死亡説で注目を浴びた「最年少成金インフルエンサー」、その虚像と実像 米

タイミングに関しては怪しいどころの話ではない。だがテイの人生の大半がそうだったように、この件でも相反する説が複数存在する。

テイによれば、表舞台への復帰は数か月前から計画していたという。「自由を獲得したらリリースしたいと思ってた曲がいくつかあった。幸いそれが叶ったので、一刻も早く軌道に乗せようと思ってたの。そしたら死亡デマ騒ぎが起きたってわけ」。

彼女はデマの諜報人がホープと考え、「私を妨害する最後の手段として」仕組んだのだと主張する。メディアではテイの元マネージャーと称されるインフルエンサー、ハリー・ツァンにも非難の矛先が向けられている。テイと母親は、ツァンがホープとグルになってデマを流し、「(私の)名前を使った」仮想通貨の宣伝材料にしたのだと非難している。ツァンに限らず、これまで誰かが正式なマネージャーを務めたことはないとも主張している。

事件とは無関係だというのがホープの主張だ。「私を非難すればいい宣伝材料になると戦略を立てた人間がいるのでしょう。すべて嘘です」。

ツァンに話を聞いてみると、確かに表舞台に「(テイを)復帰する計画の一環として」仮想通貨を発行する計画を立て、テイの関係者にも相談していたそうだ。だが死亡デマについてはツァンも関与を強く否認し、ジェイソンの仕業じゃないかと述べた。「彼はクレイジーなことをすることで有名です」とツァンは言う。「ソーシャルメディア関係者に聞いてみればわかりますよ」。

ジェイソンはテイのPR担当者を通じて声明を発表し、死亡デマの責任をツァンになすり付けた。「彼はあらゆる出版社に接触し、僕がテイのページをハッキングして死亡記事をでっち上げたと吹聴しつつ、裏ではリル・テイ名義の仮装通貨サギを働いていました」。ジェイソンもまた、テイの元マネージャーだと名乗る人物はみな「別居中の父親」とグルだという主張を繰り返した(2018年の短期間、ツァンが非公式ながらも一家と仕事をしていたことは本人もホープも認めている。ただし現在は無関係だそうだ)。

テイが取材中に兄のことを語るのはまれで、話の流れが兄のほうに向かうと話題を変えた。だがジェイソンは「Sucker 4 Green」のプロデューサーとしてクレジットされており、ミュージックビデオには母親のティアンとともに姿を見せている。死亡デマにジェイソンが関与している、あるいは死亡デマが曲のプロモーション目的だったという説について尋ねると、テイはぶっきらぼうに答えた。「いつだって陰謀論は出てくるものよ」と本人。「陰謀論をぶちかましたいなら、どうぞご自由に」。


「Sucker 4 Green」より抜粋、ジェイソン、リル、アンジェラ・ティアン

9月に「Sucker 4 Green」が公開されると、世間は5年ぶりにリル・テイの姿を目にした。シングルはアップビートな短いポップソングで、テイは「バーキンのバッグと巨大ダイヤモンド」や「金、金、金」への熱い思いを甘い声で歌う。YouTubeではすでに約670万回閲覧されている。「世紀の成金女子」と呼ばれた過去のイメージを皮肉った歌詞だと筆者は解釈したが、本人いわくそうではないらしい。「私はお金が大好きなの。いつも女友達に見せびらかしてるわ。お金の曲だけど、よく聞いてもらえばわかるように、基本的にはラブソングでもあるの」と本人は言う。「そういう目で私を見てたでしょ/なんてことをしてくれたの、私は緑色[訳注:俗語でドル札のこと]に弱いのよ」という歌詞に関しては、曲中の人物が「嫉妬で狂いそう[訳注:英語ではgreen eye]」という意味だそうだ(返答に困った筆者は、「なるほど、そうくるとは思いませんでした」としか言えなかった)。

パステルカラーのツーピースを着たテイがマリブの豪邸を彷徨するミュージックビデオは、さらに波紋を呼んだ。大勢のファンがテイのダンスや服装を挑発的だと感じ、コメントが殺到した。これを受けて本人はInstagramのLiveで、コメント欄の「小児性愛者」を激しく批判した。「ネットにはいつもおかしな人がいるのよ」と本人。「でも、あそこまでいくとショックだった」。ミュージックビデオでテイが過剰に性対象化されているという批判を、ティアンは一蹴した。「彼女はありのままの自分を表現したいだけ。自分の美しさを見せたいだけです」と母親は言う。「まさに健康美だと思いますよ」。

現在、テイはチームと一緒に失われた時間を埋め合わせ、今世紀始まって以来の最年少成金女子だけではないことを世間に証明しようとしている。10月にはInstagramのLiveでラナ・デル・レイの「Florida Kilos」のイントロを演奏し、熱狂的ファンの間で一瞬話題になった。また別のLiveではショパンの「幻想即興曲」をピアノで完璧に演奏した。取材中もアコースティックギターで「天国の階段」のイントロを、スタジオにあったピアノで哀愁漂うショパンの「ノクターン第2番」を披露してくれた。『メリー・ポピンズ』に出てきたディック・ヴァン・ダイクのワンマンバンドよろしく、アコーディオンとキックドラムをかき鳴らすのではないかと半分期待するほどだった。

「Sucker 4 Green」のミュージックビデオやテイのパフォーマンス動画を見たホープは、娘が最近方向転換したことについて、「2018年当時にこういうことをやっていたら、娘の教育を考慮した上で、私も応援していたのに。ですが、当時それは叶いませんでした」。テイの才能が世に知られるまで、これほど長い時間を要したのは「残念だ」と言い、おそらくテイも同じ意見だろうと述べた。この5年間で一番頭に来たことは何かとテイに尋ねると、「無能」だと思われることだと答えた。

一応言っておくと、これは真実からかけ離れている。テイは優秀なピアニストで、ギターの技術にも長け、シンガーとしても素晴らしい。蜜のように甘美なアルトボイスは、ASMR色の薄いビリー・アイリッシュといったところだ。母親の話では、テイは12歳か13歳の頃、カナダ王立音楽院(カナダを始め、世界各地で音楽技能試験を実施している音楽学校)の音楽認定プログラムで10点満点をもらったという(音楽院いわく、テイの本名や現在の名前で検索しても、そうした記録は残っていなかったそうだ)。

ポップのスターダムは束の間で、選り好みも激しいため、彼女の成功を妨げる要因を上げることは難しい。しいて言えば2つある。彼女の周りには騒動がたくさんあること。そして彼女がさほど楽しんでいるように見えないことだ。こうした印象を受けるのは私だけではない。

「一言でいうなら、なんとなく無感覚な雰囲気でした」と、取材したテイの元仕事関係者はこう語った(ティアン一家からの報復や反撃を恐れ、匿名を希望)。「心ここにあらずといった感じです」。

Akiko Kato

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