性的指向をネタに炎上してきた登録者数500万人の米YouTuber、空っぽの半生

「アナ・ニコル・スミスみたいに、若くして死ぬんだろうなとずっと思ってた。ありがたいことに、ろくでなしから改心するまでの道のりを示すことができた」

グレイシーが言うには、当時のペイタスは自分が解離性同一性障害だと本気で信じていたそうだ。その結果、反発を受けて防衛本能からネット荒らしに走ってしまった。「彼女は『誰も自分を本気にしてくれない、誰も信じてくれない』という感じだった」とグレイシーは言う。「自暴自棄になったんだと思う」。

ペイタスのキャリアではお決まりのパターンで、カサンドラ症候群のような影響をもたらした。好んでネット荒らしをしてきたせいで、たとえ本音を語っていても、裏の意図があるのではと疑われてしまうのだ。「どれが本当のトリシャで、どれが誇張したトリシャなのか、見分けるのが難しい」とグレイシーも言う。

Vlogスクワッドと呼ばれていたYouTuber集団のメンバー、ジェイソン・ナッシュと交際した後、リーダーのデヴィッド・ドブリックと対立した時に、まさにこうした事態が起きた。交際そのものは波乱万丈で、グループから絶えずネタとしていじられたことが拍車をかけた。「今までガールフレンドと呼ばれたことは一度もなかったんじゃないかな」と本人。「今になって思えば、その人は私のことを全然好きじゃなかったのよ」。ナッシュはカメラの前で他の女性と浮気したことを面白おかしく語り、ペイタスの食習慣を批判した。それが彼女の抱いていたボディイメージを悪化させ、グレイシーの言葉を借りれば「自分の価値に疑問を抱かせた」という(ナッシュとドブリックにもコメントを求めたが、返答はなかった)。

交際に終止符が打たれると――ペイタスとドブリックが険悪になり、ドブリックはナッシュに彼女と別れるよう命じたそうだ――ペイタスは本当に精神の危機を迎えた。2019年には3回入院し、痛み止めの薬に依存するようになった。またアーロン・カーターとつるんで、入退院の合間に一緒に麻薬をやっていたそうだ。「彼は本当にいい人だった」と彼女は言う。「(依存症の人といるのは)ものすごい苦しみと痛みが伴う。でもみんな本当はいい人で、誰も傷つけたくないの」。カーターが2023年にこの世を去る直前まで連絡を取り合っていたという。カーターは吸引薬とジェネリック薬のザナックスを服用し、ハイ状態で溺死した。

このころのペイタスの気まぐれな言動は、2019年にドブリックとVlogを搾取的行為で非難した際、ファンから攻撃材料として利用された。ドブリックは2021年、危険な労働環境を助長したとして起訴されたが、ペイタスの気分は少しも晴れなかった。「他の人たちが声を上げる前からずっと、私はデヴィッドについて話していたのに」と本人は言う。「信用性を失って、私が何を言っても耳を貸してもらえなかった。もしくは、『またトリシャが嘘を言っている』と思われたのね」(その後ドブリックは謝罪し、2021年のローリングストーン誌とのインタビューでは動画で人を傷つけた件について、「十分回避できたはずだった」と語った)。




同年ペイタスはキャリアの転換期を迎えた。伝説のYouTuber、イーサン・クラインと共同でPodcast『Frenemies』をスタートしたのだ。ペイタスとクラインは過去にひと悶着あったが、『Frenemies』では和解したように見えた。数百万人の購読者を集めたが、2021年に突然、謎めいた形で終了した。今回の3時間半ほどのインタビューで、『Frenemies』は彼女が触れようとしなかった話題のひとつだったが、その時の遺症が深い傷を残しているのは明白だ。「モーゼスがいなかったら(何をしていたか分からなかった)」と彼女は言う。

これこそまさに、『Frenemies』から生まれた朗報だ。ペイタスと夫モーゼス・ハクモンを引き合わせたきっかけは、クラインの妻でモーゼスの妹ヒラだった。ハクモンは趣向を凝らしたコスプレや、ペイタスの十八番である大食いチャレンジなど、彼女のPodcastや動画に頻繁に出演しているが、インタビュー中にもちょくちょく存在をアピールした。終始隣接する台所に腰掛け、我慢強くマリブちゃんにごはんを食べさせていた。

ハクモンがペイタスにとても過保護だという印象を受けたが、その点はグレイシーも同感だ。「彼女はいつも振り子のように、恐怖におびえながら生活している。『どうしよう、課金を止められちゃったら? ブラックリストに乗っちゃうかも?』という具合に、いつも何かに怯えている。すべて崩れ落ちることを一番恐れている」とグレイシーは言う。「でもハクモンがなだめて、安心させるんだ」。ペイタスからハクモンと出会った頃の人生について話を聞くと、そうした関係性も納得できた。「私はものすごく喧嘩腰だった。がちがちに守りを固めていた。とにかくタガが外れてた」と本人は言う。ハクモンに恥をかかせるのではないか、妊娠してからは娘に恥をかかせるのではないかというという恐怖に取りつかれた。「自分をコントロールできるようにならなくちゃと思ったの。今まで一度もコントロールできてなかったから」。

ハクモンと出会って間もない2021年、彼女は薬を断ち、弁証法行動治療(DBT)を始めた。BPDに伴う気分のむらや、芝居がかった言動に悩む人々を対象にした治療だ。「私がトラブルに巻き込まれた原因はどれも、私の口の悪さが原因だった」と本人は言う。「ネット上でヒステリックにわめきちらし、誰からも本気にされなかった」。DBTを受けたことで、「落ち着いた人間になることを学んだわ。前よりも少し耳を傾けてもらえるようになった」。

賢い大人になったペイタスの姿を世間が最初に目にしたのは、マリブちゃんを妊娠していた2022年後半だった。エリザベス2世が崩御した後、生まれてくるペイタスの赤ちゃんが女王の魂の生まれ変わりだというミームが拡散された。ペイタスは王室一族のコスプレ姿でそれに乗っかることはせず、TikTokでうせろと言い放った。

「ネット荒らしの時代からきれいに足を洗って、精神的にもすごくいい状態だったのに」と本人。「私の妊娠がネット荒らしで傷つけられるなんてね――ある意味おかしいわよね、因果応報と言えるかも。でもすごく頭にきたの」(だがペイタスも第1子の誕生を完全にネタにしなかったわけではない。マリブちゃんが生まれて間もなく、娘と映ったTikTokを投稿した。タイトルは「病院で生まれたばかりの赤ちゃんにASMRの子守歌を歌う私」)。

2023年半ばにも昔のペイトンに逆戻りしそうなタイミングがあった。ミランダ・シングスという名で知られるYouTuber仲間のコリーン・ベイリンジャーが、ペイトンのヌード画像をグループメールに投稿してバカにしたと非難された。この時もペイタスは「確執」について一連の動画を投稿して乗っかるのではなく、問題のメールについて手短に触れた動画を1本投稿し、ベイリンジャーと絶交しただけで終わった。本人いわく、「私の平和と幸せを守ることだけで頭がいっぱいなの」(ベイリンジャーにコメントを求めたが、返答はなかった)。

自分は他の人よりも、「別の批判基準に縛り付けられている」とペイタスは主張するが、キャリアが「良好な状態」に落ちついたのは運が良かったからだと本人も自覚している。「ありのままの私を好きになってもらえている」と本人。「世間をあっと言わせなくても、ありのままの自分でお金を稼ぐことができる」。自分自身については、注目されたくてネットを荒らしては赦しを請うという、終わりのないスパイラルから抜け出せないクリエイターの反面教師だと考えている。

「アナ・ニコル・スミスみたいに、若くして死ぬんだろうなとずっと思ってた」と彼女は言う。「ありがたいことに、ろくでなしが改心するまでの道のりを示すことができた。だって人は変れると思うもの。自分がその広告塔になれたのが嬉しい」。本当に成長したと感じるか尋ねてみると、「気分的には、いつも10代で母親になった女の子みたいな感じね」と答えた。「でも成長という意味で言うと、家族を大事にする上ではささいなことなんてどうでもよくない? だからそうね、成長したわ」。

数週間後、ペイタスのXアカウントに偶然出くわした。そこにはチキンナゲットに変身する女の子が主人公の韓国ドラマが、Netflixで近日公開するというツイートが引用されていた。「印税の小切手は届いてませんけど?」と彼女はツイートし、チキンナゲットを自称した悪名高き動画のスクリーンショットを添えていた。

ネット荒らしの衝動は完全になりを潜めたわけではなさそうだ――しいて言うなら、結婚や出産といった日常的なことでは消せないのかもしれない。だがひとつだけ確かなことがある。仮にLAで核戦争が起きても、インターネットにつながらなくなる前に、きっとトリシャ・ペイタスが何かしら投稿するだろう。投稿の内容は誰かを傷つけるかも。だが後からいつでも削除は可能だ。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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