死亡説で注目を浴びた「最年少成金インフルエンサー」、その虚像と実像 米

実際に筆者も取材中、リル・テイの素顔という記事を書いても目の前の10代の若者とそぐわないし、本人も望んでいないことに気が付いた――彼女と過ごした時間は楽しいかったものの、そうした記事を書くことはほぼ不可能だと思い知らされた。家族、アドバイザー、自称マネージャーを名乗る人々。周りにたかる大人どもは、3歳のシャーリー・テンプルにチャールズ・ラモントが見たのと同じ資質をテイの中に見出し、テイをそれぞれの黒い箱に閉じ込めた。方向性こそ違っていたものの、取材した両親は2人とも娘をこうした状況から守ろうとしていた。

「私が何よりも大事にしているのは、娘の身の安全です」とティアン。「絶対に娘の安全を確保する。それが私の望みです。娘を守るため、身体的にも精神的にも娘の安全を確保するためなら、できることは何でもします。それが私の最優先です。母親ですから。それが私の仕事です」。

ホープも同じようなことを語った。「娘は聡明で、クリエイティブで、才能に溢れています。本人が望むことなら、私も応援します」と父親は言う。「娘に毎日会いたい。でもそれは叶わないでしょう。娘はずっと人生で一番大切な人間です。私も娘も親子関係を奪われてしまったようです。いつか再会できればと思っていますが、望みは薄いでしょうね」。


JESSICA LEHRMAN FOR ROLLING STONE

『ハリー・ポッター』への思いを語った時以外に、特別な人間だけが目にできるリル・テイの側面を見たと感じた瞬間が1度だけあった。それは13歳の時に最初に作った曲が話題に上った時だ。金銀財宝を求める海賊が、波立つ海岸から航海に出るという曲だ。本人は「海で途方に暮れる」曲と呼んだ。

取材も終盤に差しかかり、テイはギターを手に抱え、足を組んで床に座った。すこしは歌詞を覚えているかも、と言って演奏を始めた。物悲しくも美しく、まさに孤独な13歳がベッドルームで、胸の奥に眠る気持ちを言い表す言葉を模索しながら書きそうなメロディだった。コーラス部分で彼女は自信たっぷりにこう歌い上げる。「さあコンパスを持って、地図は要らない/心の声に従うの、船長はあなた」。見知らぬ土地で見知らぬ人々と出会い、土地勘もわからず戸惑いながらも、大人が抱くようなつまらぬ心配などみじんも感じることなく、ついに独り立ちした興奮を歌い上げる。「どこにいっても見知らぬ海岸/でも私は永遠にこうしていたい」。

やがてボーカルは哀愁に満ちたファルセットへ移る。全部は聴き取れなかったが、最後のフレーズだけははっきり聴き取れた。「気づけば一番必要なものがすべて、何もかもすべて、消えてなくなってしまった」。彼女が顔を上げる。「ちょっと歌詞を忘れちゃったみたい」。

曲のテーマについて尋ねると、彼女は一瞬口をつぐんだ。「道に迷って、何かを求めているんだけど、手に入れられないっていう曲」と本人。おそらく脚光を浴びるチャンスを逃した時期のこと、両親の裁判沙汰でアーティストとしての成功にブレーキがかかったことを匂わせているのかもしれない、と思った。その通りかもしれない。単に曲のテーマに過ぎないのかもしれない。本当のところは分からない。

ただひとつ、彼女の歌を聞いた時に私の頭に浮かんだことだけははっきりしている。取材を後にしてから、何度も何度も録音テープを再生したのでよくわかる。この先どうなるのか、具体的に自分が何をしたいのかわからぬまま、翻弄される16歳。自分の舵取りは自分で取らなくてはならないという事実。いつかリル・テイにもそんな日が訪れてほしいと願うばかりだ。すべて、何もかもすべて、消えてなくなる前に。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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