ビートルズの薬物事情:LSDが作ったアルバム『リボルバー』

(Photo by Mark and Colleen Hayward/Redferns)


マッカートニーは当時、競争が激しくなってきていることを認識しており、ビートルズをクリエイティブの最先端にいられるように努力していた。幻覚剤には飛びつかなかったものの、マッカートニーはビートルズの中で最も革新的なメンバーだった。「ほかのメンバーはみんな結婚して郊外に住んでいた。僕に言わせればみんな保守的だったね」というマッカートニーはロンドンに住み続け、最新のポピュラー音楽だけでなく、アバンギャルドなアートや革新的な政治、哲学などにも視野を広げていた。マッカートニーは、バートランド・ラッセルの影響で反ベトナム戦争の立場を取るようになった。それに続きマッカートニーを通じて影響されたレノンは、アメリカのベトナム政策を批判するようになったという。

マッカートニーは、クラシック音楽の作曲家による画期的な電子音楽や、カールハインツ・シュトックハウゼン、ルチアーノ・ベリオ、エドガー・ヴァレーズなどの現代音楽家、フリージャズのサックス奏者アルバート・アイラーに興味を惹かれた。「これまで知らなかったあらゆるものを詰め込みたいんだ。人間は言葉を発し、絵を描き、文章を書き、曲を作る素晴らしい生き物さ。だから僕はほかのみんながどんな風にやっているのか全部知りたいんだ」とマッカートニーは語った。1966年初頭、マッカートニーと当時のガールフレンド、ジェーン・アッシャーは、彼女の兄ピーター・アッシャーと彼の仲間ジョン・ダンバーやバリー・マイルズによるインディカ・ブックス&ギャラリーの立ち上げを支援した。ここはカウンターカルチャーの中心地のひとつだった。マッカートニーはこのショップの最初の顧客となった。彼は夜になると新しい本をじっくり読み、興味を持った本はほかのメンバーにも届けさせた。

1966年4月、マッカートニーはレノンをインディカへ連れて行った。レノンはここで『チベットの死者の書―サイケデリック・バージョン(原題:The Psychedelic Experience: A Manual Based on the Tibetan Book of the Dead)』(ティモシー・リアリー、ラルフ・メツナー、リチャード・アルパート著)と出会った。この本の著者たちは、幻覚剤を使った医療の可能性と、潜在的な神秘性を持つものとしての両面から幻覚剤を研究した。8世紀の仏教の書を基に、幻覚剤による"自我の喪失"体験や、ドラッグから覚めた後の自我の再生について解説している。「過去の自分に対するいつくしみに執着してはいけない。昔の自分の信念を呼び起こそうと思っても、その時にはもうその信念を持ち続ける力はない。自分の直感や知力を信じ、仲間を信じなさい。疑念が浮かんだら心を無にし、リラックスして流れに身を任せなさい」という一節がある。レノンはショップでこの本を読みきり、ドラッグが彼に及ぼす影響を理解するための理論を習得した。

それから数日後レノンは、メンバーやプロデューサーのジョージ・マーティンらに新しい曲を披露した。『Mark 1(マルコによる福音書第1章の意)』と名付けられたこの曲は、後に『トゥモロー・ネバー・ノウズ(原題:Tomorrow Never Knows)』となった。曲は、「心を無にし リラックスして流れに身を任せなさい/怖くない これは終わりではない/邪念を捨て 無の境地に/明るく輝く 光が見える」と始まる。「よく聴いてみればわかると思うけれど、曲のコードは全部Cの1コードで構成されていた」と、マッカートニーは作家のハンター・デイヴィスに語っている。



この曲を作る際レノンはプロデューサーのマーティンに、「たくさんの僧侶がお経を唱えているようなイメージで」と伝えている。しかしビートルズの新しいエンジニアとなったジェフ・エメリックは、レノンのヴォーカルをレスリー・スピーカーに通し、エコーの効いた独特のサウンドを作り出した。レノンはトランス状態で、「天井から自分を吊るしてぐるぐる回りながら歌ったら、もっと面白い音が録れるのではないか」と言い出した(もちろん上手くいかなかったが)。当時はまだインド音楽に精通していなかったハリスンが、タンブラ(ドローン楽器のひとつ)を加え、うねるような独特なハーモニーを生み出した。さらにマッカートニーは、神が降臨してきた時のようなサウンドを思いついた。シュトックハウゼンの音楽にインスパイアされたマッカートニーは、ある日スタジオに前夜作ったという山ほどのテープループ素材を持ち込んだ。そこにはギターチューニング中の音や、悲痛な叫びのような声などが録音されていた。マーティンは、それらを逆再生させたりしながら音の素材を作った。アビー・ロード・スタジオでは、複数台用意したテープマシンそれぞれをEMIの社員に操作させ、それらを同時に再生させることで特徴的なおどろおどろしいサウンドに仕上げた。そうして寄せ集めで作った音源を、「夢の色を聴け/これは現実ではない 現実ではない」と歌うレノンのヴォーカルの裏で流した。

Translation by Smokva Tokyo

タグ:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE