Koji Nakamuraが語る、音楽における「時間の感覚」と「価値」の話

言葉が「音楽」として機能している

─あと、作詞にArita shoheiさんを起用したのはどんな経緯だったのでしょうか。

ナカコー:Aritaくんとは、同じイベントに出ていて知り合ったんですけど、その時に彼はギターと歌だけのスタイルで。リハーサルで彼が歌い始めた瞬間、「この人、すごいいい歌を歌うな」と。普段、そんなことあまりないんだけど、言葉がすごく頭に入ってきたんです。しかも、その言葉が「音楽」として機能している。それで、初対面だったのだけど「歌詞を書いて欲しい」とすぐに頼んで。

─へえ!

ナカコー:最初に「Lotus」の歌詞が上がってきて。それを歌ってみたら何の違和感もなかった。自分の世界とAritaくんの世界は、すごく近い部分があると思いました。

─言葉が「音楽」として機能しているというのは?

ナカコー:今の音楽って、言葉がものすごく多いじゃないですか。それは自分としては辛いからいつもシャットアウトするのだけど(笑)、僕が本来、日本語の音楽でとてつもなく好きな部分は「間」なのですけど、Arita君はそこを意識しているから美しいと感じるのでしょうね。

─ところで、元々、CDリリースやダウンロード販売を想定しなかった「Epitaph」を、益子樹さんによるマスタリングを経てアルバム『Epitaph』として完成させるに至ったのは、どんな経緯だったのでしょうか。

ナカコー:このプロジェクトをスタートした2016年と比べると、ここ数年は特に「物体の価値」が少し変わってきたように思っています。「CDの見直し」という現象も、起こり得るのではないかと。5年くらい前からある、「CDなんて要らないんじゃないか?」という風潮が見直されつつある気がしますね。それは「物体」として最高峰にあるアナログレコードが返り咲いたというのも大きいと思いますね。アナログこそ、アーティストの表現形態として最高峰である、と。僕も『Epitaph』はアナログで出したいと思っているのだけど、してくれないだろうなあキューンは(笑)。

─あははは。

ナカコー:やっぱりどこかで人間は、モノにも愛情を持ちたいんじゃないかな。ストリーミングは公共性があり、誰に対しても平等なものです。でも自分で手に入れ、手で触ってということを、多くの人が今も求めている。

─「特別感」ですよね。

ナカコー:そこに気づけたのは、『Epitaph』プロジェクトをスタートしたからこそだと思いますね。

Koji Nakamura
ナカコーことKoji Nakamura。1995年「スーパーカー」を結成。解散後、「iLL」「Nyantora」やナカコー、フルカワミキ、田渕ひさ子(NUMBER GIRL/bloodthirsty butchers/toddle)、牛尾憲輔(agraph)からなるバンド「LAMA」で活動。その活動はあらゆる音楽ジャンルに精通する可能性を見せメロディーメーカーとして確固たる地位を確立し、CMや映画、ドラマの劇伴制作、アートの世界までに届くボーダレスなコラボレーションを展開。その他remixerとしても様々なアーティトを手がけ遺憾なくその才能を発揮している。そして、2014年4月には自身の集大成プロジェクトKoji Nakamuraを始動させ『Masterpeace』をリリース。現在は、「NYANTORA」、「LAMA」、ナスノミツルや中村達也と組んだ「MUGAMICHILL」、Merzbow、Duenn、Nyantoraによるノイズ・ユニット「3REASA」で活動しながら、アンビエント、実験音楽といった“レフトフィールドな音世界”を届けるイベント「Hardcore Ambience」を定期的に行っている。また日本作品として初めてフランス・カンヌ国際シリーズフェスティバル コンペティション部門に正式出品されたドラマ「潤一」の劇伴音楽とエンディングテーマ曲、「WOWOWオリジナルドラマ アフロ田中」の劇伴音楽とメインテーマ曲を担当。2017年4月より、音楽は有機的に変化するものをテーマにストリーミングプロジェクトを展開。2019年6月26日、5年ぶりのCD作品『Epitaph』をリリースした。
http://kojinakamura.jp/




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『Epitaph』
Koji Nakamura
ソニーミュージック
発売中

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