柄本佑と中野裕太が語る、ポルトガルと日本を繋ぐ異色ミステリー制作秘話

──映画の話に戻りましょう。『ポルトの恋人たち 時の記憶』の台本を最初に読んで、どんな印象を持ちましたか?

中野:すごくドロドロした愛憎劇なんですけど、僕と佑くん、そしてアナ・モレイラが2つの違う時代の役を同時に演じることで、ちょっとした寓話的な仕上がりになっているんです。ラストシーンもファンタジックですし。でも、こういうことって意外に「起こり得る」とも思っていて。宗教やスピリチュアルな意味だけじゃなく、もしかしたら実際に宇宙は多元的で、時代というのも重層的に存在しているのかもしれないとか。

リアルな愛憎劇を堪能しつつ、そういうところに意識がフッと飛ぶようなファンタジックな印象を、最後に持ってもらえたらいいなと思いながら演じていましたね。おそらく監督も、そこを狙っているのでしょうし。

──アナ・モレイラさんについては、どんな印象をお持ちになりましたか?

柄本:目力のある、すごく芯の強い女優さんだなと思いました。あと、これは母国語ではない英語を話されていたからなのか、イントネーションがとても独特で、強く印象に残ったんですよね。妙な色気があるというか。一緒に演じていて、とっても魅了されたし楽しかった。

中野:そうですね。おそらく彼女がこれまで生きてきた中で、感じてきたことが呼吸の震え……“tremble”に表れるというか。そこにふわっと感情を乗せることのできる人で、それが佑くんの言ってたイントネーションにも通じるんだと思うんだけど。

柄本:そうです、そうです。

中野:そこがすごく魅力的でした。


©2017 『ポルトの恋人たち』製作委員会

──映画では中世と現代の2つの時代が描かれていますが、「現代」といっても「東京オリンピックパラリンピック後の日本」だから、実は近未来の話でもあるんですよね。

柄本:あ、そうですね。近未来の話だって、今気づきました(笑)。確かに、だから僕の住む社宅とかオフィスとか、レストランとかちょっと近未来感があったのか。

──映画の中では近未来の日本を割とペシミスティックに描いていますが、お2人は数年後の日本についてどう思っていますか?

中野:来年で元号も変わるじゃないですか。僕が思うに芸術にしても文明にしても、ある程度のことは20世紀に一旦「片がついた」という気がしているんです。バブルが弾けて、21世紀になって、インターネットが台頭して、今は一体どこへ向かおうとしてるんだろう?という、ある意味ものすごい転換期にいると思っていて。やがて平成が終わり、オリンピックを通過することによって、ある程度の「方向性」みたいなものが、ようやく見えてくるんじゃないかなという気はしてて。

──なるほど。

中野:この映画では、その時代を独特の「厭世観」でもって描いてますけど、「そういう見立てもできる、現在の浮遊感が面白いな」って思いましたね。僕自身は、この先の日本をそんなにペシミスティックに考えてなくて、もう少し明るい未来が待っているんじゃないかと期待してますけど(笑)。

そういえばこの間、サン=テグジュペリの『夜間飛行』を読んだんだけど、その気分に似ているかも。周囲が真っ暗で何も見えなくて、飛んではいるんだけど、どこに向かうか分からない、みたいな。明けたらどんな景色が待っているんだろう?って。きっとそれが、オリンピック後に少し分かる気がしています。

柄本:『夜間飛行』、めっちゃ面白そうですね。

中野:うん、面白いよ。夜間飛行している時の、どこに行くのか分からない独特の浮遊感って、役者をやってるとすごく共感すると思う。

柄本:なるほどね。確かに映画とか舞台って、一人で作るものではないし、もちろん台本はあるんだけど、実際に始まってみないと分からないところってありますよね。とりあえず暗闇の中を手探りで歩いていって、その一瞬一瞬の積み重ねの中で、どこかにたどり着くというか。

中野:そうだね。

──この映画を、どんな人に観て欲しいと思いますか?

中野:映画って、色んなきっかけになり得るものだと思うんですよね。単純に「誘い文句」のきっかけにもなるし、この映画なら「ポルトガル」という国を知るきっかけにもなる。ポルトガルの言語や景色、音楽を知るきっかけにもなる。それは、佑くんがオリヴィエラ監督の映画を観てポルトガルに興味を持つきっかけになったのと一緒じゃないですか。だから、この映画を観て何かしら次の行動を促すきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

柄本:ラストシーンで文字通り「実を結ぶ」伏線の回収もあれば、敢えて放ったらかしのエピソードなんかもあったりして(笑)、様々な解釈の出来る映画だと思うので、観終わった後に色々話し合ってもらえたら嬉しいですね。


『ポルトの恋人たち 時の記憶』
11月10日(土)、シネマート新宿 ・心斎橋ほかロードショー

出演:柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・ドゥランエス、中野裕太
製作:Bando á Parte, Cineric, Inc., Office Kitano
プロデューサー:ロドリゴ・アレイアス、エリック・ニヤリ、市山尚三
脚本:村越繁 撮影:古屋幸一 編集:大重裕二 音楽:ヤニック・ドゥズィンスキ
監督・脚本・編集:舩橋淳
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
配給協力:朝日新聞社
2018/日本=ポルトガル=アメリカ/139分/シネスコ/5.1
©2017 『ポルトの恋人たち』製作委員会

衣装クレジット:コート ¥110,000 HUNTING WORLD(ハンティング・ワールド帝国ホテル店) タートルネックニット ¥220,000 lucien pellat-finet(ルシアン ペラフィネ 東京ミッドタウン店) パンツ ¥58,000 ami alexandre mattiussi(アミ オモテサンドウ) ブーツ ¥90,000 PIERRE HARDY(ピエール アルディ 東京)

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