されていた。


COURTESY OF THE TIAN FAMILY

テイ本人も9月30日付のInstagram Liveでこうした主張を繰り返し、子どものころに父親から身体的・精神的虐待を受け、その被害は母親にも及んでいたと発言した。ティアンも同様の主張をしているが、詳しくは語らなかった。「とても陰欝な時期でした」と本人。「過去のことを話すのはやめましょう」。

ホープはこれを強く否定した。テイにもティアンにも精神的・身体的虐待をしたことはなく、娘の前で性的不適切行為に及んだこともないとし、こうした疑惑は「明らかに真っ赤な嘘です」と述べた。「一度たりとて(テイに)手を挙げたことはありませんし、娘を傷つけるようなことは一切していません」と言い、疑惑は「完全なでっちあげ」だと付け加えた。

テイやティアンの話によれば、有名になり過ぎたため学校に行けず、バンクーバーで5年間自宅学習をしていたそうだ。テイはバレエスタジオでの取材でも、父親がキャリアをコントロールしたために「まったくやる気が起きず、鬱状態」で、何度も同じ夢を繰り返しみていたと語った。「何か危険なものから逃げる夢で、いろんなパターンがあるんだけど、必ず何かに追いかけられているの。ほら、夢の中だとまともに走れなくて、足が重くなったりするじゃない? そういう夢をたくさん見たわ」。追いかけられていたものの正体は毎回違っていたそうだ。「とにかく、逃げなきゃいけないものだってことだけは分かってた」。

その頃から曲作りに没頭し、「現実逃避」していたと本人は言う。もうひとつの気晴らしはファンタジー小説を読むこと。とくに『ハリー・ポッター』シリーズがお気に入りで、4回も再読したそうだ。彼女の顔が活き活きしたのも『ハリー・ポッター』の話になった時だ。彼女にとっての心の安らぎはハリーで、ハリーの物語は恐ろしいほど自分と瓜ふたつに思えた。「ハリーも問題の多い幼少時代や家庭生活を送り、虐待的な伯父と叔母の家に住んでたでしょう」と本人。「1人立ちしたら有名になったけど、11歳になるまではそんな経験はまったくなかった」。

『ハリー・ポッター』シリーズで彼女がとくに忌み嫌っているのが、ハリーや友人をタブロイド紙で酷評した無節操な記者リタ・スキーターだ。「魔法界が束になってハリーを中傷してた」と本人。「やだ、すごく思い当たるんだけど、って感じだった。私も同じ目に遭ったから」。

人生のこの時期についての話題になると、テイの目に涙が浮かんだ。ティッシュを掴み、目頭を押さえる。「こんなことが私の身にいっぺんに起きた。夢が間近に迫ってきたみたいだった」と本人。「とうの昔に逃げたと思っていたのに、またどこからともなく現れて、全部奪っていったの」。

2020年、判事はティアンの移住申請と扶養申請を認め、テイはめでたく母親とともにLAに引っ越した。今年Instagramに死亡デマが投稿されると、そこから1週間も経たないうちに、ティアンの代理人を務めるマクリーン・ロー法律事務所の投稿がテイのアカウントに掲載された。そこにはティアンにテイの完全養育権を与え、ホープには過去の養育費分として約27万5000ドルの支払いを命じる旨が記載されていた(ホープ本人は2010年以来ずっと継続して養育費を払い続けていると言っている。「裁判所から払えと言われた過去の養育費は全て支払い済みです。今後も裁判所の命令通り、毎月払い続けます」)。それから約1カ月後、テイの新曲「Sucker 4 Green」がリリースされた。

テイは正式に完全復帰を果たした。

Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE