Koji Nakamuraが語る、音楽における「時間の感覚」と「価値」の話

「聴いたことのないもの」への関心

─「Epitaph」プロジェクトのテーマとして「自分の聴いたことのない、新しい音楽」、つまり「過去の引用がされてない音楽」を目指したと聞きました。

ナカコー:実は、前のアルバム『Masterpeace』(2014年)を作り終えて割とすぐにデヴィッド・ボウイが亡くなってしまって。さらにプリンスも立て続けに死んでいったことで、聴くものがなくなってしまったんです。自分にとってのオリジネーターが2人、この世からいなくなってしまったことは、かなりデカかったんですよね。彼らの音楽は、自分の中に息づいているのだけど、でも実際にはもう存在していないという。何を作っていいのかわからないというか。わかるのだけど、なんとなく音楽そのものに興味を失ってしまった時期が1、2年あって。

─そうだったんですね。

ナカコー:とはいえ仕事をしないわけにはいかないので(笑)、そういう気分で何となくやっていて。だとしたら、これからは自分で作って自分で心地いいと思える時間を増やしていくしかないなと思い至ったんです。もともと新しい音楽や、聴いたことのない音楽は作ってみたいし、そういう欲求はずっとあった人間なので、そういう思いが当時の心境とタイミングよく合致したんじゃないかな。だからとにかく新しい、巷に流れている音楽ではないものをやりたいなと。

─なるほど。ただ、作品そのものは決して聴き手を突き放していないし、むしろ心地よさを感じたんです。それって、ある意味では「懐かしさ」や「既視感」につながる要素なのかなと思うのですよね。全く未知のものだと、きっと人は拒絶感が先に来ると思うし。そのあたりのバランスは作る時に考えましたか?

ナカコー:「聴いたことのないもの」というのは、サウンドやメロディがというよりも、時間の感覚なのかなと思います。「聴いたことのないものを聴いているような時間だった」と思えるような体験であれば、サウンドがものすごく不思議だとか、そういうことでもないんだなと。

─そこは『2001年〜』の「体験」ともリンクしますよね。物語や映像がどうこうというより、あの時間と空間に埋没することに意味があるというか。

ナカコー:うん、そうですね。そういえば以前、iLL名義で『Sound by iLL』(2006年)というアルバムを作った時も、割と今と同じようなモードというか。「聴いたことのないものを作ってやろう」みたいな感じでした。ただ、あの時は割と攻撃的になっていましたね。音楽はあんな感じなのに(笑)、「怒り」みたいなものがモチベーションだったので、そこは今回とは違いますね。

─今回は、アレンジで「Madegg」ことコマツ・カズミチさんが関わっています。

ナカコー:ほとんど音楽を聴かなかった時期でも、Madeggくんの音楽はずっと聴いていて。というのも、彼は一際すごいアーティストだと思ったから。彼の音源を初めて聴いた時は、おそらく彼は20歳くらいの時だったと思うのだけど、その時から「ヤバイこの人」と思って、ずっと一緒に作りたいと思っていたんです。今回、アルバムを作るとなった時に「彼と作りたい」というのがまずあったくらいで。

─そうだったんですね。

ナカコー:なぜなら、彼が自分の楽曲をプロデュースすることによって、何か違った方向に持って行ってくれるだろうという確信があったから。そういう意味では、彼が今作で果たした役割はかなり大きいですね。僕自身も気づくことがたくさんあったし。

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